ASローマでモウリーニョが迎える「逆襲の3年目」【チーム戦術詳解】

モウリーニョには、3年目のジンクスがあるといわれている。1年目に下地を固め、2年目に黄金期を迎え、3年目に成績が下降し解任されるというものだ。実際、レアル・マドリード時代からマンチェスター・ユナイテッド時代まで、このジンクス通りの結末を迎えてきた。

そして、ASローマを率いて3シーズン目を迎えた23-24、ローマは開幕6試合で1勝2分3敗という最悪のスタートを切る。6節終了時点での順位は16位だ。

やはり3年目のジンクスはローマにも襲いかかるのか…と思われたが、ここからローマはV字回復。直近のリーグ戦11試合を7勝2分2敗で駆け抜け、CL出場圏内まで勝ち点3差の6位まで順位を上げてきた。

その内容に目を向けても、ここ数シーズンのローマに見られた課題に対する修正が見られ、中身もポジティブなものであるといえる。

「逆襲の3年目」となる雰囲気を醸し出すモウリーニョのローマ、その戦術を徹底的に分析していく。

 

 

スカッド

ローマの基本布陣は3-5-2。

GKはルイ・パトリシオが不動で、3バックはエンディカ-ジョレンテ-マンチーニの並びがこれまた不動に。昨季柱だったスモーリングは負傷離脱している間にジョレンテが中央に定着した。CBは枚数自体が足りておらず、クリスタンテが最終ラインに入って穴を埋める時期もあった。

中盤はアンカーのパレデス、右インサイドハーフのクリスタンテが不動で、左インサイドをペッレグリーニとボーヴェが分け合っている。新加入のアワール、レナト・サンチェスは上積みをもたらせずにいる状況だ。

ウイングバックは最も選手が入れ替わっているポジション。右はクリステンセンが出番を増やしているが、カルスドルプ、チェリクも一定の出場機会を得ている。左はスピナッツォーラが万全なら彼がファーストチョイスだが、離脱が多くザレフスキやエルシャーラウィも起用されている。

2トップはルカク&ディバラがテッパンコンビで、彼らが戦術の軸だ。しかしながらディバラは特に離脱が多く、アズムンやベロッティも一定の出場時間を得ている状況だ。

 

 

運ぶ局面

縦の段差

運ぶ局面におけるローマの目的はディバラの足元にボールを届けることだ。そのために配置やボール循環ルートも考えられている。

最終列は3バックがそのままつとめる。ただし、左のエンディカはペナルティエリア幅に収まるくらいまでしか広がらない一方、右のマンチーニはアウトサイドレーンに足を踏み入れることも多く、全体に右寄りな配置と言える。

右寄りなのは2トップも同じで、ディバラが右インサイドハーフ化し、1トップと化すルカクも右サイドに流れてくる。左サイドの縦幅はスピナッツォーラに任されることとなり、配置を数字で表すなら3-2-4-1のような形となる。

保持時のローマのイメージ

このように、右サイドに人を集めて相手の守備の基準点を乱しながら、右ハーフスペースもしくはアウトサイドに流れたディバラの足元にボールを届け、カットインしながらタクトを振るってもらうというのがローマの狙いである。

ここで欠かせない存在となっているのがクリスタンテルカクだ。

足元にボールを引き出すため、空いたスペースにフリーダムに顔を出しまくるディバラを見て、立ち位置を微調整しながらバランスを保っているのがクリスタンテ。目立たないが、チームへの貢献度は絶大だ。

外から内に侵入するディバラに連動し、ステップを踏んでボールホルダーのマンチーニに対する角度を広げるクリスタンテ。この動きを認識したトルストフェットは、クリスタンテを背中で切るようにコースを修正しながらプレスをかける。
そのことによってディバラへの縦パスのコースが開通した。このような効果的なオフ・ザ・ボールの動きがクリスタンテの魅力のひとつだ。

自由な選手がいるとその周辺はカオスに陥りがちなのがサッカーの常だが、そんな中でチームに秩序を与えているクリスタンテは替わりが効かない。

立ち位置で相手を惑わせつつバランスを取って攻→守の局面に備え、またディバラがマークされたときには第2の心臓としてタクトを振るうなどボールを持った時のプレーにもソツがない。

 

〈クリスタンテのデータ〉

  • アシスト数:2(チーム3位タイ)
  • キーパス数:13(チーム3位)
  • ファイナルサードに届けたパス数:88(チーム内トップセリエA8位
  • ボールリカバリー数:102(チーム内トップセリエA7位

 

さらに、ディバラとコンビを組むルカクの存在も欠かせない。

背負いポストに関しては第一人者ともいえるルカクは、雑なロングボールでも収めて時間を作ってしまえる。降りていくディバラが空けた右サイドのスペースにルカクが流れてくることにより、ディバラとマッチアップするCBは背後が気になってディバラに対して強く出て行きづらくなる。

もしディバラにマークがついてきたら、最終ラインからルカクへのフィードで一気に深さをとるプレーもまたローマのビルドアップの選択肢になっている。

こうして右サイドに縦の段差を作ることで、ディバラの足元にボールを入れるか、ルカクに深さを取られるかという困難な2択を相手に突きつける。

 

↓右に流れたルカクへの一発のフィードで深さを取り、そこから得点に至ったシーン

 

役割の変換

さらに、ディバラが引いたタイミングで左のインサイドハーフが高い位置をとる連動も見逃せない。

ディバラがMF化し、左インサイドハーフがFW化することで役割の変換が行われる。このことによって、相手のディバラへの対応をより困難にしている。

後方から上がってくる選手は捕まえづらい。ルカクが流れたことで空いたスペースを左インサイドハーフが突く形は、ローマの攻撃にとって重要なパターンとなっている。

先ほどの場面。降りるディバラと連動して、前線へと駆け上がっていくボーヴェ。
2トップの一角と化したボーヴェは、ルカクにつられた相手右CBの背後から飛び出し、ディバラからのスルーパスを引き出してフィニッシュに至った。

 

スピナッツォーラのアイソレーションと3つの砲台

このように、右サイドに人数を割いて攻撃を行うローマ。いわゆるオーバーロードによって数的優位を作り、それによってディバラの質的優位性を増幅させようとするアプローチだといえる。

そうはさせまいと相手が人数をかけてローマの右サイドをつぶしに来た時はどうだろう?この時に効いてくるのが左サイドに張っているスピナッツォーラの存在だ。

右で行き詰った時はいったんバックパスを入れ、前向きにボールを受けた最終ラインの選手が対角線のロングフィードをスピナッツォーラに届ける。そうして得意の仕掛けを引き出すというのもローマの得意とするパターンとなっている。

最終ラインのマンチーニとジョレンテ、中盤低めの位置に構えるクリスタンテの3名はいずれも高精度のフィードを装備しており、かれら3人がすべて潰されている展開はなかなかない。

砲台が複数あり、出所をつぶすことが困難であることもまたローマのビルドアップの威力を高めているといえる。

 

スピナッツォーラへのサイドチェンジからフィニッシュに至った場面

 

 

崩す局面

ローマは運ぶ局面と崩す局面で陣形の変化がほぼないことが特徴である。つまり、ビルドアップ部隊が前線に上がってきて攻撃に変化を加えることがあまりない。最近は当たり前になってきた3バックのサイドの選手の攻撃参加はほぼ見られない状態となっている。

そのため、運ぶ局面で得た優位性をそのまま崩しにも用いていくことになる。

 

ローマの主な崩しのパターンは2つだ。

1つは中央での連携。ここでも核はディバラだ。右サイドからカットインするようにボールを持ちこみ、ラストパスや連携からのフィニッシュを狙う。

運ぶ局面で中盤に下がったディバラの前には、ワンツーパスの受け手となれるルカクと、中盤から駆け上がってきた左インサイドハーフの2人がいて選択肢を与える。さらに、外側からはウイングバックが追い越してきて、後方にはクリスタンテが構えてやりなおしの選択肢となる。ディバラの周りに人を集めることで、彼の得意とする連携からの的を絞らせない攻撃を実現させる。

 

もう1つはスピナッツォーラの仕掛け。EURO2020で世界的に知られることとなった通り、仕掛けられるウイングバックとしてリーグ屈指の実力を持つスピナッツォーラは、積極的なドリブルでチームにとってなくてはならない存在となっている。

スピナッツォーラにボールが渡った時、ピッチ中央でディバラ付近に集まっていた選手たちがそのままゴール前に殺到してクロスボールのターゲットとなるとともに、それによって押し込まれた相手最終ライン手前でディバラがフリーになりやすい構造となっている。スピナッツォーラに預けた後の設計がなされているのもまた憎いところだ。

 

 

攻→守の局面

昨今のサッカー界では、攻→守の局面においていち早く相手からボールを奪い返し、ボール保持局面に復帰することを狙うのがトレンドだ。しかし、ローマの狙いはそこにはない。

ボールに近い選手が軽く寄せていって相手の前進を妨害するとともに、味方にポジションを整える時間を与える。その間に各選手が素早くリトリートし、5-3-2の陣形を整えることが狙いとなる。

ここら辺の保守的な姿勢はモウリーニョのチームらしさが出ているといえる。

 

 

非保持局面

続いて、奪う局面と守る局面を合わせて、非保持局面としてみていきたい。

というのも、昨季と比べると明らかな変化がみられるのがこの局面なのだ。まずはデータを見てみたい(数値はすべて90分あたり)。

 

〈昨季のデータ〉

  • タックル数:16.4(リーグ7位)
  • タックル勝利数:8.95(リーグ14位)
  • ディフェンシブサードでのタックル数:7.92(リーグ10位)
  • ミドルサードでのタックル数:6.76(リーグ5位)
  • アタッキングサードでのタックル数:1.74(リーグ14位)
  • ブロック数:10.3(リーグ13位)
  • インターセプト数:9.68(リーグ4位)

〈今季のデータ〉

  • タックル数:17.1(リーグ3位)
  • タックル勝利数:10.1(リーグ3位)
  • ディフェンシブサードでのタックル数:7.41(リーグ10位)
  • ミドルサードでのタックル数:7.51(リーグ1位)
  • アタッキングサードでのタックル数:2.07(リーグ6位)
  • ブロック数:9.19(リーグ18位)
  • インターセプト数:6.07(最下位)

 

タックル数を見ていくと、今季は昨季より90分あたり0.7回伸びており、リーグ内順位でも上昇。タックル勝利数を見ると、昨季リーグ14位からリーグ3位にまでジャンプアップしている。

エリアごとの内訳を見ていくと、ミドルサードとアタッキングサードでのタックル数上昇がこの変化をけん引していることがわかる。特にアタッキングサードでのタックル数は、昨季リーグ14位から今季は6位にまでジャンプアップしている。

高い位置での守備アクション数が増加している、フランクに言えば前から守備をすることが多くなっているのだ。

 

今季のローマは、まずは2トップ+中盤の1枚(多くの場合左インサイドハーフ)で相手の中央に配置された選手を捕まえる。4バックならCB+アンカー、3バックならCB3枚にマンマークをつけるわけだ。そうしてサイドに誘導し、ここにWBが出ていって迎撃する。

ちなみに、このやり方はアタランタが採用しているプレッシング方法だ。

その他のポジションにおいてもマンツーマンの色が濃く、昨季と比べてもHVが高い位置まで出ていって引いたアタッカーにデュエルを仕掛ける場面が多く見受けられる。

たとえば、右HVマンチーニの90分あたりミドルサードタックル数は昨季の0.28から今季は0.40へ1.4倍増加している。

 

この人に対する志向性はインターセプトのデータを見てもはっきりとわかる。昨季のインターセプト数はリーグ6位の数値だったが、今季はこれが最下位となっているのである。

スペースを埋めることを意識したゾーンディフェンスでは、待ち構えたところからパスをカットすることでボールを奪うことが多くなるため、必然的にタックル数が抑えられてインターセプト数が大きく上回ることになる。昨季のローマはこれにあたり、5-3-2ゾーンでしっかり構えたところからの守備を行っていた。

それが、今季はマンツーマン基準で人への意識を強めている。これがデータにもはっきりと表れているわけだ。

 

では、なぜそうなるに至ったか。個人的には、スモーリングの離脱が大きかったと読む。

跳ね返し性能に関してはおそらくセリエAトップである彼は、昨季のローマ躍進の立役者の一人だった。彼がいれば、後方に構えてじっくりと相手が焦れるのを待っておけば、最後には跳ね返してしまえる安心感があった。

離脱した彼の後を継いでCBに収まったジョレンテは、スモーリングほどの跳ね返し性能はないものの、高いビルドアップ能力と機動力においてスモーリングに優れており、ポジショナルCBに分類できる。

スモーリングを失いジョレンテをセンターに据えた今、この守備戦術の転換は理にかなっている。

自陣に押し込まれた後の守る局面においても人への意識は強まっている

昨季は後方の危険なスペースを埋めることを最優先としたゾーンディフェンスを行っていたローマだが、それによってMF陣に任される守備範囲が広すぎ、ほころびが出て陣形に穴が開く場面が見られたのが昨季の課題だった。

それが、今季は自陣でもボールホルダーに対して必ずマークを担当する選手が出て行き、時間を奪うように意識が明確に変化している。

結果として、盛り返した7節以降の11試合で複数失点はボローニャ戦の1試合のみ。この期間の1試合平均の失点数は0.64で、その数値はリーグで2番目に失点が少ないユベントスの数値とほぼ同等だ。

 

人への意識を強め、昨季とは異なるアプローチで堅守を構築することに成功しているモウリーニョだが、強豪との対戦だと昨季に逆戻りすることもしばしば。これは彼の哲学に関することなので変わりそうにないのだろうけど、個人的にはそのまま勝負してしまってもいいのではないか、と思う。

 

 

守→攻の局面

ボールを奪った後、守→攻の局面でも重要なのはディバラだ。

まずは下の動画を見てほしい。

ディバラにボールが渡ってからファウルを受けるまで、後方からの追い越しがない所から画面内にローマの選手がほとんど現れない。

おそらくだがこれは意図的なもので、ディバラが相手を剥がしたことがカウンター発動の合図になるという原則が採用されている。

自陣ゴール近くのスペースを空けることを嫌うモウリーニョらしい、これまた保守的なアプローチだといえる。

 

課題は個への依存度に

この原則に応え得る個人能力を持つディバラだから成立する原則だが、彼がいない試合では、だれがディバラ役をやるのか問題が発生してしまう。

これは保持局面のディバラ役についても同じことが言え、さらに言えばスピナッツォーラやルカクと言ったその他のキーマンについてもしかりだ。

たとえば、ディバラを負傷離脱で欠いたボローニャ戦では、エルシャーラウィがディバラ役として設定された。

左からカットインしつつボールを持つことが得意な彼に合わせて、チームもこの試合では左にオーバーロードしていた。しかしながら、失礼を承知で言えばディバラと比較したときのエルシャーラウィのクオリティの落差がチームにも影を落としてしまっていた、と言える。

さらに、左にオーバーロードしたことで広大なスペースを得たときに輝くスピナッツォーラの強みもぼやけてしまう結果となった。

モウリーニョがキーマンに設定するディバラスピナッツォーラはケガが多い部類の選手でもある。彼らが欠けたときにどうするか。個を活かす戦術を採用したときの永遠のテーマが、ローマにもまたのしかかる。

ここが、シーズンを通したローマの安定感を左右するテーマなのではないだろうか。

 

あとがき

筋の通った戦いぶりで調子を上げてきたローマ。リーグ戦でのCL出場権獲得、そしてELでの優勝争いを見込めるシーズンとなっていきそうな雰囲気だ。

しかし、忘れてはならない事実もまたある。ここまでミラノ勢にともに敗れ、ラツィオとのデルビーでは引き分け。フィオレンティーナ、ボローニャも含め、強豪との対戦で今季いまだ勝利がないのだ。

そんなローマは17節からナポリ、ユベントス、アタランタ、ミランと強豪4連戦という鬼の日程を迎える。真価が問われるのはここからだ。

再び「3年目のジンクス」が顔をのぞかせるのか、それとも「飛躍の3年目」を誇示するのか、モウリーニョ率いるローマの戦いぶりに要注目だ。

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