ゴールキーパー

開幕スタメンを飾ったカプリーレがすぐさま負傷離脱し、ベリシャがゴールマウスを守る時期も長かったエンポリ。
ベリシャはビルドアップ能力の高さを見せ、チームへの貢献度も高かった。この点では、カプリーレに対して明確な優位性を持っているといえる。
一方、カプリーレはベリシャほどのビルドアップ能力は持っていない一方で、相手のシュートをはじき出す能力に関しては優れたものを持っている。
ダビデ・ニコラ就任後チームは重心を落としており、ビルドアップへの貢献よりもセービング能力が求められている。カプリーレの資質はニコラが求めるものそのものなのだ。
エリア・カプリーレ

カプリーレは、地元のアマチュアクラブでサッカーを始めた、当初からブッフォンにあこがれており、スクールのこーりにフィールドプレーヤーとしてプレーするよう言われると泣いていやがるほどゴールキーパーにこだわっていたという。
その後キエーボの下部組織に移って技を磨いたカプリーレは、当時プレミアリーグに所属していたリーズ・ユナイテッドとプロ契約を果たす。
しかし、結局プレミアでの出場機会がないままにセリエCのプロ・パトリアにレンタルされてプロデビュー。翌年にはバーリに完全移籍し守護神に定着、そのシーズンのセリエBで最も優れたGKのひとりという評価を手にした。
これを受けて注目されたカプリーレは、昨夏にナポリ出身の父の影響で加入を望んでいたSSCナポリと契約、即レンタルという形でエンポリでプレーしている。
エンポリ加入後、すぐに開幕スタメンに抜擢されたカプリーレだが、第1節終了後に負傷してしまい、一時は定位置をベリシャに譲っていた。しかし、年末に再びスタメンに定着して以降、ハイパフォーマンスを継続している。

上のランキングで、カプリーレは4位にランクインしている。5大リーグ全体で見ても6位タイのセーブ率を誇るカプリーレは、今季のセリエA全体で見ても優れたGKだと言って差し支えないだろう。
カプリーレの最大の武器はポジショニングである。
カプリーレはそこまで派手なセーブが多いタイプではない。これは、常に適切なポジショニングをとっているために大きく飛ばなくてもセーブできるからだ。
カプリーレはサイドからのセットプレー時に、かなりゴールよりも前に出たポジショニングをとる。クロスボールに対して出ていくためだ。
ここから、自分が届かないボールが入ってきたときにポジションを取り直すのが速い。すぐさまゴール中央に戻ってシュートに備える。
また、出ていく、出ていかないの判断も適切で、クロスボール処理に対して積極的なタイプであるにもかかわらず安定感がある、珍しい選手だ。





また、1対1の場面では思い切った飛び出しでセーブする。
相手のタッチが大きくなった瞬間に素早く距離を詰めて一気にシュートコースを消す。どのタイミングで飛び出すかの判断、飛び出しながらも面を作ってシュートコースを消す技術面でも非常に完成されているといえる。
ゴールプロテクトの面で課題と言えるのはボールをはじく方向くらいだろうか。自分のセービングのこぼれ球を再びシュートされる場面が散見される。
安全な方向にはじき出すことができれば防げるピンチも少なくない。ここが向上してくれば、さらに穴のないGKになるはずだ。
また、ビルドアップへの貢献に関しては要改善だ。
足元のテクニックが特別に低いわけではない。ショートパスは球質もよく、ビルドアップに参加する姿勢も持っている。
問題は、プレス耐性の低さだ。安全につなげる味方がいる場面でも、長いボールに逃げてしまう場面が多くみられている。そのロングボールの精度に関しても要改善だろう。
ただ、判断力やプレス耐性に関しては後天的に鍛えられる要素だ。今後置かれる環境次第では、簡単に改善できるはずだ。
すでにセービング能力に関しては非常に高いものを持っているカプリーレ。いまナポリのスカッドに入っても、スタメンを奪取できる可能性は十分にあると見る。
ナポリがパスを持つだけに、シーズン終了後の身の振り方にも注目だ。
エトリト・ベリシャ

エトリト・ベリシャは現アルバニア代表の正守護神にしてキャプテンだ。
コソボの首都プリシュティナでアルバニア人の両親のもと生まれたベリシャは、8歳の時に地元のサッカークラブ、KF2コリクでサッカーを始めた。当初は背番号を7を背負ってプレーする左サイドアタッカーだったそうで、のちにGKに転向している。
その後、当時非公認だったコソボ代表のコーチの伝手でスウェーデンリーグのカルマルFFのトライアウトに参加し合格を掴んだベリシャは、そのままスウェーデンでプロデビュー。3シーズンを戦い、最終年の2013年にはスウェーデンリーグ最優秀GKに選出されるなど活躍。その後2013年夏にラツィオに移籍して以降、11年間をセリエAで過ごしている。
なお、ラツィオ加入時にベリシャはひと悶着起こしている。
夏のメルカート期間中だった7/31、キエーボがベリシャと契約したと公式発表したものの、ベリシャ自身が「合意はしたが、契約はしていない」と否定したのだ。そしてその1ヵ月後、ラツィオとの契約を発表したのだ。この件をキエーボがFIFAに提訴し、出場停止処分が下るかどうかという論争が繰り広げられた。
結局この提訴は取り下げられ、ベリシャは13-14のセリエA外国人年間最優秀GK賞を受賞することになった。
つい先日35歳の誕生部を迎えたベリシャ。平均年齢が高いGKにあってもベテランの域に差し掛かっているベリシャだが、そのプレースタイルは非常に現代的だ。
まず、ビルドアップでの貢献度が高い。積極的にCBの間に入ってボールを受け、循環させていく。プレス耐性の高さは特筆もので、相手にプレッシャーをかけられてもボールを持つことでCBにパスコースを作る時間を提供する。そしてパスコースの開通を待ってパスを通し、雑なクリアに逃げることを回避するのだ。
そればかりか、引いてきた2列目のアタッカーにくさびを供給し、プレスを打開することまでやってのける。


モダンGKの走りであるエドウィン・ファン・デル・サールがロールモデルであると語るベリシャ。その言葉通り、セリエAでプレーするベテランGKとしては最もモダンなプレースタイルを持つプレーヤーだと評価できる。
ちなみに、テクニックに自信があったベリシャはスウェーデン時代にはPKキッカーを務めており、3シーズンで4得点を記録している(すべてPK)。
また、スイーパーとして最終ライン裏をカバーするプレーもお手のもの。積極的に飛び出して処理する。クロスボールに対する飛び出しも積極的だ。
たとえば、年齢が一つ上のルイ・パトリシオが典型的なゴールライン型のGKであったのと比較すると、ベリシャがいかに先進的なスタイルだったかがわかるだろう。
また、セービングに関しても悪くはない。 特に至近距離からのシュートに対する反射神経は素晴らしい。キャリア終盤に差し掛かった今も衰えは見られない。
一方で、課題となっているのが1対1対応とディストリビューションだ。 1対1になった時、ベリシャは股を閉じるように内またで座り込むようにしてブロッキングを行う。足元を通されないことを優先にするスタイルだ。
このスタイルだと、足元を通されにくい一方で作れる面の面積が狭くなってしまう。両脇をシュートが通されやすい状態となってしまうのだ。そのため、1対1になった時に跳ね返す確率が低くなっている。ベリシャは線が細いので、その間を抜かれないためにこうしたスタイルをとるのは仕方がないのだが…。
また、ディストリビューションに関しても課題が残る。足を抜いて倒れ込むまでのモーションが遅く、処理しきれない失点が散見されるのだ。
カプリーレがケガから復帰して正守護神の座を明け渡しているベリシャだが、まだまだ正守護神としてやれるクラブがあるはずだ。安価で獲得できる第2GKを求めているクラブにとっては優良案件だろう。キャリアの最期をどこで迎えるのかも注目したい。
センターバック

エンポリのCB陣は、3人全員がレジスタCBというプロビンチャにおいては珍しい構成となっている。全員が足元のテクニックが高く、ビルドアップ時に組立において重要な役割を果たせる選手だ。
ゆえに、エンポリは長いボールによる前進ではなく、後方からの丁寧な組み立てをチームとして志向している。元CB陣の特性を考えれば妥当な選択だろう。
特にヴァルキエビチとルペルトはリーグ全体で見てもハイレベルなビルドアップ能力の持ち主。ビッグクラブでも見てみたい存在だ。
セバスティアーノ・ルペルト

セバスティアーノ・ルペルトは5歳の時にサッカーを始めた。当初は左ウインガーとしてプレーしていたらしい。
そこからレッチェユース時代に左サイドバックにポジションを下げ、最終的にナポリでプロデビューするころにはセンターバックにポジションを移していた。この出自が、現在のプレースタイルの基盤となっているのだろう。
ルペルトはプロ契約後レンタルでの武者修行に励み、2つ目のレンタル先であるエンポリのセリエB優勝に貢献した。しかしながら、ナポリでは第4CBの地位から挽回できず、20-21のクロトーネを経てエンポリへと活躍の場を移して現在に至っている。
エンポリ復帰後3シーズン目、17-18を含めると4シーズン目となるルペルト。現チームのキャプテンを務める通り必要不可欠な存在となっており、今季はここまでリーグ戦全試合フル出場中という大黒柱だ。
ナポリ時代のチームメイトだったラウール・アルビオルから影響を受けたと語るルペルト。たしかに、そこまでフィジカル的には優れていないところ、ビルドアップに優れているところは相通じる部分だ。
もともとは攻撃的なポジションでプレーしていただけあって、ルペルトの足元のテクニックは高水準だ。左足から繰り出すパスによって攻撃陣を操る最終ラインのレジスタとして機能している。


ダビデ・ニコラ政権に移行後3バックの左をベースポジションとするようになったルペルトは、左サイドに大きく広がり、左サイドバックの位置から攻撃を操るスタイルを確立した感がある。
1列前にはチームの崩しの切り札カンビアーギがおり、彼と左ウイングバックがインサイドとアウトサイドを入れ替わりながら相手のマークを混乱させ、ルペルトが適切な選択肢を見出して縦パスを供給する、というのがエンポリのビルドアップの形として定着している。
↓ タッチライン際に開いたルペルトが、カンビアーギと入れ替わりでインサイドに侵入した左WBギャシにラストパスを供給した場面。
ルペルトは特段フィジカル能力に優れているわけではない。特に、スピードに関してはトップクラスと比較すると見劣りする。しかしながら、それを補うクレバーさを武器に、相手のエースとも堂々と渡り合う。
特に目立つのが予測力の高さ。相手の縦パスを認知してインターセプトを決めたかと思えば、ライン裏に出てきたボールに対し先回りして対応する。
ボール回収数チーム内2位、クリア数セリエA3位というスタッツが彼の先回り能力をよく表している。
また、相手アタッカーとコンタクトする場面では体の使い方のうまさが際立つ。体をぴったりとくっつけて相手の動きを制限してから頭で跳ね返したり、少し後ろから押してバランスを乱したりと、細かい駆け引きにたけている。
タックル技術も確かで、正確にボールを捉えるためラフなファウルがすくない。ここまでリーグ戦全試合にフル出場しながらイエローカード3枚は立派な数字だ。
個人的には、セリエAでCL出場権を争うようなクラブでも十分にスタメンを張れる器だと考えている。まだそこまでのすごみはないとはいえ、タイプ的にはアチェルビに非常に似ている。ゆえに息の長い選手になりそうな予感だ。
エンポリの象徴となっているルペルトだが、ビッグクラブでプレーする彼も見てみたい。そして、アッズーリにも召集されてほしい選手だ。
エンポリの試合を見るときには、彼に注目してみてほしい。
アルディアン・イスマイリ

コソボの首都プリシュティナ出身のイスマイリは、コソボ2部リーグのコリクというクラブでプロデビュー。そこからセリエAへとたどり着いた苦労人だ。
2016年2月に受けたトライアウトに成功し、クロアチアの名門ハイデュク・スプリトとの奨学金契約を勝ち取ったイスマイリは、セカンドチームでプレーしてトップ昇格を果たすと、4シーズンにわたって主力としてプレーした。
そして20-21シーズンにセリエA初昇格を果たしたスペツィアに乞われてイタリア上陸を果たすと、翌年にエンポリへ移籍。今季で3シーズン目となっている。
ちなみに、コソボ代表として1試合出場しているイスマイリだが、その後アルバニア代表に転向している。現在では最終ラインに欠かせない選手のひとりとして活躍中で、EUROでも注目のひとりだ。
イスマイリのプレースタイルをひところで表すと「堅実」である。攻守両面にわたって、チームに安心感を与える選手である。
保持面でいえば、安全なパスを選択してチームのボール循環に貢献する。
ルペルトと比較すると縦パスへの、ヴァルキエビチと比較するとロングフィードへの積極性で見劣りする。そこが物足りないと感じることがあるものの、まったくいいパスを出さないわけではない。タイミングを見て、パスの成功率が高いと判断したときには裏へのタッチダウンパスを見せる場面もある。
キーとなるパスの少なさは、技術力の不足というよりも、彼の安全志向によるものなのだ。だから、パスの成功率はチームでもトップクラスの数値となっている。
↓ ライン裏へのタッチダウンパスで決定機を演出した場面
守備においてもイスマイリは堅実なプレーを見せる。
特に目を引くのがタックル成功率の高さだ。ドリブラーに対するタックル成功率が85%という数字で、セリエAトップである。5大リーグで見ても3位にランクインしている。
イスマイリは機動力を備えており、ドリブラーに対してしっかりとついて行くことができる。そこからタイミングを見たタックルでボールを奪取するのだ。
イスマイリのタックルは正確にボールを捉える。タックル技術の高さが際立つのだ。特にスライディングタックルは必見だ。
激しくデュエルを仕掛けるタイプではなく、タックル技術も高いためイスマイリはカードをもらうことが少ない。今季もここまでイエローカードを受けたのは1度のみだ。
攻守に「〇〇成功率」系のスタッツで高数値を記録しているイスマイリ。彼の堅実さがデータにも表れているといえる。
攻守両面で完成度が高く、もっと評価されてもいい選手だと考えている。
今夏のEUROで活躍することができればステップアップも見えて来そうなだけに、注目したい。
セバスティアン・ヴァルキエビチ

ポーランド出身のヴァルキエビチは、中学年代に上がるタイミングで母国最大のクラブ、レギア・ワルシャワに移籍する。
しかしながら、トップチームでデビューすることなく2017年にポゴニ・シュチェチンに移籍している。
ポーランドの年代別代表の常連だったヴァルキエビチは、U-20EURO予選でイタリア代表と対戦した試合で多くのスカウトをうならせ、2019年にはカリアリ・カルチョとの契約を締結。20歳でポーランドA代表デビューも果たしている。
2022年にカリアリが降格したのを機にエンポリへ移籍、今季で2シーズン目となっている。
ヴァルキエビチの最大の武器は高いビルドアップ性能である。
エンポリのCB陣はみなビルドアップ能力が高いのだが、ライバルのルペルト、イスマイリと比較してもヴァルキエビチは最もパス成功率が高くなっている。
しかし、これは決して安全なパスをつなぎ続けているわけではない。どちらかというと、ヴァルキエビチは他の2人を比較して長いパスを多く通している。特にサイドチェンジ数に関してはチーム内でトップの数字となっている。
短いパスをつないでボールを動かしつつ、味方が空いた瞬間を見逃さずに長いパスで展開を変える。最も長短のパスを使い分けながらもパス成功率が高いのがヴァルキエビチだ。

さらに、ヴァルキエビチはドリブルによって局面を動かすスキルも体得している。フリーな味方が見つからなかったり、相手がしっかりと陣形を整えているときには、長い距離を運んで局面に変化をつける。正面に相手がいても、1枚剥がして運ぶことなどお安い御用だ。
「ドリブル突破成功率」「縦方向のキャリー」において、ヴァルキエビチはCB陣の中でトップとなっている。
このように、サイドチェンジからライン間へのくさびまでを使い分け、自ら剥がして運ぶこともできるヴァルキエビチ。多士済々なエンポリCB陣の中でも、総合的なレジスタ性能で見れば最も優れていると評価できる。
ボール保持型のチームにおいて最終ラインの中心を担える人材だろう。
守備面では、クレバーさが光る。
188cm・85kgと大柄なヴァルキエビチだが、その体格にものを言わせて相手をねじ伏せるような力強い守備はあまり見せない。かわりに、予測力を活かしたポジションの先取りやインターセプトによってクリーンにボールを奪う場面が多くみられる。
調べてもあまり分からなかったが、体が出来上がるのが遅かったためにこうしたクレバーさを身に着けたのでは?と想像してしまう。
タイプ的に近い守り方をするルペルトと比較すると、まだコンタクトプレーがあった時にバランスを崩してしまう場面が散見される。体格というストロングポイントを持て余している印象だ。
これが如実に出るのが空中戦。今季の勝率は50%を下回ってしまっており、苦手項目となってしまっているのだ。
持ち前のクレバーさに力強さが加わってくれば、もっと高く評価されるはずだ。
セリエAでプレーする若手CBの中でもモダンなプレースタイルを持ち、特にビルドアップ能力に関してはハイレベルなものを持っているヴァルキエビチ。
筆者個人的には、守備能力に磨きをかければ、ビッグクラブから声がかかってもおかしくない潜在能力の持ち主だと考えている。
今後の動向を注視したい存在だ。
サイドバック

右サイドの2人がオフ・ザ・ボールに、左サイドの3人がオン・ザ・ボールに特長がある構成となっている。
全体として低めのエリアでプレーするのが得意で、ハイエリアで違いを作れるマエストロ系サイドバックのバストーニは異色の存在と言えるだろう。
とはいえ、ペッツェッラもクロッサーSBとしてふるまえる資質の持ち主で、カカーチェもアーリークロスを得意とするなどチャンスメイクに絡む能力も高い。
一方、右サイドのベレシンスキ、エブエヒは崩しの局面での貢献度が低く、スカッドとして火力不足の印象が否めないか。
リベラト・カカーチェ

カカーチェは現在セリエAでプレーする唯一のニュージーランド人選手だ。首都ウェリントンでイタリア人の父とイタリア系ニュージーランド人の母のもと生まれ、父の出身地のクラブであるSSCナポリのティフォージである。
そんなカカーチェはアイランド・ベイ・ユナイテッドのユースで育ち、16歳でウェリントン・フェニックスと契約した。
ニュージーランドのクラブと言えばクラブW杯でおなじみオークランド・シティが有名だが、彼らが所属するニュージーランドリーグはセミプロチームで構成されている。
一方、カカーチェが所属していたウェリントン・フェニックスはニュージーランドを本拠としながらオーストラリアのプロリーグ、Aリーグに越境参加しているクラブである。したがって、ニュージーランド唯一のプロクラブということになる。
ニュージーランド1部には、当クラブの2軍に当たるウェリントン・フェニックス・リザーブズが所属しており、カカーチェもここでプレーしている。
その後18歳でウェリントン・フェニックスのトップチームに昇格するなりスタメンをつかんだカカーチェは、クラブ最年少ゴール、クラブ最年少での50試合出場到達など次々と記録を打ち立てて注目を集めた。
すると2020年夏にはベルギー1部のシント・トロイデンに加入。2年間プレーし、2022年冬からエンポリでプレーしている。
カカーチェは総合力の高いサイドバックである。
まず、基礎的なフィジカル能力に優れている。伝統的にサイドバックに求められるスプリント能力や持久力を持っており、ピッチをエネルギッシュに上下動できる能力を持っている。
さらに、足元のテクニックも悪くない。特にキック精度の高さには自信を持っていて、コーナーキッカーを務めるほどだ。
クロスボールからのチャンスメイクもお手の物。前方のウイングがボールを持っているタイミングで下について安全なパスコースを提供しつつ、ボールを受ければアーリークロスを送り込むのがカカーチェの得意なプレーだ。
このときにハーフスペースのペナ角あたりまで絞ってボールを受けるのがカカーチェの得意技。大外からではなく、より近い位置から鋭いクロスを送り込んでチャンスメイクする。
このように、伝統的なサイドバックに求められる能力を持ち合わせているカカーチェだが、単なるダイナミックでストレートなサイドバックではない。
後方からの組み立てに参加できるスキルも持ち合わせているのだ。ここまでチーム内でパス数が2位に入るなど、左サイド低い位置からの球出しでチームに貢献している。
最終ラインからスルーパスを供給したり、サイドチェンジで局面を変えたり…といったレベルにまでは到達していないものの、近くの選択肢から適切なものを選び取り、チームのボール保持の安定化に寄与している。
さらに、低い位置から運ぶドリブルも持ち合わせている。相手をかわして運び、一気に前進するのだ。ここまでドリブルに関するスタッツでもチームで上位にランクインしている。
対人守備も悪くない。持ち前の走力を活かして粘り強くついて行き、簡単には振り切られない。
このように、基礎的な能力はすべてそろっているのがカカーチェだ。
現在のプレースタイルは後方でビルドアップに参加しつつ、ウイングのサポートからのクロスボールでチャンスメイクするというものだ。全体的なプレーエリアが低いため、今回は「運び屋SB」に分類した。

テクニックがあるため足元にボールを引き出そうとしがちだが、ここにチャンネルランなどのサポートランの技術を加えればディ・ロレンツォのような完成度の高い万能型SBとして大成しそうなポテンシャルの持ち主だ。
セリエAでプレーする若手サイドバックの中でも注目すべき存在と言っていいだろう。
心のクラブであるナポリに加入し、ディ・ロレンツォの薫陶を受ける…といった展開を見てみたいものだ。
バルトシュ・ベレシンスキ

バルトシュ・ベレシンスキはユース年代ではウイングもしくはストライカーとしてプレーしていたが、右サイドバックに転向してレフ・ポズナンでプロデビュー。その後レギア・ワルシャワに移籍し、ポーランドリーグでの7シーズンでリーグ優勝5回、カップ戦優勝3回を成し遂げている。
ちなみに、レフ・ポズナンとレギア・ワルシャワはともにリーグを代表する強豪クラブであり、激しいライバル関係にある。両者間での移籍は禁断であり、イタリアで例えればインテルからユベントスに(しかもユース出身の選手が)移籍したようなものだ。裏切り者ということで、レフ・ポズナンサポーターからは「ユダ」と呼ばれ続けたそうだ。
もっとちなみに、現在レギア・ワルシャワには同じ右サイドバックの日本人選手、森下龍矢が所属している。
ポーランドを後にしたベレシンスキは6年間サンプドリアでプレー、キャプテンも務めるなどチームを代表する選手であった。 昨季後半のナポリへのレンタルを経て、今季からエンポリでプレーしている。
ベレシンスキはベースとしてのフィジカル能力に優れたアスリートだ。伝統的にサイドバックに求められるスプリント能力と持久力がハイレベルで、フィジカルコンタクトに耐えうるストレングスとボディバランスも持っている。また跳躍力もあり、空中戦に強い。
これらを活かした守備能力こそベレシンスキのストロングポイントだ。



上の場面のように、ベレシンスキは対人守備能力が高い。相手のドリブルに対して多少遅れてからでもついていけるスプリント能力、デュエルで負けない強さを持っており、対面のアタッカーを封殺してボールを奪う。
スピードを生かした裏のスペースケアもお手の物だ。 前述のように空中戦にも強いため、守備能力全般がサイドバックとしては高いレベルにあるといっていいだろう。 ダビデ・ニコラのもと3バックの一角で起用されているのも、ベレシンスキの守備力が評価されているからだろう。
一方で、攻撃に対する貢献には限界がある。 後方でビルドアップに参加するためには、特に戦術眼が不足している。そのため、フリーの味方にシンプルに預けるところまでが彼の役割となる。
敵陣でのプレーに関しても、クロスボールの精度があまり高くないために貢献度は低い。今季でプロ生活12シーズン目だが、通算のリーグ戦アシスト数は11。シーズン数以下となっている。
評価できるのは後方からのサポートランの鋭さ。アタッカーにボールが入った時、あるいはカウンターの時に持ち前の快足を飛ばして駆け上がり、攻撃に厚みを加えることができる。 サンプドリア時代には、カンドレーバとの縦関係を築いてよきサポート役となっていた。使われる側になることでベレシンスキは攻撃時にも貢献することができるだろう。
現在のエンポリは3バックを採用しており、ウイングが不在。ゆえに、ベレシンスキが最も輝くのは3バックの右サイドなのではないだろうか。
堅実な守備と精力的な縦の上下動に特長があるベレシンスキは、古典的なサイドバックということができるだろう。「ストレートランナー」に分類することができる。
20歳でデビューして以降、ポーランド代表に定着し続けているベレシンスキ。現状、右サイドバックの1番手である。 シーズン終了後のEUROでの活躍にも注目だ。
🇵🇱 Bartosz Bereszynski e Sebastian Walukiewicz convocati dalla nazionale polacca per i playoff di qualificazione a#Euro2024. La #Polonia affronterà in semifinale l’#Estonia 🇪🇪 (giovedì 21 marzo alle 20.45 a Varsavia); martedì 26 la finale con una tra #Galles🏴 o la #Finlandia 🇫🇮 pic.twitter.com/QAPePfUv9o
— Empoli Football Club Official (@EmpoliFC) March 17, 2024
ジュゼッペ・ペッツェッラ

ナポリ出身のペッツェッラは、パレルモのユースで育ちプロデビューを果たした。当時の監督はジュゼッペ・イアキーニである。
その後はウディネーゼ、ジェノア、パルマ、アタランタ、レッチェ、そしてエンポリとキャリアを通して7つのクラブを渡り歩いてきた。ここ4シーズンはすべて異なるクラブでプレーしているという渡り鳥っぷりである。 パルマ時代にはラツィオやミランなどビッグクラブ移籍もうわさされたが、結局はプロビンチャを渡り歩くキャリアを過ごしている。
ロベルト・カルロスやコラロフを手本にしていると語るペッツェッラ。その言葉通り、クロスボールには自信を持つ。データを見てみても、クロスボールの成功数に関してはチーム内でもトップクラスの数値となっている。
しかしながら、それ以上にペッツェッラの武器となっているのがドリブルだ。プレスに出てきた相手の逆をとって持ち出し、1枚剥がす能力が高い。後方でボールを持った時に、パスではなくドリブルで状況を打開する場面が多いことは象徴的だ。
クロスボール成功数の多さにもドリブルのうまさが寄与している。アウトサイド高い位置でボールと持った時のペッツェッラは、縦に仕掛けながら相手のマークをずらし、それによって生まれたコースからクロスボールを通すのが非常にうまい。ドリブルを組み合わせられるクロッサーは(特にサイドバックでは)実は少ないのだ。
こうした特性から、低い位置からのドリブルが得意な「運び屋SB」か、ハイエリアで輝く「クロッサーSB」か迷わしいところだが、今回は「運び屋SB」として分類した。理由は後述する。
非保持に目を向ければ、フィジカルの強さと堅実なポジショニングが光る。 185cm・81㎏とサイドバックとしては大柄なペッツェッラは、コンタクトプレー・空中戦ともに得意としている。
奪う局面では、粘着質なマークで相手との距離を詰めながらタイミングを見てタックルを仕掛けてボールを奪う。 守る局面ではCBの背後をしっかりとカバー、クロスボールが上がってきても得意の空中戦で跳ね返す。実質的には第3のCBとして機能できる資質を持っている。
↓ シュートブロックシーン
それでは、ペッツェッラの弱みは何なのか。それはズバリ機動力だ。 保持時においては、1列前のウイングのサポートが遅れる場面が散見される。また、ランニングのコース取りも不正確だ。自身がボールを持った時には輝くものの、オフ・ザ・ボールに課題を残しているといえる。
アウトサイド高い位置までペッツェッラが上がっていく時間をチームが作れるならばクロッサーSBとして機能し得るのだが、前線へ上がっていくのが遅いペッツェッラは攻撃開始時のポジションが低くなりがちだ。このため、今回は「運び屋SB」として分類した。
非保持時に目を向ければ、インターセプトの少なさが弱みと言える。機動力がないため、裏を取られないことを最優先とし、ボールが相手に入ってから勝負するスタイルをとっているのだ。
こうした強み・弱みを総合的に勘案すると、筆者は3バックのサイド、いわゆるHVがペッツェッラの最適なポジションはなのではないかと考えている。
今シーズン開幕当初はスタメンだったペッツェッラだが、負傷離脱によっていまだ出場試合数は12試合にとどまっている。ニコラ新体制となった現チームで再び定位置を奪取できるか注目だ。
タイロン・エブエヒ

ナイジェリア人の父とオランダ人の母のもと生まれたエブエヒは、オランダのアマチュアクラブのユース部門を3つ渡り歩いた後、ADOデン・ハーグのユースに加入、そのままトップチームデビューを果たした。
4シーズンでエールディビジ78試合に出場したエブエヒは、2017年にナイジェリア代表デビュー、2018年にはロシアワールドカップ出場を果たした。
これに注目したベンフィカが4年契約で獲得したものの、結局トップチームでの出場ゼロのまま、20-21はトゥベンテに、昨季は21-22はヴェネツィアにレンタルに出された。 2022年に契約満了を迎えたエブエヒは、ヴェネツィアで師弟関係を築いたザネッティが新監督に就任したエンポリに加入、今季で2シーズン目を迎えている。
アフリカの血を持つエブエヒは優れた持久力を持っている。オフ・ザ・ボールによる攻撃参加もさることながら、ドリブルによる持ち上がりは彼の特長のひとつだ。 低い位置からスピードに乗ってボールを一気に敵陣に運ぶプレーを時折見せ、前進に大きく貢献する。
一方で、オランダ出身らしいきめ細かなポジショニングも彼の魅力だ。

上のヒートマップを見ると、特に自陣に関してはアウトサイドレーンだけでなくハーフスペースでも頻繁にボールを触っていることがわかる。
試合中のエブエヒに注目すれば、ボールホルダーの位置や相手との距離感によってポジショニングを微調整する様子を確認できるだろう。 サポートランもしかりだが、内と外を柔軟に往復できるのはGOODだ。
足元のテクニックも安定している。戦術眼には向上の余地があるように見えるものの、シンプルなパスでボールを循環させるハブとしては十分なレベルにある。



このように、低い位置でポジションを変えながら組み立てに絡み、機を見て縦方向のダイナミズムを発揮し崩しにも絡む、というのがエブエヒのプレースタイルだ。
一方で、アウトサイドからのクロスボールには改善の余地を残す。アシスト数が少ないのもここが原因だろう。
特に、浮き球のクロスボールに関しては精度を上げていきたいところだ。
また、長身のわりに空中戦が得意ではないのももったいないところだ。細身のエブエヒは空中でバランスを崩しやすい印象。ジャンプのタイミングで優位に立つなど、高さを活かせるよう工夫を凝らしたいところだ。
この3月の代表ウィークでナイジェリア代表に召集されたものの、負傷で離脱となってしまったエブエヒ。アフリカネイションズカップもケガによってふいにしていた彼にとっては悔しい離脱となった。
その悔しさを晴らすプレーに注目だ。
🇳🇬 Il nostro Tyronne Ebuehi è stato convocato dalla nazionale nigeriana per le amichevoli contro #Ghana 🇬🇭(venerdì 22 marzo al Grand Stadium of #Marrakech alle ore 15.00) e #Mali 🇲🇱 (martedì 26 marzo, sempre al Grand Stadium of Marrakech, alle ore 20.00) pic.twitter.com/B4EQOQkLEt
— Empoli Football Club Official (@EmpoliFC) March 11, 2024
シモーネ・バストーニ

ようやくスペツィアに戻った19-20シーズンにスペツィアがクラブ初のセリエA昇格を達成、自身初のセリエAとなった20-21から主力に定着し、キャプテンを任される試合もあるなど充実の日々を送った。22-23にスペツィアが降格するまでともにセリエAで戦い、6ゴール14アシストの活躍を見せている。 そして昨年夏、エンポリに加入。セリエAでのプレー継続を選択している。
なお、バストーニはユース時代からセントラルMFとしてプレーしてきた。プロデビュー後も、しばらくはMFとしてのプレーを継続している。
バストーニが左サイドバックに転向したのは18-19シーズンになってから。レンタル先のノバーラで左サイドバックとしてのプレーを始めている。
スペツィア時代、イタリアーノ政権では左サイドバックでプレーしていたが、イタリアーノの退任後はセントラルMFへとプレー位置を移していったバストーニ。元々のポジションに戻っていくプロセスだったといえる。
なお、エンポリでは再び左サイドバックで起用されていることから、ここではサイドバックとして分析していきたい。
左サイドバックとセントラルMFをハイレベルにこなすシモーネ・バストーニ。彼の武器は、何といっても高精度の左足だ。
この武器は様々な場面で活かされる。 プレースキックは正確で、コーナーキックやフリーキックから多くのチャンスを演出する。 サイドバック起用時には高い位置でボールを持ち、アウトサイドからのクロスボールでチャンスを量産する。正確に味方の頭を捉える軌道は一見の価値ありだ。
↓ 正確なクロスボールによりアシストした場面
MFとして起用された試合では、高い位置でボールを受けてからのラストパスで攻撃の最終局面をデザインする。トップ下的なプレーを見せるのだ。
↓ スルーパスによりアシストした場面
さらに、ミドルシュートもバストーニの武器。遠い位置からでもゴールを射抜ける左足は相手にとって脅威だろう。
↓ 見事なミドルシュート
高精度のキックを武器に、MFでもプレーできる資質を持つ。みんな大好きマエストロ系サイドバックだ。
低い位置で組み立てに絡むよりも高い位置で攻撃の最終局面に絡むプレーを得意とすることから、「クロッサーSB」に分類できるだろう。
また、非保持時の積極性も彼の武器だ。対面のアタッカーに対して距離を縮めながら、可能であればインターセプトを狙う。
それが難しいなら相手にボールが入った瞬間に素早く寄せて、積極的にタックルを仕掛ける。成功率には向上の余地を残すものの、ガツガツと寄せられるだけで相手からすれば嫌なものだろう。
こうしたタイトな守備も彼の特長だ。
筆者が個人的に好きな選手なのでもっと試合に出てほしいと考えているのだが、今季のエンポリではなかなか出番に恵まれないでいる。特にダビデ・ニコラ就任後は出番の減少が顕著だ。
バストーニはフィジカル的な資質に恵まれているわけではない。特に、ロングスプリント能力に関しては低いレベルにある。
ダビデ・ニコラはチームの重心を下げてはっきりとした堅守速攻スタイルを打ち出している。そのため、サイドバックにはカウンターに転じたときに長距離を走って攻撃に厚みをつけることが求められる。
ここはバストーニの苦手項目。それゆえ、最も得意な高い位置でのプレーを出せずにいるのだろう。
ボール保持によってチームをゆっくりと押し上げるようなチームでこそ輝くのがバストーニだ。チーム戦術との相性から出番に苦しんでいるのではないだろうか。 個人的にはビッグクラブで見てみたい選手のひとり。夏の動向に注目したい。
ミッドフィルダー

エンポリで特徴的なのが、アンカーで起用されるグラッシ、マリン(ラノッキアも含めて)がともにコンダクターに分類されることだ。
彼らの相方には、球際で戦える選手たちが起用される。古き良き中盤の組み合わせ方だ。
逆に言うと、オン・ザ・ボールとオフ・ザ・ボールともにハイレベルな資質を持っている選手がいない。もっともその両面を見せているファッツィーニの今後の成長に注目したいところだ。
ユスフ・マレー

高校年代からチェゼーナのユースでプレーしたマレーは、レンタル先のセリエCラヴェンナでプロデビュー。そこからセリエBのヴェネツィアへ移籍し、クラブの昇格に貢献したあとセリエAのフィオレンティーナに引き抜かれる。というふうに、徐々にカテゴリーを上げてきた。
昨季は後半戦をレッチェで戦い、今季はエンポリにレンタルされてプレーしている。おおよそ2年に1度のペースで移籍しており、なかなか安住の地を見いだせずにいるようだ。
ちなみにマレーは代表に関しても変更を経験している。ユース年代ではイタリア代表としてプレーしたものの、A代表は両親の出身地であるモロッコを選択している。
セリエAでプレーし始めてからは主力として初めて過ごすシーズンとなっている23-24のマレー。ここまで25試合に先発しており、出場時間はエンポリにおいて2番目に長いものとなっている。
デビュー当初は技巧を特長とする攻撃的MFであったマレー。しかしながら、エンポリに移籍した今シーズンにそのプレースタイルを大きく変化させている。
3センターのインサイドMF、もしくは2センターの一角で起用されている今季のマレーは、リーグ屈指のボールハンターとして躍動しているのだ。
今季ここまでの守備に関するスタッツはすべての項目でリーグトップ10入りを果たしている。
タックル勝利数はリーグ3位、パスブロック数に関してはリーグトップの数値をたたき出している。 マレーは非常に機動力に優れており、自分のマッチアップ相手にボールが入ればすぐさま距離を詰めることができる。このスピードが非常に速く、相手のパスをブロックできる距離にまで詰め寄ることができるからこそのパスブロック数トップなのだ。
さらに特筆すべきは、プレスバックが非常に速いことだ。最初のアクションが失敗に終わったら、マレーはすぐさまプレスバックしてDFと協力して相手アタッカーを挟み込む。 この次のアクションへ移るスピードの速さと、それを可能にする持久力こそがマレーの武器である。
守備アクションの連続性こそがマレーの高スタッツを支えているのだ。



翻って攻撃の場面では、マレーはシンプルにプレーする。 最終ラインがボールを持っている場面では、相手のFWラインとMFラインの間でギャップに顔を出し、ボールを受けてはシンプルにさばいて後方部隊と前線部隊の中継役となる。
少ないタッチでショートパスをつないでいくのがマレーのスタイルだ。ロングパスはあまり出さず、運ぶドリブルも滅多に見せない。独力で局面を打開するようなプレーは持っていないものの、チームにリズムを生み出すという点では適役だ。
崩しの局面でも同様にしてボールを受けては少ないタッチでクロスボールやスルーパスを送り込む。キーパス数はチームトップとなる31を記録しており、攻撃の局面でも重要な役割を果たしている。
守備性能ではリーグでも上位と言って差し支えない能力を見せているマレー。彼が並の選手で終わるか、さらに声価を高めるかは、目に見える結果を出せるかどうかにかかっているといえる。そのためには、よりラストパスの精度を上げ、ミドルシュートも狙っていくべきだろう。
プレースタイル的に似ているボーヴェと比較すると、攻撃での貢献度でマレーは見劣りしている。 とはいえまだ25歳。ここからもうワンステップ階段を上がってもらいたいものだ。
アルベルト・グラッシ

ブレシア出身のグラッシは、7歳の時にアタランタユースに加入して以降アタランタユース一筋でプレー、19歳となった14-15シーズンにトップデビューを果たしている。
2015年冬にナポリに引き抜かれたものの、直後の1ヵ月超の負傷離脱により出遅れ、そのまま試合出場ゼロで退団、幻のナポリの選手となった。
その後はアタランタ、SPAL、パルマ、カリアリを渡り歩いて2022年夏からエンポリでプレー、今季が2シーズン目となっている。
グラッシのベースポジションはアンカーだ。今季のエンポリでも3センターの底でプレーする試合が多くなっている。 この位置から攻撃を組み立てるのがグラッシの最も得意なプレー。いわゆるレジスタである。
グラッシは少ないタッチでボールをさばいてチームにリズムを生み出すタイプのレジスタである。動いては捌き、また動いてボールを引き出す。自分の動きは最小限にとどめて、ボールを動かして試合を組み立てていく。
現代サッカーにおいて、レジスタは最も厳しい圧力にさらされるポジションである。しかしながら、グラッシは小さなスペースを見つけて動き直す立ち位置の微調整に優れており、狭いスペースでもボールを引き出せる。
さらに、ボールを受けるときには周囲の状況を認知し終えているため、相手の動きに応じた最善の選択が可能だ。



レジスタが厳しい圧力を嫌って最終ラインに落ちていくのは現代サッカーにおいて日常の光景となっている。しかし、グラッシはめったに最終ラインに降りない。ライン間の狭いスペースでのプレーを苦にしないからだ。
戦術的な要素に優れているからこそ、狭いスペースでもあわてずシンプルにプレーすることができるのだ。

グラッシはフィジカル的には凡庸だ。スプリント能力も、フィジカル的な強さもない。 そのため、広範囲を動いて鋭いタックルで相手の攻撃の芽を摘み取るようなプレーは得意とはしていない。
一方で、インターセプト能力に関しては高いレベルにある。相手のボールホルダーの目線や受け手の動きなどを見ながらパスコースに入り、カットする。これも彼の戦術眼のなせる業だろう。
攻守両面において「センス」を感じさせるグラッシ。いわゆる古典的なレジスタであり、選手分類マトリックス上では「コンダクター」に分類できるだろう。
個人的にはミニ・ジョルジーニョと呼ぶべき選手だと思う(本家ほど長いパスは出さないが)。よりボール保持に軸を置いたビッグクラブで見てみたいタレントである。 29歳と、まだ老け込む年齢ではない。これから全盛期を創出できるか注目したい。
ラズバン・マリン

ルーマニアの首都ブカレストで生まれたラズバン・マリンは、ゲオルゲ・ハジ・フットボール・アカデミーで育成された。
このゲオルゲ・ハジとは、ルーマニア歴代最高の名手「東欧のマラドーナ」ゲオルゲ・ハジその人のことである。現役引退したハジは、自己資産12億円を投じてゲオルゲ・ハジ・フットボール・アカデミーと、その卒業生がプレーするトップチーム、ヴィトルル・コンスタンツァを創設したのだ。
ヴィトルルはクラブ創設8年でルーマニアリーグ優勝を果たすことになるのだが、その優勝メンバーにマリンが含まれている。
ちなみに、ヴィトルルはその後ハジの古巣ファルル・コンスタンツァに吸収され(母体はヴィトルルである)現在は解散している。そのファルルが昨季のルーマニア王者である。
ここら辺の話はおもしろいので、興味がある方は下の記事を読んでみてほしい。
「東欧のマラドーナ」が母国でクラブ創設、そして若手を育成
話をマリンに戻そう。初優勝を置き土産にヴィトルルを後にしたマリンが向かったのはベルギーの強豪スタンダール・リエージュだった。徐々に守備的MFにポジションを下げながら3シーズンで18ゴール22アシストと大活躍している。
フレンキー・デヨングの後釜として期待されたアヤックスでは活躍できなかったものの、カリアリで輝きを取り戻し、カリアリで2年、エンポリで2年とここ4年はイタリアで活躍している。
マリンの武器は何といっても右足から繰り出す高精度のキックだ。これを起用されるポジションに応じて使い分けながら攻撃を組み立てていく。
今季のエンポリでは3センターのアンカーで起用される試合が多くなっているマリン。低い位置から前を向き、長短のパスを振り分けで攻撃を組み立てるレジスタとして機能している。
さらに、機を見てポジションを上げて放つミドルシュートも驚異。精度高くゴールの四隅を射抜く。
↓ 昨季のトリノ戦で決めた強烈なミドル
カリアリ時代にはより高いポジションで起用される場面も多かったマリン。よりトップ下的に振る舞い、ラストパスを供給することで攻撃の最終局面を仕上げていた。
キック精度の高さだけでなく、意外性のあるアイデアを見せてくれるのがマリンの強み。相手を出し抜き、華麗にアシストを決める。
↓ 21-22のラツィオ戦で決めた芸術的なアシストは語り草だ。
また、どのポジションで起用されても変わらないマリンの強みがセットプレーだ。誰にも邪魔されずにボールを蹴れるプレースキックでは、マリンは常に脅威だ。
↓ サッスオーロ戦ではフリーキックから2アシストを記録した。
一方で、非保持には課題が残る。 機動力に劣るマリンは、カバーエリアが広くない。その上、ボール奪取力が高いわけではなく、フィジカルコンタクトも不安材料だ。アンカーとしては、守備能力が低いと言わざるを得ない。
今季のエンポリはインサイドハーフにファイタータイプがそろっているため、マリンの両脇をプロテクトしてくれている。だから、マリンの弱みがそこまで露出せずに済んでいるのだろう。マリンをアンカー起用できるのも、彼らのおかげだ。
また機動力に限界があるためドリブルにも期待ができない。キャリーやドリブル突破に関するスタッツも低水準なものとなっている。
典型的なキックで魅せるプレーヤーであるマリン。古典的なレジスタ、古典的なトップ下タイプのプレーヤーだといえる。
ルーマニア代表では中盤の柱としてプレーしているマリンは、EURO2024での活躍も見込まれる。ここが、さらなる飛躍のカギとなりそうなだけに注目したい。
シモン・ジュルコフスキ

ポーランド人のジュルコフスキは母国のグールニク・ザブジェというクラブでデビューする。
このグールニク・ザブジェは1960~80年代に14回ポーランドリーグを制覇した古豪で、黄金期にはUEFAカップウィナーズカップで準優勝を果たすなど欧州レベルでも好成績を残した。現在では元ドイツ代表のルーカス・ポドルスキが所属している。
ポーランドで頭角を表したジュルコフスキはフィオレンティーナに保有権を買い取られる。そして、レンタル先のエンポリで21-22に6ゴール2アシストを記録してブレイクを果たした。
その後フィオレンティーナ、スペツィアで不遇の時を過ごしたものの、今冬に再びエンポリに加入すると2試合で4ゴールを記録しチーム内得点王に浮上するなど水を得た魚のように躍動している。
ちなみに、モンツァ戦で3ゴールを決めたジュルコフスキは、セリエAで初めてハットトリックを記録したポーランド人となった。
21-22にも6ゴールを記録したように、ジュルコフスキは得点が取れるMFである。彼のゴールはどのような形で生まれるのか。

上の図を見ると、ジュルコフスキのゴールは主に2つのエリアから生まれていることがわかる。
ひとつがペナルティエリア内。ダイナミズムに優れるジュルコフスキはさかんにゴール前に飛び込むことができ、味方が供給するクロスボールに合わせたり、こぼれ球を詰めたりして得点することができる。第2のストライカーとして機能できる資質を持っているのだ。
もうひとつがペナルティエリア外。ジュルコフスキはミドルシュートも得意としており、エリア外からでも前を向けば積極的に狙っていく。 利き足とは逆の左足でも精度が高いフィニッシュが可能なのもGOODだ。
ジュルコフスキはフィジカル的に優れた資質を持っており、これを駆使して得点以外でもチームに大きな貢献を果たす。
185cm・77kgと大柄なジュルコフスキは、高い位置でポストプレーをこなすこともできる。チームにとって第2の起点として機能するのだ。
また、持久力に優れるジュルコフスキはプレーエリアが広い。これを活かして、ピッチを所狭しと動いてはボールホルダーに対して積極的にタックルを仕掛ける。より低い位置でプレーしていた21-22には、タックル、ブロック、インターセプトすべてのスタッツでチームのトップ2に入る数値を記録した。
さらに、ボールを奪ってからの持ち上がりもジュルコフスキの魅力だ。持ち前のダイナミズムを活かして一気に敵陣まで持ち上がる。
このように、ストロングポイントが数多いジュルコフスキだが、フィオレンティーナやエンポリでは活躍できずに苦しんだ。一体なぜなのか。
ダイナミックなプレーが身上なジュルコフスキだが、一方でポゼッションスタイルとの相性がいいとは言えない。狭い局面でプレーするためにはアジリティやタッチの繊細さに欠け、また細かいポジショニングの修正、味方との連携などにも課題を残しているのだ。
ダイナミックなスタイルでは輝く一方で、ゆったりとした展開では持ち味を発揮できない傾向にあるジュルコフスキ。戦術との相性がキャリアのカギを握っているといえる。
まだ26歳とここから脂がのってくる年齢のジュルコフスキ。うまく戦術的な相性がいいビッグクラブで活躍できれば、大きな名声を手にしてもおかしくないだけの資質を備えている。 まずは、現在レンタルで加入しているエンポリでのプレーを継続するのか、それとも他クラブに移籍するのか注目したい。
ヤコポ・ファッツィーニ

ヴィアレッジョ・カルチョでサッカーを始めたファッツィーニは、カペッツァーノを経て2017年にエンポリの下部組織に入団した。
彼の家族はスポーツ一家で、祖父は元テニス選手。兄のトンマーゾ・ファッツィーニはビーチサッカーのイタリア代表である。
20-21にカンピオナート・プリマヴェーラを制したエンポリの優勝メンバーとなったファッツィーニは、翌21-22にプロデビュー。
22-23にプロ契約を果たすと、パオロ・ザネッティによって継続的に起用され、19歳にしてセリエA21試合に出場。オフシーズンにはラツィオやユーベからの関心が囁かれるなど、一気に注目の若手イタリア人MFとなった。
ファッツィーニはテクニックに優れたMFだ。そのクオリティを崩しの局面に用いることで活躍している。 ファッツィーニの最大の魅力が、相手を剥がすドリブルだ。長い距離を持ち上がるわけではないが、寄せてくる相手をかわす持ち出しは特筆ものだ。


上の場面のように、重心移動によって相手をだましてのターンがファッツィーニの得意技。相手が足を出してくれば、とっさの持ち出しでかわす。右足だけでなく左足でも同様にしてテクニックを発揮できるのも高評価だ。
こうして相手をかわした後のパスセンスも持ち合わせている。積極的にラストパスを狙っていくのがファッツィーニの特長で、ゆえにパス成功率は低いがキーパスも多くなっている。 1枚剥がして運び、ラストパスを供給するというのがファッツィーニが得意とする一連のプレーの流れだ。
ここにミドルシュートという選択肢が加わってくれば、さらに驚異的な選手になれそうだ。
ボール保持時には華麗にプレーするファッツィーニだが、非保持時には泥臭い一面を見せる。 ファッツィーニは積極果敢にボールホルダーに襲い掛かってはタックルを仕掛け、ボールを奪おうとする。タックルに関するスタッツはチーム内で見てもトップクラスの数字だ。
ただし、まだそこに技術が伴っていない。チャレンジがファウルで完結してしまうこともまだまだ多く、出場時間に対してイエローカード5枚は多い。 確実にボールを奪う技術が伴ってくれば、また一段と評価を上げそうだ。
得意なプレーエリアの高さから「アシストマン」に分類したが、資質的にはマスターMFに非常に近い。また、起用法によってはアンカーとして大成できる可能性も感じさせる。今後どんな監督と出会うかでキャリアの方向性が決まっていきそうだ。
まだ20歳のファッツィーニは、遅かれ早かれステップアップのタイミングがやってくるだろう。どのクラブを選択するのか注目したい。
ヴィクトル・コバレンコ

ウクライナの強豪シャフタール・ドネツク一筋で育ったコバレンコは、常に各年代のユース代表に選出されてきたエリート。早くから将来を嘱望されてきた。
6シーズン半にわたってシャフタールで活躍したコバレンコは、2021年冬にアタランタに移籍する。しかしながら、半年でわずか1試合の出場にとどまり、直近3シーズンはスペツィアとエンポリにレンタルに出されている。
2015年に行われたU-20ワールドカップでは、5ゴールを挙げて大会得点王に輝いたことで注目されたコバレンコ。キャリアを通してみても、アシスト数よりもゴール数が多くなっている。
コバレンコの得点の多くは、スペースへ動き出してラストパスを引き出し、抜け出して沈めるゴールとなっている。クロスボールに対して詰めるような場面も多く、スペースをアタックする意識が旺盛な選手と言える。
↓ シャフタール時代のコバレンコの全ゴール集
自らフィニッシュを狙う場面でなくとも、サイドでウイングやサイドバックがボールを持った時にはさかんにチャンネルランを見せてサポートする姿勢が好印象だ。
しかしながら、ボールを受けた後のコバレンコには限界も見える。プロサッカー選手の平均値からするとフィジカル的には劣っているコバレンコは、相手を突破できるほどのアジリティもパワーもスピードも持ち合わせていないのだ。
だから相手を剥がせず、決定的なラストパスに至らないためアシスト数も少ないのである。
ここがセリエAに来てからの苦戦につながっていると見ている。
3年半でわずか2ゴールのコバレンコ。しっかり引いて裏のスペースを消してくるクラブが多いセリエAにおいて、コバレンコ得意のスペースアタックが繰り出せない場面が多くなっている。
事実、セリエAに来てからの2ゴールはいずれもミドルシュートから決めている。
相手の守備ブロック手前でボールを持っても凡庸な選手に終始してしまうコバレンコにとって、現在の環境は厳しいものであると言わざるを得ない。
今後はより司令塔的なプレースタイルを目指していくのか、それとも環境を変えるのか。まずはシーズン終了後の動向に注視したい。
フィリッポ・ラノッキア

🦅 Benvenuto in rosanero Filippo 🐸 pic.twitter.com/7ZjXEU7Mte
— Palermo F.C. (@Palermofficial) January 18, 2024
ちなみに、Ranocchiaとはイタリア語で「カエル」という意味だ。
今季前半はエンポリでプレーしていたラノッキア。中盤ならどこでもプレーできる選手だが、ここ数シーズンは守備的MFとしての起用が多かった。
ラノッキアのベースにあるのは精度の高いキックだ。しかも、右利きながら左足でもほとんど変わらない精度のキックを繰り出せる。両利きに近い選手だ。
この能力を活かし、長短のパスで攻撃を組み立てる司令塔として機能する。特にロングパスへの積極性ではエンポリのスカッドの中で見ても群を抜いていた。
また、相手からプレッシャーを受けたときにボールを守る能力が高いのもラノッキアの長所。相手の重心の逆を突くフェイントや、細かいダブルタッチなどを駆使して相手を丁寧にはがしていく。こうした相手の虚をつくセンスは誰にでもまねできるものではない。


さらに、ロングレンジのキックを得意とするラノッキアはミドルシュートを得意とする。相手を押し込んだ状態で前向きにボールを受ければ、積極的に狙っていく。
↓ ユベントスvsモンツァの親善試合で決めたミドルシュート。利き足ではない左足だ。
また、プレースキッカーとしても優秀だ。昨シーズンにはACミラン相手に見事な直接フリーキックを決めている。
一方で非保持に関しては課題を残す。特に目立つのはボール奪取に関する技術力の拙さだ。フィジカル的に優れているわけではないラノッキアは、その不足を技術によって補う必要がある。しかしながら、現状ラノッキアはボール奪取に優れているとはいいがたい。
相手に体を入れられている状態で強引に奪おうとしてラフなファウルとなりカードをもらうような場面が多く見受けられる。90分あたりのイエローカード数は今季のエンポリの中でもトップの数字だった。
このように、ボール保持に長所が偏り、非保持に関しては課題を残すラノッキアは、「コンダクター」と分類できるだろう。グラッシと似ているが、ラノッキアの方がよりボールタッチが多く、ロングレンジのパスが出せるため持ち味は異なるだろう。
ただし、パレルモ加入後のラノッキアはプレースタイルを変えつつあるようだ。 3センターのインサイドハーフとして起用され、積極的にゴール前に進出、加入後7試合で4ゴール1アシストと大活躍を見せている。
プレーエリアが広いわけではないため、アンカーとして起用されていた時には前線へ顔を出す場面は少なかったラノッキア。ポジションを変えたことによって新たな側面を引き出されたようだ。
↓ パレルモでの初ゴール
かつてはセリエAの常連クラブであり、ディバラやカバーニ、ミッコリ、パストーレ、イリチッチなど名手を次々と輩出していたパレルモだが、2019年に深刻な財政難によってセリエDへの降格処分を受けた。 そこから2年連続の昇格でセリエBに復帰し、シティ・フットボール・グループの一員となって迎えた今シーズン、現在プレーオフ圏内の6位につけている。
同じシティ・フットボール・グループのジローナFCがラ・リーガで2位につけ旋風を巻き起こしていることは記憶に新しい。もしパレルモがセリエA昇格となれば、注目が集まること請け合いだ。
すでにチームの中心となっているラノッキア。ぜひともパレルモとともにセリエAの舞台に舞い戻ってほしい。
ウイング

エンポリのウイング陣はみなプレースタイルがフィニッシャー寄りで、チャンスメーカーがいないというのが特徴だ。
カンビアーギ&カンチェリエリはともにドリブラーがだ最終選択肢はシュートであることが多く、ギャシはオフ・ザ・ボールでの侵入に特長がある。
クロスボールの供給はもっぱらサイドバックの役割となっている。
ダビデ・ニコラ政権移行後3-4-2-1を採用するエンポリに合って、アウトサイドを得意とするカンビアーギをシャドーに、インサイドを得意とするギャシをWBにおいて流れの中で内外を入れ替えるというアプローチは面白い試みと言えるだろう。
ニコロ・カンビアーギ

モンツァ出身のカンビアーギは、メッシに憧れてサッカーを始めた。家の近くにサッカーコートがなかったので、テニスコートでドリブルの技を磨いたという。
やがてアタランタの下部組織に加入し、18-19、19-20とカンピオナート・プリマヴェーラを連覇。期待の若手として名を挙げた。
プロデビューはレンタル先のセリエBレッジャーナだった。翌年には同じくBのポルデノーネに貸し出されて7ゴール2アシストを記録。翌22-23にはセリエAのエンポリにレンタルされて6ゴールを上げてチーム得点王になるなど順調にキャリアを積み上げている。今季もエンポリでプレーを継続中だ。
アタランタのトップチームのトレーニングに参加してからパプ・ゴメスにアドバイスを受け(レンタル先でも時おりInstagramでアドバイスを受け続けているようだ)、キエーザとインシーニェにインスピレーションを受けていると語るカンビアーギ。その言葉通り、彼の最大の武器はドリブルだ。
水準以上のスピードも備えているカンビアーギだが、それ以上に彼の武器はクイックネスだ。何度も切り返し、方向を転換しながら仕掛けていく。
直線的なドリブルと切り返しを多用するそのスタイルは、キエーザに近いものを感じさせる。
長い距離を運ぶドリブルと、突破を仕掛けるドリブルの両方を用いることができるカンビアーギ。苦しい場面で局面を打開してくれる面では頼れる存在だ。
また、オフ・ザ・ボールに関しても優れたものを持っている。特にレイオフの受け手としてサポートに入るタイミングと角度が絶妙。外から内へと入ってくるため相手としてもマークにつきずらく、FWからの落としを受けてそのままの勢いで仕掛けていく形はひとつのパターンとして確立されている。


21-22にポルデノーネで7ゴール、22-23にエンポリで6ゴールを決めているカンビアーギは得点力も備えている。特に、利き足の右足だけでなく左足でのフィニッシュでも精度があまり落ちないのはGOODだ。
しかしながら、今季はここまでノーゴールを苦しんでいるカンビアーギ。シュート数自体はセリエAトップ10に入っているにもかかわらず、だ。ここにきて、フィニッシュが課題となっている。

上の図のうち、実際に得点につながったものは緑色の円である。
これを見ると、すべてゴールにつながったものはペナルティエリア内から打ったものであり、しかも期待値が大きいものであることが読み取れる。
つまり、カンビアーギのゴールはほとんどがエリア内に侵入し、フリーとなって決めたものであるのだ。
対して、ゴール以外のシュートに関しては期待値が小さいものになっていることがわかる。エリア外からの物はもちろん、エリア内からのシュートに関しても同様だ。
つまり、カンビアーギの得点が少ないのは、期待値上妥当である、ということになる。問題は期待値が小さい状態でシュートを打ちすぎていることにあるのだ。
シュートの多さは、彼の強引さの表れであるともとれる。
今後得点数を伸ばしていくには、期待値が大きい状態を作る、期待値が小さいシュートも決める技術を伸ばしていくことも大切だが、それ以上に、期待値が小さい状態でフィニッシュ以外の選択肢を持つことがカギとなりそうだ。
これはドリブルに関しても同様で、味方を使ったほうがいい場面でも強引な仕掛けでチャンスをつぶしてしまう場面が散見される。
より味方を使うことを覚えれば、プレーの幅も広がり相手からすればさらに対応困難な選手になるに違いない。
個人的にはネクスト・キエーザになれるポテンシャルの持ち主だと考えている。 強引にこじ開けるプレーは彼の魅力であるものの、そこにロジカルな要素が入ってくれば、さらに一皮むけられるのではないだろうか。
マッテオ・カンチェリエリ

ASローマのユースでプレーしていたカンチェリエリは、ローマがマラシュ・クンブラを獲得する際の人的補償としてエラス・ヴェローナに買取義務付き2年レンタルで加入する。
すると、初年度からカンピオナート・プリマヴェーラ2(ユースリーグ2部)で18試合15ゴールを記録し得点王となる活躍を見せる。 翌年にはプロ契約を締結しセリエAデビュー・初ゴールを記録したばかりか、シーズン終了後の代表ウィークでA代表デビューを果たした。
ちなみに、エラス・ヴェローナの所属選手がアッズーリの一員としてピッチに立ったのは35年ぶりの出来事だったそうだ。
期待値を一気に高めたカンチェリエリは2022年夏にラツィオに引き抜かれたものの22-23はセリエAで先発わずか1試合にとどまるなど苦戦した。今季はレンタルで加入したエンポリで武者修行に励んでいる。
カンチェリエリの最大の武器は快速ドリブルである。
非常に優れたエンジンを搭載しているカンチェリエリは、セリエAでプレーする選手の中でも上位に入るトップスピードを誇る。さらに、加速力に優れ、トップスピードに到達するまでが非常に速い。
↓ 下記ツイートはソース不明であるものの、今季のセリエAにおけるカンチェリエリのトップスピードは時速36.6kmでセリエA5位であるとしている。肌感としては違和感のない数字だ。
Velocità max (km/h), Serie A 23/24:
1. Festy Ebosele 37.80 2. Giuseppe Caso 37.28 3. Pontus Almqvist 37.06 4. Rafa Leão 36.96 5. Matteo Cancellieri 36.60 6. Raoul Bellanova 36.37 7. Armand Laurienté 35.90 8. Nemanja Radonjić 35.87 9. Victor Osimhen 35.78 10. Fikayo Tomori 35.62 https://t.co/e6nDuc0XHx pic.twitter.com/vH54hVyCUD — Francesco (@01fmz) November 1, 2023
このスピードを生かした直線的なドリブルがカンチェリエリの最大の武器である。 カンチェリエリのドリブルはスピードに乗れる場面でこそ相手の脅威となる。つまり、カウンターの場面でこそ輝きを発揮する。
しかしながら、カンチェリエリはスペースがない場面でも果敢に突破を仕掛けていく。ドリブル突破の試行数はチーム内トップの数字だ。
同じく積極的なドリブルが武器のチームメイト、カンビアーギと比較すると、運ぶドリブルに関する数値が小さくなっているカンチェリエリ。これは、普通の選手ならキャリーで運ぶにとどまる場面でも、そのまま対面のディフェンダーに突っかかっていって突破を試みるからだろう。
この強気の仕掛けがカンチェリエリの魅力でもあるわけだが、現状では無謀な突破も数多い。
仕掛けを匂わせながらサイドバックを使ったりクロスボールを上げたりと言ったプレー選択をすることは少ないカンチェリエリ。うまく味方を使えるようになれば、また違った評価を与えられるに違いない。
また、カンチェリエリの突破した後の選択肢はほとんどがシュート。自ら攻撃を完結させることを第一に考えている。しかしながら、シュート精度は要改善だ。ここが上がってくれば得点数ももっと伸びるはずだ。
↓ 良くも悪くもカンチェリエリらしさが出ている場面。
また、カンチェリエリは非保持での貢献度が高い。持ち前の快足を飛ばして果敢にプレスバックし、相手アタッカーに対してタックルを食らわせる。
ミドルサードでのタックル数は、MF陣を抑えて2位にランクインしている。
これを買われて右のウイングバックで起用される場面もあるカンチェリエリだが、ウイングバックとして起用するには簡単に裏を取られすぎる。
ボールウォッチャーになりがちで、背後にいる相手を認知できていない場面が多い。もし本格的にウイングバックにコンバートするには、戦術面をイチから鍛える必要があるだろう。
個人的には、ウイングバックへのコンバートは有効な選択肢だと考えている。 前線ならどこでもやれるカンチェリエリだが、いかんせん一芸屋感が強い。相手に引かれた場面では無謀な突破ばかりが目立つ場面も多く、相手の間を縫って突破するためにはクイックネスやボールタッチの繊細さが不足している。
よりアウトサイドに特化してプレーできるウイングバックでなら、持ち前のスプリント力と守備への献身性を活かせるのではないか。
まだ22歳になったばかりのカンチェリエリ。このまま壁を突き破れずに終わるか、それともどこかでブレイクを果たせるのか注目したい。
エマニュエル・ギャシ

イタリアに移住したガーナ人の両親のもと、シチリア島のパレルモで生まれたギャシ。4歳のころガーナに移住し、11歳で再度イタリアのトリノ県に移住。プロ・ヴェルチェッリとトリノFCのユースで育成を受けた。
2013年にトリノFCとプロ契約を結んだものの、キャリアの最初の5年間は武者修行に費やす。ピサ、マントヴァ、カラレーゼ、ピストイア、ズュートティロルと5年連続で異なる3部クラブにレンタルに出され、技を磨いた。
結局トリノではプレーすることなくスペツィアへ移籍したギャシは19-20にクラブとともにセリエAへ初昇格。20-21にガーナ代表デビュー、22-23にキャプテン就任と充実した3年間を送り、今季からエンポリへ活躍の場を移している。
ちなみに、ギャシはバンディネッリとのトレードという形でエンポリに加入している。バンディネッリは昨季までのエンポリのキャプテンであり、主将同士のトレードという珍しい形の移籍劇となった。
ギャシは様々なポジションでプレーできる選手である。 最も多く起用されているのは左ウイングだが、右サイドも問題なくできるし、ウイングだけでなくウイングバックもやれる。中盤3センターの一角や最前線の中央など、ピッチの真ん中でもプレーできる。 セリエAの中でも特にユーティリティー性の高い選手だと評価できる。

どのポジションでも起用できるのは、ギャシがオン・ザ・ボールよりもオフ・ザ・ボールに特長のある選手だからだろう。
たとえば、サイドで起用された試合でも、タイミングよくインサイドに侵入してプレーできる。今季でいえば、中央からサイドに流れるカンビアーギと入れ替わってインサイドに入り相手を幻惑する場面が多くみられる。
↓ カンビアーギと入れ替わってインサイドに侵入したところから裏抜け出し決定機を迎えた場面
彼はオフ・ザ・ボールを活かして得点を生み出すプレーヤーでもある。

上の図を見ると、ギャシのゴールのほとんどがPKスポットよりも前、なんならゴールエリア内からシュートを打っていることがわかる。円の大きさ、つまり期待値の大きさも特徴だ。
サイドで起用されている試合でも、中央に入ってきてフリーでタップインするのがギャシの得意な形。いわゆるワンタッチゴーラーなのだ。
これは今季のデータにも表れていて、シュートを打った位置はチーム内で2番目にゴールに近い数値となっている。
ちなみに、1位はCBのヴァルキエビチで、セットプレーからのフィニッシュゆえに短距離になっていると考えられる。
ギャシはオープンプレーでゴール前に侵入してのフィニッシュを繰り返しているためにこの数字になっているととらえるべきだろう(そのため、PKを除いたゴール期待値はチーム内でトップだ)。
逆に言えば、得点が難しい局面からのゴールは少ない。そして、その局面を打開する能力も高くはない。 ギャシはスプリント力もアジリティも凡庸で、ドリブル突破には限界がある。
サイドからのクロスボール精度もそこまで高くなく、アシスト能力も特別高いわけではない。
あくまで使われる側としてプレーしたときに輝くのがギャシだ。 ひところでまとめると、よきチームプレーヤーである、ということになるのだろう。
3部で長くプレーしていたところから這い上がってきた苦労人であるギャシ。ようやくたどり着いたセリエAの舞台で、さらなる得点を重ねてほしいものだ。
フォワード

多彩なポストプレータイプのFWがそろっているエンポリのFW陣だが、ポストプレーで時間を作るタイプのストライカーは不在となっている。
また、フィニッシュに関しては頭とワンタッチに偏っており、いずれにしてもクロスボールの供給を求める。ニコラ体制で最も相性がよさそうな1対1フィニッシャーは不在となっている。
ニアングはかつてはこのタイプだったが、フィジカル的な衰えによりワンタッチゴーラーへと移行している。
フランチェスコ・カプート

フランチェスコ・カプートは6部相当のアマチュアリーグに所属していたトリットというクラブでキャリアをスタートした。そこから5部アルタムラ、4部ノイカッタロと一歩ずつコンペティションを上げてきた苦労人だ。
10-11に半年間だけセリエAを経験したのを除くとずっとセリエBでプレーしてきたカプート。彼がようやく日の目を浴びたのは29歳となった17-18。26ゴールを挙げてセリエB得点王となり、エンポリをセリエA昇格に導いたのだ。
翌18-19には初の本格挑戦となったセリエAの舞台でも16ゴールを挙げ、エースとしてエンポリの残留に貢献した。さらにサッスオーロに移籍した19-20には21ゴールを量産。シーズン後に33歳にしてイタリア代表に初召集されると、2020年10月に当時のイタリア代表最年長ゴール記録を更新した。
6部から上り詰め、30歳になってようやく日の目を見た苦労人、カプート。彼はゴール後の「ビールパフォーマンス」からciccio(チッチョ。イタリア語で『太っちょ』の意)caputoの愛称で親しまれている。
多くのゴールを積み重ねてきたカプートだが、彼の得意なフィニッシュスタイルはどのようなものなのか。

上の図を見ると、カプートのフィニッシュがすべてペナルティエリア内から打たれていることが特徴的だ。そして、期待値が比較的大きいことも読み取れる。つまり、ゴール前でフリーになってシュートを打っているのだ。
カプートが得意とするのはエリア内で相手DFのマークを外してのワンタッチフィニッシュだ。サイドから上がってくるクロスボールに、ドンピシャのタイミングで合わせて決める。
あるいは、味方MFが前を向いた瞬間に裏へ動き出してラストパスを引き出し、冷静に決める形だ。 カプートはスピードに優れているわけでもなければ、フィジカル的な強さも、高さも持っていない。だからこそ、瞬間のタイミングで勝負するスタイルを磨いてきたのだろう。
こうしたスタイルが、カプートを息の長い選手にしているのだ。
↓ カプートのゴール集
ビルドアップに関しても、カプートはフリーになれるスペースを求めてうごきまわる。前後左右に大きく動き回るダイナミックポストを身上としているのだ。



上の場面のように中盤に引いてくることもあれば、サイドに流れて起点になることもできるし、裏に飛び出して直接スペースをアタックする意欲も旺盛だ。カプートのオフサイド数はチーム内で断トツの数値となっている。
ボールを受けた後、フリーの味方に届けるプレーも的確。サイドへの展開から、近寄ってきた味方へのやさしい落としまで使い分ける。コンタクトを受けなければ、精度は高い。
このように、ビルドアップに広域に絡みながらゴール前でクロスボールをフィニッシュするスタイルを持つカプート。ボール保持を軸に掲げるチームとの相性がいいプレースタイルと言える。 デゼルビのサッスオーロで全盛期を迎えたのも、ダビデ・ニコラ就任後に重心を落としたエンポリで定位置を失っているのも妥当だろう。
すでに36歳となっているカプートだが、いったいあと何年セリエAの舞台でゴールを積み重ねていくのか注目だ。
アルベルト・チェッリ

セリエAイチ顔が四角いアルベルト・チェッリは父ダビデと同じパルマユースで育ち、パルマのトップチームでプロデビューしたストライカー。8歳の頃にサッカーを始めてからパルマ一筋だった。
しかし、プロ契約後は一転して様々なクラブを転々とする日々を送る。16歳でプロデビューしてから今年でプロキャリア12年目だが、今冬加入したエンポリで8クラブ目である。移籍した回数だけで見れば10回目だ。
ユベントスが保有権を持っていた時期もあったが、スカッドに加えられたことはなし。セリエBとセリエAを往復しながらのキャリアとなっている。
194cm・91kgという巨漢ストライカーであるチェッリは、そのフィジカルを活かして相手との競り合いを制しながら押し込むフィニッシュを得意としている。典型的な「頭フィニッシュ」である。

↓ 空中戦の強さを見せた場面。
このように競り合いに関して自信を持つチェッリだが、にもかかわらずマークを外す動き(スマルカメント)にも優れているのが特長だ。
チェッリは前向きにゴール前に入っていくとき、ほとんどの場面でワンフェイク入れて相手のDFに揺さぶりをかける。先ほどの動画の場面でも、ワンフェイク入れてから競り合っていることがわかるだろう。
空中戦に強い選手は得てしてスマルカメントを苦手とする、もしくはやらないものだが、チェッリはここをしっかりとやっている点で好感度が高い。インテルやローマで活躍したエディン・ジェコを想起させる。
機動力が非常に低いためゴール前に入っていく時間が必要になるものの、ピンポイントでボールが入ってくれば強さを発揮してくれるのがチェッリだ。
↓ ワンフェイク入れてフリーになってから右足で決めた場面。
さらにジェコに通じるのが、ポストプレー面だ。長身で頑強なチェッリだが、ポストプレーではダイレクトでの落としを選択することがほとんどだ。体を張ってボールをキープし時間を作ったり、強引に突破したりといったプレーはほとんどしない。代わりに、味方との連携力に優れているのだ。
近寄ってきた味方の勢いを殺さないように気を遣ったパスコースを選択できるのもGOOD。テクニックと戦術眼が光る。


さらに、守備に対しても献身的。何度も追い回すほどの機動力はないものの、自分のエリア内にボールが入ってきたときには必ずと言っていいほどボールを奪おうとアクションを起こすのだ。
ゴール前に入っていくのに時間がかかる点、味方との連携力に優れる点を勘案するとボール保持型のチームのストライカーに適任なのではないだろうか。
しかしながら、これまでのキャリアはカウンターを武器とするプロビンチャで過ごしてきたチェッリ。今季のエンポリもまさにそうだ。ここのかみ合わせの悪さが、セリエAでの得点数の少なさにつながっているように感じる。
27歳とこれからキャリアの全盛期を迎えるべき年齢に差し掛かる。
個人的に今回の分析で好きになった選手なので、どこかで爆発してほしいものだ。
エムバイェ・ニアング

セネガル人の両親の元フランスで生まれたニアングは、16歳にしてカーンでプロデビュー。その2週間後に初ゴールを決め、フランストップリーグで2番目に若い得点者となった。
この活躍を注視していたのがACミランが2012年にニアングを獲得したのだが、わずか13日後にミラノ警察によって無免許運転を摘発されている。これに対し、ニアングは「自分は(チームメイトの)バカイェ・トラオレだ」とウソをつき、のちの事情聴取でそんなことは言っていないと否定するなどさっそく悪童っぷりを見せつけている。
その後もニアングはたびたび自動車関連のトラブルを起こしており、最も調子が良かった15-16もシーズン途中の交通事故による負傷でフイにしている。
そして今冬のエンポリ加入後にも、1か月たたないうちに衝突事故を起こしてしまった。
こうして継続的なキャリアを築けなかったニアングは、今冬のエンポリ加入までで12クラブを渡り歩きながらプレーしてきた流れ者だ。
ニアングは身体能力の高さを武器にブレイクした選手だった。優れたスプリンターであるニアングは、ストライドの長さを活かした取れそうで取れないドリブルで局面を打開するウインガーとしてデビューし、そこから徐々にセンターフォワードへと主戦場を移していった。
数年前のニアングは、高い身体能力を活かし様々なパターンで得点を重ねるストライカーだった。
空中戦を制してのヘディングやくさびを受けてからの振り向きざまのミドル、難しい体勢からのアクロバティックなフィニッシュからカットインシュートまで、実に多彩なフィニッシュを持っていた。
↓ キャリア最多のゴール数を記録した18-19の全ゴール
しかし、年々ニアングの得点パターンは変化している。


なぜこのような変化が生まれたのか。
理由はフィジカル能力の陰りだ。全盛期と比べると明らかに増量したニアングは、持ち前のフィジカルに陰りが見られている。ゆえに、身体能力を駆使した理不尽ゴールから、ゴール前で勝負するワンタッチゴーラーに変貌しつつあるのだ。
もともとニアングはゴール前での動き出しをちゃんとやる選手だった。前方にスペースがあればスプリント勝負で相手DFをぶっちぎってフリーになり、深い位置からの折り返しに対してはタイミングよくストップしてフリーになる。
これを研ぎ澄ます方向に向かった印象だ。賢明な判断だろう。
また、ニアングは優れたPKキッカーでもある。キャリア通算15回のPKを功させているニアング。かつてのバロテッリのように、助走中にいったんストップして相手GKの動きを見ながら流し込むスタイルだ。
今冬にエンポリに加入してからすでに4ゴールを奪っているニアングだが、うち3つはPKで奪ったものだ。
ニアングはフィニッシュ以外での貢献度が低い選手である。
ビルドアップに関与する意識は希薄で、ゴール前でラストパスを待つスタイルをとる。
あまりにもボールが回ってこないときにしびれを切らしてボールを触りに中盤に降りてくることがある。そこから前を向き、ドリブルを仕掛ける。ポストプレータイプを強引に分類すると「フォルス9ポスト」になるだろうか。
また非保持時の貢献度も非常に低いものとなっている。
29歳になったニアングは、これからキャリアの最終局面に向かっていく。セリエA恒例の「プロビンチャを引っ張るベテランストライカー」になれるかどうかは、素行面を含めた彼の行動次第だろう。
最後にもう一花咲かせてほしいものだ。
スティーブン・シュペンディ

スティーブン・シュペンディはアルバニア人の両親のもと、イタリアで生まれ育った。
サンマリノのアカデミーを経てチェゼーナのユースに加わった彼は、21-22のプリマヴェーラ2(2部)で20試合23ゴールを挙げて得点王に輝く(チームは2部初優勝)。同シーズン中にプロデビューを済ませると、翌22-23シーズンにはセリエCで27試合12ゴールと活躍した。
これに目をつけていたのが若手育成に定評のあるエンポリで、24-25シーズン終了までの2年レンタルてシュペンディを獲得して現在に至っている。
ちなみに、スティーブンは双子であり、兄のクリスティアン・シュペンディもFWとしてプレーするストライカー。スティーブンが抜けたチェゼーナでプレーしている。
クリスティアンもまた将来有望で、セリエC32節終了時点で24試合20ゴールと昨年のスティーブンを上回るペースで得点を量産中。そう遠くない将来にセリエAで名前を聞くことになりそうだ。
シュペンディは非常に広範囲に動くダイナミックなFWだ。

上のヒートマップを見ればわかるように、ピッチの広いエリアにでボールに絡んでいることがわかる。
181cm・74kgとフィジカル的に屈強なわけでもなければ長身なわけでもないシュペンディは、広く動き回りながら相手のディフェンダーにつかまらないようにしてボールを受けるプレースタイルを確立したのだろう。
ポストプレーは「ダイナミックポスト」に分類できるだろう。
ここまではカプートと同様だ。 両者の違いは、ボールを受けた後のプレー選択にある。カプートは味方を活かすべくシンプルにボールをさばくのに対し、シュペンディはボールを持ったところから積極的に仕掛けていくのだ。
↓ シュペンディのプレー集
上のプレー集を見ると、シュペンディがボールを受けたあとの第一選択肢がドリブルであるということがよくわかるのではないだろうか。
自ら持ち込んでフィニッシュまで完結させるのがシュペンディのスタイルなのだ。
しかしながら、前述のようにシュペンディはフィジカル的に特別なものを持っているわけではない。セリエCまでなら相手DFを突破できていたかもしれないが、フィジカル的なベースが格段に上がるセリエAの舞台では、シュペンディはなかなか持ち前の突破力を発揮できていない。
相手をぶっちぎるようなスピードも、強引にこじ開けるパワーも持っていないため、現在のプレースタイルを変更しなければ行き詰まる可能性が高いのではないだろうか。
あるいは、ポジション変更も解決策になるかもしれない。サイドに回ってもプレーできるのがシュペンディの強み。ならば、サイドをベースポジションにして適宜インサイドに入り込み、ドリブルで仕掛けつつクオリティを発揮するのもひとつの策だろう。
いずれにしても、現状のままではブレイクを果たせるか微妙、というのが正直なところだ。とはいえまだ20歳になったばかり。シュペンディの今後の動向を注視したい。