ジョシュア・ザークツィーとは何者か

ジョシュア・ザークツィーは、ナイジェリア人の母親とオランダ人の父親の間に生まれた。ミドルネーム「オボロサ」は、ナイジェリアのエサン語で「神の御手の中にある」という意味だそうだ。ちなみに、オランダ語でZirkzeeを発音すると「ジルクゼー」が最も近いようだ。

5歳でアマチュアクラブでサッカーを始めたザークツィーは、ADOテン・ハーグ、フェイエノールトのユースを経て、バイエルンのユースチームに加わった。

リザーブチームであるバイエルン・ミュンヘンⅡでのデビュー戦でハットトリックを達成するなど注目を集めたザークツィーだったが、レバンドフスキの高い壁もあってトップチームにはなかなか絡めず。2021冬に出場機会を求めてセリエAのパルマにレンタルに出されたものの、靭帯の損傷もあって4試合しかプレーできずとなかなか才能が芽吹かなかった。

2021夏に1年レンタルされたアンデルレヒトでチーム得点王となる16ゴール9アシストでシーズンを終えたものの、翌年夏に完全移籍したボローニャの初年度にはライバルのアルナウトビッチの存在もあって先発は5試合のみ。パフォーマンスにムラがあって安定感に欠け、信頼をつかみきれなかった。

なかなかパフォーマンスが安定しなかったザークツィーだが、ついに今季、彼の才能が完全開花することになる。チアゴ・モッタによってアルナウトビッチが抜けた前線の主軸に指名されると、水を得た魚のように躍動。シーズン通算12ゴール6アシストと数字を残したのだ。

今季の活躍を受けて、夏の市場の人気銘柄となっているザークツィー。彼のすごみはどこにあるのか見ていきたい。

 

ポストプレー

センターフォワードを基本ポジションとしているザークツィー。運ぶ局面では、ポストプレーが求められることになる。まずは彼のポストプレーについて分析してみよう。

長身で屈強な肉体を持つザークツィーは、相手を背負ってボールを引き出す背負い型のポストプレーヤーに見える。しかし、実際には非常に機動力に優れており、頻繁に中盤にまで下りてくるFW分類マトリックスにおけるポストプレー分類でいけば、「フォルス9ポスト」に分類されるポストプレーヤーである。

ボールを受けるべく、アンカーの横にまで出現するザークツィー。

彼が得意とするのは、ハーフスペースかつライン間に顔を出して最終ラインからの縦パスを引き出すプレーだ。サイドバック、セントラルMF、ウイングからなるサイドユニットが連動してできたスペースを見出し、トライアングルに対する+1としてビルドアップの出口となるのだ。

サイドバック、セントラルMF、ウイングのトライアングルの先に現れ、ひし形の頂点となるザークツィー。
縦パスを引き出し、ビルドアップの出口となった。

基本的には相手のマークを外して足元にボールを引き出すことを好むザークツィー。それは、彼が前を向いた時に最大限強みを発揮するからなのだが、その説明は後に回そう。

フリーでボールを受けたがるザークツィーだが、決して相手を背負ってのプレーが下手なわけではない。いや、むしろ体の使い方はめちゃくちゃうまい

ボールと相手DFの間に体を入れて遠い方の足でボールをキープするという基本に忠実なプレーを確実に実行し続ける。常にファーストタッチで思ったところにボールを置けるテクニックとコンタクトを受けても全くぶれない屈強なフィジカルが光る。相手と競り合いながらでもパスやトラップがずれないのが彼のすばらしいところだ。

さらに、背負った状態から相手を剥がす技術に関しては一級品だ。

相手がボールを奪うべく寄せてきているなら、その矢印を読んで逆をとるようにターンし前を向く。相手に体を密着されているなら、DFを背負って体でボールを隠した状態でフェイクを入れて相手のバランスを崩す。いずれにしても相手をかわして完全に置き去りにしてしまうテクニックはあっぱれだ。

再びトライアングルの先に出現してボールの受け手となるザークツィー。
相手が背後から勢いを持って寄せてきたのを認知し、フェイクを入れながらボールを横にズラす。
ボールを相手の矢印上から外したうえで、体を入れながら縦に持ち出す。
完全に置き去りにした。

ひとたびザークツィーが前を向いてしまえば、それこそ何でもできる。

たとえば、ドリブル突破。ザークツィーは1トップでありながらリーグ屈指のドリブラーでもある。ドリブル突破試行数はリーグで5位、成功数は同6位だ。

FBref.comより、23-24セリエAのドリブル突破成功数トップ20。ザークツィーとサマルジッチ以外はみなサイドプレーヤー。ストライカータイプはザークツィー以外に誰もいない。彼の特異性がよくわかる。

ザークツィーは、ターンの時と同じで相手が飛び込んでくればその矢印が届かないところにボールを運んでかわす。

相手が動かずに様子をうかがってくれば、自ら仕掛けて何らかのアクションを促してからその逆をとって出し抜く。キックフェイントやシザースなどのフェイント、タイミングをずらしたタッチで意表を突く、ボールをさらして相手に足を出させてから股を抜くなど、南米の選手かのようなドリブルが魅力だ。

 

↓ 相手に足を出させて突破した場面。そこからためを作り、タイミングをうかがってからのスルーパスでアシストした。

 

さらに、ザークツィーはパスセンスに優れている。それも、両足から様々なレンジのキックを正確に蹴り分ける

たとえば、ミドルゾーン低めの位置でのポストプレーから前を向いた場面では、両サイドに張って待つウインガーに正確なフィードを送り届ける。

さらに、より相手ゴール近い位置でボールを持てば、走り込む味方へ正確なラストパスを供給する。このとき、ただパスを出すだけでなく、次にどんなアクションをするのかわからないようなボールの持ち方をして完全に相手の足を止め、タイミングをずらしてからパスを出すのが彼の特徴だ。

味方を見逃さない視野の広さに目がいきがちだが、このタメこそが彼のファンタジアの表れだ。最適なタイミングまで我慢することで、相手を迷わせてタイミングをずらすとともに、味方にスペースへ走り込む時間を与えることができる。「時間を曲げる」という表現がこれほど似合う選手もいないと思う。

1トップにいながら、彼のプレーぶりは上質な10番のそれだ。10年前までなら、トップ下をやっていたようなプレーヤーなのだ。

 

 

フィニッシュ

しかし、彼は1トップとしてプレーしている。彼はストライカーでもあるのだ。それでは、彼はどのようなパターンでの得点が得意なのか。

ここで、下の画像を見てもらいたい。

FBref.comより、FW登録の選手におけるシュート平均距離が長い選手から順に並べたランキング。ザークツィーは10番目にシュート平均距離が長く、その距離はペナルティエリアの長さを越えている。他の選手たちは、コロンボを除くとみなウイングタイプだ。

このように、ザークツィーは非常に遠距離からのシュートが多くなっている。これは、彼がビルドアップ時に頻繁に中盤に降りること、足元にボールを引き出したがることと無関係ではない。

こうなると、必然的にシュート態勢を取った時に相手が前に立っていることが多くなる。また、ザークツィーは敏捷性に優れているわけではなく、シュートモーションは非常に大きい。これでは、普通にシュートを打ってもシュートブロックに入られる確率が高く、相手GKもゆっくりとタイミングを合わせて準備できる。

そのため、ザークツィーはシュートを打つときにもドリブル技術を駆使して相手を動かし、かわしてからフィニッシュに持っていくことが多い。この時多用されるのはキックフェイントだ。

 

しかしながら、結局目の前のDFをかわしても、GKはしっかりとタイミングを合わせられるため被セーブ率は高くなっている。

シュート数でセリエA7位、枠内シュート数同9位でありながら11ゴールは確率的には際立って高くはないという評価になるだろう。

それでは、結局どんな形からの得点が多いのか。

unterstatより、ザークツィーのゴールに関してシュートを打った位置をピッチ上にプロットし、期待値の大きさを円の大きさとして表現したもの。

上の画像を見ると、やはりザークツィーのゴールの多くはペナルティエリア内から生まれていることがわかる。ゴール前に侵入し、味方からのラストパスを受けたときにゴールが多く生まれているのだ。

ちなみに、アンデルレヒト時代にはよりこの傾向が強かった。

しかしながら、ザークツィーはあまりゴール前に入っていくことを好まない。それは、彼が競り合いを得意としていないからだろう。

特にヘディングはザークツィーの苦手項目。ブンデスリーガ、ジュピラー・プロリーグ、セリエAと3か国の1部リーグで33ゴールを積み重ねて着たザークツィーだが、ヘディングでのゴールはゼロ。ひとつもないのだ。

空中戦が苦手なザークツィーはゴール前に入っていくときにも空いたスペースへ走り込む、あるいは急停止して相手の手前で足元にボールを引き出したがるのだ。フィニッシュタイプでいうと「頭フィニッシュ」ではなく「ワンタッチフィニッシュ」であるということ。それも、大柄な体格の割には極端に「ワンタッチフィニッシュ」に偏っている。

 

あるいは、頻度は多くないが、相手の最終ラインが高ければ背後に飛びだすセンスも持ち合わせているFW分類マトリックス上の「1対1フィニッシュ」だ。

 

いずれにしても、左右両足でバランスよくフィニッシュできるのがザークツィーの魅力だ。前述の33ゴールの内訳は、PKを除くと右足16、左足13だ。非常にバランスがいい

 

さて、彼のフィニッシュタイプをマトリックス上に位置づけるのは非常に難しいところだ。最も多くみられるのは「ミドルフィニッシュ」だが、結局は最も多く得点をとっているのは「ワンタッチフィニッシュ」である。両者の中間に位置付けたいところだ。

前述のように、アンデルレヒト時代にはよりワンタッチフィニッシュによって多くの得点を奪っていた印象のザークツィー。チームで任されているタスクによってその濃淡が出そうだ。

 

 

非保持

最後に非保持に関しても軽く触れておきたい。

創造的な10番タイプと言えば、守備には全く無関心であるというのが定説になっている。しかし、ザークツィーはその類ではない。非保持時の貢献度も決して低くはないと見ている。

 

〈FBref.comよりスタッツ引用〉

  • タックル総数:32(FW登録の選手の中ではセリエA2位
  • ミドルサードでのタックル数:15(FW登録の選手の中ではセリエA2位
  • パスブロック総数:23(FW登録の選手の中ではセリエA4位タイ

 

上記のように、セリエAに所属するFWのなかでは守備アクションが非常に多いのがザークツィーのスタッツ傾向となっている。

上記の「FW」の中にはウインガーも含まれているため、ストライカータイプの中で見るとよりその数字は際立つ。

 

特筆すべきはネガティブトランジション時のプレスバック意識の高さだ。ボールロストした瞬間にゲーゲンプレスに参加する意識が非常に高いばかりか、一度剥がされても二度追い、三度追いも辞さず、気づけばサイドバックとともに自陣で守備に参加していた、という場面も多いのだ。

特に自分がボールロストしたときには自ら責任を取ろうとする意識が非常に高い。ファンタジスタでありながら、チームプレーヤーである。

ボローニャがボールロストした場面、ザークツィーがゲーゲンプレスを発動する。
そのままボールを追いかけて自陣までプレスバック。
結局自陣ペナルティエリア内まで戻ってタックルを仕掛けた。
ボール奪取に成功。

↓ アンデルレヒト時代、ボール奪取からゴールにつなげて場面。

 

今後は、非保持に関するテクニックも磨いて行ってほしい。特にカバーシャドウの意識が希薄で、せっかくのファーストプレスが相手の攻撃を制限できていない場面が多い。組織的なプレッシングの中でもより効果的に機能できれば、さらにワンランク上の選手になることができるだろう。

 

 

あとがき

23-24シーズンには公式戦12ゴールを記録したザークツィー。しかし、12ゴールというのはストライカーとしては特段飛び抜けた数字ではない。それでもザークツィーがビッグクラブの熱視線を集めているのは、彼が単なるストライカーなのではなく、攻撃の総合デザイナーであるからだ。

ただの12ゴールではなく、12ゴール6アシストであることが重要なのだ。

組み立てへの参加から攻撃の最終局面のデザイン、自らフィニッシュまでをこなす選手はそうそうない。

とはいえ、ザークツィーには空中戦という明確な弱点もある。ロングボールやクロスボールのターゲットとしては不適格で、彼を起用するクラブは何らかの形でその機能を補う、もしくは丁寧に各選手の足元を使って試合を組み立てる戦術の構築を求められることになる。

現在、ザークツィー獲得のポールポジションに立っているのはACミランだ。プレミア方面、特にマンチェスター・ユナイテッドが熱心に動向を追っているが、本人の希望はイタリア残留だといわれている。個人的には、彼のようなファンタジスタにはぜひ残ってもらいたいところだ。

 

もしミランに移籍するとしたら、最前線でターゲットになれるルベン・ロフタス=チークをトとの相性が抜群だろう。彼をトップ下で起用すれば、ザークツィーにはない力強さを補ってくれるに違いない。

そして、ミランはザークツィーとは関係なくアルマンド・ブロヤの動向を追っているとされ、ルカ・ヨビッチとの契約延長も間近とされる。彼以外のストライカーの動向を追っているミラン。個人的には、ザークツィーをトップ下で起用することも想定しているのではないかとひそかに期待している。

ドリブル、パスなどの基礎技術がハイレベルで、水準以上の守備意識も備えるザークツィーは、トップ下でも十分機能すると思う。他のストライカーとの併用も見てみたいところだ。

いずれにしても、彼の将来はEURO2024後に決まるだろう。来季どこでプレーしているのか、まずは夏の市場での動きを見てみたい。

 

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