リッカルド・カラフィオーリとは何者か

リッカルド・カラフィオーリは、9歳でASローマの下部組織に加入して以降ローマ一筋で育ってきた。U-15から各年代別イタリア代表に常に名を連ねてきたエリートで、2019年には英紙『ガーディアン』がまとめた2002年以降に生まれたサッカー選手ベスト60に選ばれ、2021年にはUEFAが選出した最も有望な若手選手50人のひとりに選ばれた…と書くとずっと順風満帆なキャリアを送ってきたように思えるが、決してそうではない。

プロ契約を締結した4か月後に左ひざと半月板のすべての靭帯を断裂する大けがを負った。医師に「10年に一度の事故」と言われ、彼のキャリアは断絶の危機にさらされた。

それでも300日もたたずに復帰したがローマのトップチームでは試合に絡めず、心機一転を期したレンタル先のジェノアでも先発わずか1試合におわる。昨季のバーゼルでもシーズンを通して主力で戦ったわけではなかった。

2023夏に、ローマはとうとうカラフィオーリをボローニャに売却する。その金額は400万€+ボーナス。決して期待された若手へ支払われる金額ではなかった。

しかし、この移籍がカラフィオーリの運命を変える。それまで左サイドバックとしてキャリアを送ってきた彼に、チアゴ・モッタはセンターバックとしての適性を見出したのだ。

なぜ彼をセンターバックとして起用しようと思ったのだろう。たしかにルクミが離脱して頭数は減っていたし、バーゼルでセンターバックは経験していた。しかし、本職のセンターバックはまだほかにもいたはずだ。

いや、そんなことはどうでもいい。チアゴ・モッタのこの「発明」は、イタリアサッカー界の歴史を変えるものだったかもしれない。後世、モッタはノーベルイタリアサッカー賞を受賞するかもしれない。

それほどに彼は完璧なセンターバックであり、いまやイタリアで、いや世界でも屈指のセンターバックなのだ。

何がそんなにすごいのか。彼のすごみを具体的に見てみたい。

 

 

保持

元々はサイドバックであるカラフィオーリは、センターバックとしては非常に機動力とスタミナに優れている。この特性を活かすべく、チアゴ・モッタはカラフィオーリに対し、最終ラインと中盤を行き来しながら攻撃を組み立てるタスクを与えた。

マンチェスター・シティでストーンズが偽CB戦術を任されたように、カラフィオーリもまたCBの位置から解き放たれて縦横無尽にふるまうのだ。

SofaScoreより、今季のカラフィオーリのヒートマップ。ミドルサードの左半分全域をカバーしており、最終ラインだけでなく中盤エリアでも頻繁にボールに絡んでいることがよくわかる。

カラフィオーリが素晴らしいのは、自分がボールを受けるための列上げと、味方へのパスコースを作り出すための列上げを使い分けられることだ。

たとえばこの場面。ラウタロが前に出て自分へのコースを消そうとしたことを察知し、前方のスペースへ移動するカラフィオーリ。
完全フリーとなってボールを受け、相手のプレスを打開した。

この場面のように、相手の第1ラインが横並びになっている場面では、自分が前に出ればCBどうしの斜めのパスコースが開通することをカラフィオーリは感覚的に理解している。

続いて別の場面。ボローニャが相手の激しいプレッシングにさらされている。このとき、カラフィオーリは前に出てくるベロッティに向かっていくようにして列を上げる。
この動きに面食らったベロッティは前進を止めている。
この一連の動きでCBからLBへのパスコースが開通し、相手のプレッシングを打開することに成功した。

この場面のように、プレスに出てくる相手アタッカーとぶつかるようにして前に出ていく動きはカラフィオーリの得意技だ。

こうすることによって相手のアタッカーは、カラフィオーリについて行かざるを得なくなり、相方CBからLBへのひとつ飛ばしのパスコースが開通することをカラフィオーリは理解している。自分の動きひとつで、ボールと直接かかわらなくても相手をコントロールできることを知っているのだ。

このように、カラフィオーリは自分がボールを受けるための動き出しと、味方をフリーにするための動き出しを使い分ける、極めてインテリジェントなプレーヤーだ。

 

余談だが、ボローニャはカラフィオーリの相方もどんどん中盤に上がっていく。シティは片方のCBが上がればもう片方はステイしていた記憶だが、ボローニャはCBの両者中盤化もいとわない前衛的なスタイルだった

 

↓ 中盤でボールを持ったカラフィオーリよりもさらに前方に出現した相方CBベウケマがボールを受け、アシストした場面。

 

チャンピオンズリーグで、インテルの3CB全員が中盤に上がっている画像が話題となったように、CBを組織としてのダイナミズムに組み込んでいるのはチアゴ・モッタだけではない。ボローニャの新監督就任が決まったイタリアーノも、CBを中盤に上げていた。その先鞭をつけたのは、サイドCBに積極的な攻撃を促すスタイルを貫き、ついにEL王者となったアタランタのジャンピエロ・ガスペリーニだ。

セリエAでは、いまやCBは意図的に攻撃に組み込まれている。その最新作がカラフィオーリというわけだ。

 

話がそれた。カラフィオーリに戻ろう。

オフ・ザ・ボールのインテリジェンスも素晴らしいカラフィオーリだが、ボールを持っても違いを生み出す。

たとえば、カラフィオーリは前方にスペースがあれば積極的に持ち上がる。一気に20~30m持ち上がることもいとわず、局面を大きく前に進めることができる。

FBref.comによれば、カラフィオーリは今季のセリエAのCBの中でProgressive Carrying Distance(縦方向のキャリー距離)が7番目に長かったそうだ。

それも、ただ運ぶだけでなく、相手を突破するようなドリブルを選択できるのが彼の強みだ。下の場面を見てみたい。

ベロッティが逆サイドへ展開するコースを切ってきたことを認知したカラフィオーリは、ドリブル突破を仕掛ける。
ベロッティを完全に置き去りにし、状況を打開した。

突破した後のプレー選択にはまだ改善の余地があるのだが、とはいえ長くセンターバックとしてプレーしていてこのような選択をできる選手は少ない。サイドバックとして運ぶドリブルになじんできたカラフィオーリだからこその強みだといえる。

FBref.comより、5大リーグのセンターバックと比較したときのカラフィオーリのパーセンタイル。Take-Onsとはドリブル突破のこと。カラフィオーリの数値が非常に高いことがわかる。

 

さらには、サイド高い位置に出現してクロスボールを放ったり、あるいは中盤に上がった流れからそのまま攻撃参加し直接フィニッシュに絡むこともある。神出鬼没に敵陣を脅かせる能力は、多くの選手が持つものではない。

 

↓ MF化しボールを受け、そのまま持ち上がってアシストした場面。

↓ ボール奪取からそのまま攻撃参加し得点を奪った場面。

 

後方でボールを持った時の球出しもすでに十分なクオリティにある。

フリーな味方を読み取る能力に優れ、ショートパスのだし先を的確に選択できるだけでなく、遠くの状況も把握していて正確なロングフィードも蹴れる。レフティーだが右足でボールを離せるのもGOODだ。

まだ多少パスがずれる場面が散見されるものの、今季が本格的にCBとしてプレーする初年度だと考えると合格点以上の出来なのは間違いない。今後の伸びしろととらえたほうが良いだろう。

 

  • オフ・ザ・ボールの動きで状況をコントロールでき、
  • 長短のパスとドリブルを組み合わせながら組み立て、
  • 90分通して最終ラインと中盤を行き来する機動力とスタミナを持ち、
  • 中盤でも問題なくプレーできるビジョンを持ち、
  • 神出鬼没にフィニッシュにも絡む。

モダンCBに求められる保持能力をまんべんなく、かつハイレベルに備えている選手だと言って差し支えないだろう。

 

非保持

それでは、カラフィオーリの非保持はどうなのか。

ここでもベースになってくるのは機動力の高さだ。

カラフィオーリは、対面の相手にボールが入ってくるタイミングでまずインターセプトを一番に狙う。縦パスが入ってくるタイミングを読み、一気にギアを上げてボールにアタックする。瞬間的なスプリント能力の高さもあって、カラフィオーリのインターセプト成功数はセリエA6位の高数値となっている。

FBref.comより、カラフィオーリの直近1年間のデータを5大リーグのCBと比較したときのパーセンタイル。インターセプトに関しては、トップクラスであることがよくわかる。

↓ カラフィオーリのインターセプトが起点となって生まれた得点。

↓ インターセプトからフィニッシュまで

 

最初の段階ではインターセプトを狙う一方で、相手にいい状態でボールが入ってしまった時には、冷静に対応しながらチャンスをうかがうこともできる。

そのベースにあるのは、相手に縦に仕掛けられたとしてもついていけるスプリント能力を持っていること、そこに裏打ちされた自信と落ち着きだろう。

カラフィオーリが相手にスプリント勝負で負ける場面はほとんどない。相手のドリブルにしっかりとついて行きつつ、相手の体とボールが離れた瞬間に体を入れる、あるいはタックルを仕掛けてボールを奪い去る。

ファウルで無理にとめる、あるいはあわてて飛び込んでかわされることはほとんどなく、対人守備力は非常に高いといえるだろう。

 

また、カラフィオーリは地上戦だけでなく空中戦にも強い。それも、めちゃくちゃ強い

カラフィオーリの今季の空中戦勝率は71.4%でセリエA5位タイという高数値で、イタリア屈指のエアバトラーと言える。

落下地点をめぐるデュエルで負けないフィジカル的な強さ、相手よりも少し先に飛んで自由を奪う駆け引きなど、ずっとセンターバックとしてプレーしていたかのようなプレーぶりが際立つ。

さらに、クロスボールが上がってくるときの準備の良さも彼の空中戦勝率の高さを支えている。危険なエリアを埋めるポジショニングはもちろん、相手を間接視野に入れられる体の向きの作り方や、ボールがずれたときに移動できるよう足を止めないなど、細かい部分まで見ても素晴らしい。跳ね返し性能にも長けるプレーヤーだといえるだろう。

 

  • スプリント、アジリティ、ストレングスといった総合的なフィジカルに優れ、
  • 地空ともに対人に強く、
  • 前に出るインターセプトから裏を取られたときの背走までソツがない

非保持面でも現代CBに求められる要素を備えたプレーヤーだといえるだろう。

 

総合的な能力は非常に高く、CB分類マトリックス上では文句なしで「ポジショナルCB」に位置づけられる。

今後目標とすべきは、バストーニだろう(実際、カラフィオーリはバストーニのプレーに感銘を受けていると語っている)。アタランタの下部組織出身で、インテルで3バックの左を確固たるものとしてきたバストーニは、前述のような「攻撃参加するCB」の先駆者的存在だ。

バストーニは地を這うようなライナー性のフィードを蹴ることができるし、サイド高い位置に上がっていったときのクロスボールの質は最上だ。彼と比較すると、カラフィオーリはキックの種類と質が劣っていると言わざるを得ない。総合的な完成度が一枚上手な先輩に追いつき、追い越せるか注目だ。

 

充実のシーズンを送ったカラフィオーリ。今季は負傷で離脱したのは3日のみで、キャリアを通して初めてほぼケガなく過ごしたシーズンとなった。

シーズン後にはイタリア代表に初招集されると、EURO開幕戦でパオロ・マルディーニに次ぐ若さでスタメンに抜擢され好パフォーマンスを披露した。

本人は恩師チアゴ・モッタが加入したユベントス行きを熱望する一方、ボローニャには売却の意思がないとも伝えられているカラフィオーリ。現時点で未来は不透明だが、間違いないのはEURO後に争奪戦が繰り広げられることだ。

来季はどこでプレーしているのだろうか。注目したい。

 

 

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