2019年の昇格後、ユリッチとトゥドールが9位→10位→9位とリレーし、一時はセリエA中位グループとしての地位を確立した感のあったエラス・ヴェローナ。
しかしながら、昨季は17位と低迷し残留プレーオフで辛くも残留を勝ち取る苦しいシーズンとなった。
これを受け、首脳陣は監督交代を決断。昨季昇格組レッチェを残留に導いたマルコ・バローニを招聘した。
迎えた23-24シーズン、ローマを破って開幕連勝スタートを飾り期待感が漂ったものの、その後は6試合勝利なしで8節終了時点で16位。今季も残留争いに巻き込まれそうな情勢だ。
バローニのエラスは一体どんなチームに変化し、どんな長所と課題を残しているのか。今回は23-24シーズンのエラス・ヴェローナを徹底的に解剖していきたい。
スカッド

GK&DF
GKは今季も守護神モンティポが君臨する。後ほど触れるが、彼の存在がなければヴェローナはもっと失点しているはずだ。
3バックは夏にアタランタがしつこく狙った対人の鬼ヒエン、同じく対人の鬼タイプでここまでフィールドプレーヤー唯一8試合720分フル出場中のマニャーニ、3バックどこでもこなせ、コッパイタリアではボランチとしてもプレーした万能型のダビドビチの3人がレギュラー格。ここにCB陣で最長身の頑強なコッポラ、WBもこなす機動型のアミオーネがバックアップする。
MF
WBで今や最も欠かせないのはU-21イタリア代表のテラッチャーノだ。右サイドが主戦場だが、ドイグ離脱後には左サイドに回してでも起用されている。そのドイグは夏にステップアップの噂もあった逸材で、彼が左の主力だ。ユリッチ&トゥドール体制時に主力だった実力者ラゾビッチ&ファラオーニがサブに控えるこのポジションは最も充実したセクションであるといえる。
ボランチ&トップ下は運動量に優れるホングラ、ハムシクの後継者とも言われた技巧派のドゥダ、昨季バーリでブレイクしたフォロルンショの3人がテッパンでスタートしたものの、ここ2試合は21歳のススロフが先発起用され、ホングラからポジションを奪いつつある。これに伴い、フォロルンショはトップ下からボランチに固定された。ドイツ代表歴のあるゼルダルはいまだ持てる実力を発揮しきれずにいるようだ。
FW
最前線の核となっているのがエンゴニエだ。昨季の昇格プレーオフでドッピエッタを決めて残留に貢献すると、いまや完全にエースとして君臨している。
一方で彼の相棒は定まっていない。アグレッシブなスタイルのボナッツォーリ、ほぼ2mの長身ポストマンであるジュリッチ、本来はウインガーのサポナーラとムボウラらが交代でスタメン起用されている状況だ。
戦術
前述の通り、現在16位に沈むヴェローナ。しかしながら、ここまでの失点数は首位ミランと並んでセリエAで5番目に少ないわずか8だ。
一方、得点数もこれまたセリエAで5番目に少ない5ゴールとなっている。
守備に長所がある一方で攻撃に課題があるのが今のヴェローナである。
それでは、それぞれの局面を詳しくみていくこう。
運ぶ局面
まずはヴェローナのパス関連のスタッツが非常に特徴的なので見ていきたい。
〈8節終了時点でのパス関連のスタッツ〉
- パス総数:3182(セリエAで2番目に少ない)
- パス成功率:72.2%(セリエA最小)
- パスで縦方向に稼いだ距離:17004.2(セリエA13位)
〈8節終了時点でのパス数(レンジ別)〉
- ショート:1062(セリエAで2番目に少ない)
- ミドル:1247(セリエAで3番目に少ない)
- ロング:703(セリエA2位)
これを言葉にして整理してみると、まずパスの数自体が少ない(成功率も低い)ことに対してに縦方向に稼いだ距離は長い。つまり、縦志向が非常に強い。
そしてレンジ別に見ると、ショートパス・ミドルパスはセリエA最少レベルであるにもかかわらず、ロングボール数はセリエA屈指の多さであり、超ロングボール志向ともいえるいびつな分布となっている。
ちなみに、これは昨季バローニが率いたレッチェのスタッツとも酷似してるので、参考までに例示しておきたい。
〈22-23 バローニ・レッチェのパス関連スタッツ〉
- パス総数:14358(セリエAで2番目に少ない)
- パス成功率:70.2%(セリエAで2番目に小さい)
〈22-23 バローニ・レッチェのパス数(レンジ別)〉
- ショート:5217(セリエAで2番目に少ない)
- ミドル:5229(セリエAで2番目に少ない)
- ロング:3015(セリエA4位)
バローニが求めるのはできるだけ早く敵陣にボールを送り込むことである。中盤で細かくボールをつなぐリスクを冒すくらいなら、多少雑でもいいから敵陣に長いボールを入れることを求める。その思想が両スタッツからよく表れている。
実際にヴェローナのビルドアップを見ても、横パスは必要最低限。それもすべては縦パスを送り込むタイミングを計るためで、タイミングが合えば速いタイミングで長いボールを送り込んで敵陣にボールを届ける。
相手のプレスが激しく最終ラインから縦パスを送れず、横にボールを動かすことも難しい場合は、GKにバックパスを戻してそこからロングボールを蹴らせる。とりあえず敵陣にボールを置き、そこからボールを回収すればいいという考え方だ。そのため、GKのロングパス関連のスタッツはリーグトップの数値となっている。
- GKロングパス数:190(セリエA最多)
- GKパスのロングパス率:57.3%(セリエAトップ)
- GKパス平均距離:39.7m(セリエA最長)
※ロングパス率に関しては、2位の42.7%に大差をつけている。
そんなヴェローナのビルドアップの中でも再現性があるのがボールを横に動かしWBにボールが渡ったタイミングで、中央にいたアタッカーがサイドに斜めに流れてボールを受けるというもの。特に相手のサイドバックの裏は彼らがロングボールを落とす目標地点として明確に設定されている印象だ。
リーグ屈指のポストマンであるジュリッチを最前線に置かず、エンゴニエをはじめ本来ウインガーの選手を前線に並べる選択をしているのも、バローニが相手最終ライン裏を直接突き、できるだけ早い段階で深さを取りたいとする志向の表れだと考えている。真ん中からサイドにウインガーを流れさせ、そこから仕掛けさせるのが狙いである。
↓ヴェローナのビルドアップの実例
崩す局面
敵陣にボールを運んだあとの局面である崩す局面は、ヴェローナの最大の課題と言える。
まずはデータを見てみよう。
- ゴール期待値:4.5(セリエA最小)
- シュート数:77(セリエAで2番目に少ない)
- シュート平均距離:18.4m(セリエA最長)
前述した通り貧打にあえぐヴェローナは、ゴール期待値がセリエA最小。シュート数自体も少なく、打ったとしても相手を崩しきれないまま遠くからのシュートを打つに終始していることがデータから読み取れる。
これまた昨季バローニが率いたレッチェと酷似している。
〈22-23 バローニ・レッチェのスタッツ〉
- シュート数:413(セリエAで4番目に少ない)
- シュート平均距離:17.2m(セリエAで3番目に長い)
- ゴール期待値:36.1(セリエAで3番目に小さい)
昨季から通して、バローニは組織として相手を崩す手段を有していないように見える。そのため、今季のヴェローナも崩しを個々のタレントに依存している。
主な武器はテラッチャーノ&ドイグの両ウイングバックの縦突破からのクロスボール、エンゴニエの単独での仕掛け、ドゥダのラストパスだ。
それでは、これを改善するためにはどうすればいいのか勝手に提案してみたい。
ひとつめの提言はジュリッチの重用だ。
まずは以下のデータを見てほしい。
- 空中戦総数:295(セリエAトップ)
- 空中戦勝率:49.2%(セリエA11位)
前述のようにGKからのロングフィードを多用するヴェローナは、空中戦総数が295でセリエAでぶっちぎりのトップだ(2位は249のアタランタ)。それに対し、空中戦勝率は必ずしも高くない。
対して、ジュリッチの個人スタッツを見てみると、
〈ジュリッチの空中戦勝率〉
- 18-19:69.2%
- 19-20:67.2%
- 20-21:78.2%
- 21-22:74.5%
- 22-23:77.6%
- 23-24:63.8%
と、常に70%近い空中戦勝率を誇り、直近6シーズンのアベレージは驚異の74.1%だ。様々なデータを日々漁っている筆者だが、こんな数値は他では見たことがない。
裏に抜け出すエンゴニエを走らせる以外に、空の王者ジュリッチに当てるという新たな選択肢を持てれば、相手はさらに対応が困難になるはず。彼の落としを受けたドゥダが前向きにボールを持てれば、チーム最大のチャンスメーカーをさらに輝かせることにもつながるだろう。現状クロスボールが主な崩しの手段となっていることを考えても、空中戦に無類の強さを誇るこのボスニア・ヘルツェゴビナ人を最前線に置くことの意味は大きいはずだ。
ここまで先発はわずか1試合だが、今後出番を増やしてくるか注目だ。
ふたつめはセットプレーの改善だ。
まずは下のデータを見てほしい。
- 被ファウル数:92(セリエA6位)
- セットプレーからのシュート創出:20(セリエA3位)
- セットプレーからのゴール創出:0
デュエルが頻発するスタイルゆえ被ファウルも多くなるヴェローナ。実際、セットプレーから生み出したシュートシーンはセリエA屈指だ。
にもかかわらず、それがゴールにつながった数は0である。
せっかくセットプレーの機会が多いのだから、ここから得点が取れれば貧打も大きく改善されるはずだ。セットプレーにパターンプレーを仕込む、やっぱりターゲットになれるジュリッチを起用するなど、さらなる工夫を重ねたいところだ。
攻→守の局面
多少雑にでも長いボールを放り込む戦術を採用するヴェローナにとって、ボールロスト直後に発生する攻→守の局面は頻発する局面であると同時にカギを握る局面でもある。
しかしながら、この局面に備えた配置の工夫等は見られないのが現状である。

このため、選手個々に、とりわけ2ボランチにデュエルに勝利することが求められている。
〈地上デュエル勝率(SofaScoreより)〉
- ホングラ:63%
- ドゥダ:61%
- フォロルンショ:47%
とくに目を見張るのはドゥダだ。チーム最大のチャンスメーカーながら、地上デュエルでも奮闘。攻守両面で欠かせない大黒柱に成長している。ススロフをトップ下に置き、ややデュエル勝率が落ちるフォロルンショをボランチに置くという選択も、守備面でも計算できるドゥダあってこそだろう。

奪う局面
ヴェローナは非常にアグレッシブに前線からボールを奪いに行くチームである。これは昨季のレッチェとも共通していて、バローニが率いるチームはアグレッシブなプレッシングを身上とするのだ。
- タックル数:129(セリエA7位)
- タックル勝利数:80(セリエA5位)
- ファウル数:145(セリエAトップ)
- イエローカード数:19(セリエA6位)
- ボール回収数:470(セリエA2位)
- クリア数:166(セリエA3位)
バローニのプレッシングの原則は完全なマンツーマン。それぞれが担当のマークを持ち、そこにボールが入れば距離を詰めてデュエルを仕掛け、ボールを奪おうとする。

そのため、ロングボールでひっくり返されたときには最終ラインの面々がオープンスペースで1対1を強いられることになる。ここで勝利すべく、ヴェローナのCB陣はいずれもフィジカルだけでなく機動力にも優れるタレントが起用されている。

ヴェローナにとってこの局面は武器となっている。原則が単純ということもあってチーム全体にマンツーマンの原則が浸透しており、相手に自由を与えない。
ボールを奪ったところからの素早いショートカウンターもバローニのチームの狙いであり、守るという以上に相手を敵陣で迎撃するという意味合いが強い。
対戦相手にとって、安易なプレーは命取りとなってしまうだろう。
守る局面
一方、自陣に押し込まれた後の守る局面ではどうだろうか。
ここで、ヴェローナの今季のタックル数をエリアごとに見てみたい。
〈タックル数(エリア別)〉
- ディフェンシブサード:64(セリエA7位)
- ミドルサード:49(セリエA10位)
- アタッキングサード:16(セリエA6位)
通常、タックル数のエリア別データではどこかのエリアで相対的な数値が極端に大きくなったり小さくなったりするものだが、ヴェローナのデータはどのエリアでも均一な分布となっている。
つまり、全エリア迎撃がバローニのヴェローナの特徴となる。
これは、バローニが敵陣だけでなく、自陣に押し込まれてもマンツーマンの原則を変えず、自分のマーク担当にボールが入ったら厳しい寄せにより相手の自由を奪うことを求めているからだ。

マンツーマン戦術では、個々人のマーク担当が決まっており相手に自由を与えにくいというメリットがある反面、誰かが1対1に負けたらすべての前提が崩れてしまうというデメリットも抱えなければならない。
対人に強い選手をそろえているヴェローナと言えどすべてのデュエルの勝利することは困難であるため、どの試合でも危険な場面は作られている。
- 失点期待値:9.0(セリエAで10番目に小さい)
と、残留争いのチームとして考えれば十分合格点の失点期待値に押さえてはいるものの、実失点数から比べると失点期待値は大きいといえる。
つまり、守護神モンティポの活躍なしに今の堅守はありえないということだ。
〈モンティポの個人スタッツ〉
- セーブ数:24(セリエA5位)
- セーブ率:78.1%(セリエA3位)
- ペナルティエリア外での守備アクション数:15(セリエA2位)
セーブ数、セーブ率ともにセリエA屈指の数値を残すセーバーは、スイーパーとして相手がペナルティエリア外に送り込んだロングボール処理にも奮闘するなどチームのハイライン戦術を支えている。
運ぶ局面の項でも触れた通り、ロングボールの供給源としても機能するモンティポは、チームに最も欠かせないタレントだといえるだろう。

守→攻の局面
低い位置でボールを奪った時の守→攻の局面でも、バローニが求めるのはできるだけ敵陣深い位置にボールを送り込むことで変わらない。前線に並べた快速アタッカーを素早く走らせて敵ゴールに迫る。
特に、エースのエンゴニエは驚異的なスピードの持ち主であり、一度裏に飛び出せれば相手にとっては対応は困難だ。そこからの仕掛けも得意とするところで、切れ味鋭い切り返しからフィニッシュを見舞う。ローマ戦の2点目は典型的な場面だ。

あとがき ~今後の展望~
ここまで見てきたように、超ロングボール志向×マンツーマンによるデュエル重視戦術を採用するエラス・ヴェローナ。その真価は、相手が格上であるときほど発揮される可能性が高い。
実際、昨季のバローニレッチェは7強+フィオレンティーナの上位陣との14試合で3つの勝利と4つの引き分けをつかんでおり、半分近い確率で勝ち点を得ている。今季も第2節でローマを喰ったことは周知の事実だ。
ビッグクラブとの対戦でこそ注目のクラブだといえるだろう。
また、ヴェローナはタレントの名産地でもある。
下に、2018年の昇格後にヴェローナが輩出した主なタレントをフォーメーションの形で示す。

ご覧の通り、セリエA上位クラブに多くのタレントを送り込んでいるのだ。
今季のスカッドでいえばドイグ&テラッチャーノの両WBにエースのエンゴニエ、ナポリが所属元のフォロルンショは来夏のステップアップ候補だろう。最近出番が増えてきたススロフも今後の活躍次第ではここに加わってくるだろう。
タレントに注目するという意味でも、ぜひヴェローナの試合を見てみてほしい。