パルマ・カルチョ1913の戦術詳解

セリエA黄金期に2度スクデットを獲得するなど、かつてはセブンシスターズの一角に数えられる強豪だったパルマ。しかしながら、2015年に破産してしまいセリエDからの再スタートに。3年連続の昇格でセリエAへ舞い戻ったものの、20-21に最下位で降格してから直近3シーズンはセリエBで過ごしていた。

そして迎えた今シーズン、パルマはセリエB王者の称号を引っ提げて再びAの舞台に舞い戻ってきた。彼らは夏のメルカートで目立った補強をせず、セリエBを制したスカッドをそのまま持ち上がるという方針を取った。

これが大当たりで、多くのチームが監督交代とともにスカッドを大きく入れ替えて新チーム作りにいそしむ環境下にあってはなおさら完成度の高さが際立っている。

「必要最低限の補強」の一角を占めることとなった鈴木彩艶の躍動もあって、日本人として、いやそれとは関係なく見るべきチームとなっている。

彼らは一体どんな戦略をとってセリエAに旋風を巻き起こしているのか見ていきたい。

24-25パルマのベースフォーメーション。

 

 

保持局面 ~縦に速く!を徹底~

パルマの攻撃コンセプトは「縦に速い攻撃」。これに尽きる。

ボールを奪った直後はもちろん、自分たちのゴールキックから始まる攻撃でも素早く敵陣にボールを送り込み、それに合わせて多くの人数がゴールへ向けてなだれ込んですばやくフィニッシュに持ち込もうとする。

これを実現するためのキーマンとなっているのが、FWアンジェ=ヨアン・ボニーとGK鈴木彩艶だ。

 

最前線でターゲットとなるアンジェ=ヨアン・ボニーは、屈強なフィジカルとそこからは想像もつかないような繊細なボールタッチにやわらかいラストパスで攻撃の起点となる若干20歳のストライカー。目下24-25セリエA最高のポストプレーヤーだ。

ボニーにボールが入ったら前線へ飛び出せ!というのがチームの決まり事として浸透している。

ミハイラ&マンのウイングコンビを基本に、トップ下のゾームやサイドバックのヴァレーリらが前線へ殺到する。

これがとにかく徹底されていて、毎回4、5枚が速攻に絡むそれを90分間継続する。シンプルだが、全員の目線がそろっていて、90分間愚直にやり続けられる一体感があることにこそパルマの攻撃の怖さのがある。

ボニーにボールが入る場面。3枚が絡みに行く。

 

そして、「ピンポイント補強」の目玉となった鈴木彩艶は、敵陣深い位置まで余裕で到達するロングフィードを装備している。ペッキア監督にとって、鈴木のフィードは「敵陣に速く到達する」を最も簡単に実現できる飛び道具となっているのだ。

自身のフィード性能を存分に発揮できる戦術下に置かれている鈴木は、今季のセリエA最高の「最後尾の司令塔」となっている。セリエAに挑戦してきた日本人はこれまでもいたが、チーム戦術の核となった日本人選手は彼が初めてだろう。そういう意味でも、今のパルマは必見なのである。

FBref.comより。3節終了時点で鈴木の「縦方向のパス総距離」はセリエA3位。チームの前進にとって欠かせない司令塔となっている。

 

 

この2人を起点に、パルマの縦に速い攻撃が繰り出される。鈴木が一気に敵陣にボールを届けると、拾ってボニーにボールを預ける。これをサインにさらに攻撃を加速、後方から敵陣に選手が殺到し一気にフィニッシュを目指す。

これが形になったのがパルマの24-25ファーストゴールだった。

鈴木のフードを受けたヴァレーリがヘディングでボールを前線に送ると、ボニーが相手DFを弾き飛ばしてボールを収めて冷静にラストパス。デニス・マンがコントロールショットを決めた。

 

この形をベースとしつつ、ペッキア監督はビルドアップにさらなるパターンを与えている。

鈴木と横並びになるほど低い位置でCBをワイドに開かせ、そこにボールを入れる。この横パスにより相手のプレスを誘引、DFラインとMFラインのライン間を広げる
広がったライン間にウイングやボニーがタイミングよく顔を出し、CBから縦パスを入れて前進完了。

上記のようなCBを使ったビルドアップが実現できるのも、鈴木のロングフィードがあるからこそだ。

最後尾からのミサイルフィードをひとたび見れば、相手が最終ラインを高く保つことは容易ではない。

相手が鈴木のフィードを警戒すればするほど、相手のプレスを誘引できたときにライン間は広がっていく。鈴木のフィードをのど元に突きつけるからこそ、CBを使ったビルドアップの効果は増していくのである。

 

↓ 縦パスの供給源がSBだったとはいえ、ミラン戦の先制点はまさに相手のプレスを誘引したところからひっくり返して決めた得点。これまた狙い通りの形だといえるだろう。

 

 

非保持局面 ~カウンターの準備~

続いて、パルマの非保持局面を見ていきたい。

フィオレンティーナ戦では、開幕節+ホームゲームという背景もあってハイテンションなプレッシングを仕掛けていたが、続くミラン戦、ナポリ戦ではミドルプレスを採用していた。

ミラン、ナポリが明確な格上だという理由もあるのだろうが、ここまでの3試合で基軸となっていたのはミドルプレスだ。その構造について解剖していきたい。

 

ベースとなるのはトップ下のゾームがボニーと並び立って最前列を形成する形だ。そうなるとベーシックな4-4-2になりそうだが、パルマにあって特徴的なのはWGの配置だ。

FWラインと並ぶくらいの高さ、かつハーフスペースまで極端に絞ったポジショニングをとる。そのため、陣形としては4-2-4のような陣形となるのだ。

 

FWラインを4枚にすることの狙いは何なのか。

 

ひとつは、センター3レーンを強力にプロテクトすることだ。

両WGが絞り込んでくることによって、4枚が中央3レーンに密集。2トップが相手のレジスタを消し、WGがハーフスペースの選択肢を制限する。さらにその隙間の選択肢を2ボランチがケアすることで、相手としては中央にボールを入れることが非常に困難になる。

4+2の2列が横方向に非常にコンパクトにまとまり、さらに最終ラインもしっかりとラインをコントロールして縦方向のコンパクトネスを維持する。フィオレンティーナ、ミラン、ナポリといえどもパルマのブロック内にボールを入れることができた場面はほとんどなかったと言っていい。

パルマのコンパクトなブロックは、そしてとりわけ4枚のFWラインは、相手の攻撃を外回りにすることを強要するのだ。

 

そして、もうひとつの狙いはカウンターの威力の増強だ。FWラインに4枚を残しておけば、それだけ初期からカウンターに参加できる人数が増えることになる。パルマの鋭いカウンターの秘訣は、非保持時の陣形にあったわけだ。

しかし一方で、FWラインに4枚をかけることにはリスクもある。それを突破されたときに、残りの6枚で守らなければならない局面が出てくるのだ。

特に、パルマのFWラインは中央3レーンに密集しているため、相手サイドバックのポジションはがら空き。ここを経由して迂回されると、簡単にFWラインは突破されてしまう。

そうなると、DFライン4枚とMFライン2枚の6人でブロックを組むことになる。FW1人のみ残した9枚ブロックも珍しくない中で、6人で守るのはなかなかリスキーだ。

しかしながら、パルマは最も危険な中央エリアにリソースを絞り、選手を配置することでうまく守っている

特に重要な役割を担っているのがボランチの2枚。サイドかつウイングが対応しきれない高さまでボールを運ばれたら、ボランチがスライドして対応するのが約束事になっている。WGが戻ってくるまで、SBとともにサイドの守備に参加するのだ。そして、相方のボランチはがら空きになるセンターをひとりで守ることが求められる。

最終ラインに関しては純粋なゾーンディフェンスに近く、相手に釣られることなく最も危険なエリアにポジションする。昨季からの入れ替わりはヴァレーリのみというDFラインはしっかりと統率されており、整ったラインコントロールでコンパクトな陣形の維持とセンターエリアのプロテクトを実現している。

一連の流れを画像でも確認。両WGのマンとミハイラはFWラインの高さかつハーフスペースまで絞った立ち位置で中央ゾーンを強力にプロテクトする。ボランチのエステベスとベルナベはライン間の選択肢を警戒する。
サイドにボールが出てきたら、対応に出ていくのはボランチ。運動量とカバーエリアの広さが求められる
そのままSBとともにサイドの守備に参加するエステベス。相方のベルナベがマイナスの折り返しに対応できる立ち位置を取り、逆サイドのSBクリバリがしっかり絞って危険なエリアを埋める。限られたリソースをフル活用し、危険なエリアを埋めているのだ。

こうした緻密な守備構造をもってしても、セリエAレベルの相手ならチャンスを作ってくる。だからこそ、鈴木彩艶にはゴールを守る局面でも大きな期待がかかる

ここまでのセーブ率は88.2%という高数値でセリエA3位。抜群の反射神経を活かしたセービングが光っている。

ハイラインを敷く最終ラインの裏を守るスイーパーとしての能力も高く、積極果敢な飛び出しで相手の攻撃をシャットアウトしている。攻撃面だけでなく、守備においても鈴木はチーム戦術の裏支えとなっているのだ。

 

 

守→攻の局面

パルマの最大の武器となっているのが、この守→攻の局面。いわゆるカウンターだ。

その切れ味を担保しているのは、前述の守備戦術。前線にあらかじめ人員を配置し、カウンターに参加できる人数を意図的に増やしている。

そしてもちろん、個々のタレント力も高い。ボニーの起点としての優秀さは前述の通りで、そこに絡みに行くミハイラとマンは単独で長い距離を持ち運べる。

左SBヴァレーリは必ず追い越しをかける献身性と持久力、そこから効果的なクロスを上げるキック精度を持っており、右SBクリバリはテオをも想起させる推進力あふれる長距離ドリブルを持ち合わせている。

そして、新加入選手であるカンチェリエリとアルムクビストについても触れないわけにはいかない。セリエA屈指の快足ウイングである彼らは、マンとミハイラのWGコンビがへばったタイミングで投入されることによりカウンターの威力を回復させる役割を担っている。

2人のジョーカーの存在により、90分間通してカウンターの威力が担保されている。鈴木彩艶同様、パルマのピンポイント補強はことごとく効果的に機能しているのだ。

 

↓ ミラン戦の決勝ゴールはアルムクビスト&カンチェリエリの2枚で奪ったものだ。

 

いわゆる堅守速攻がパルマのスタイル。それを効果的に機能させるべく、選手の入れ替えよりもスカッドの維持・成熟を選んだ。ピンポイントで足りない駒の補強に成功し、完成度の高いチームが現出している。

あとは、90分通したマネジメントを継続して機能させられるかがポイントだろう。ボールを持ったらとにかく縦へ早く!というスタイルなので、消耗が激しくなること必至。特にWGとSBのサイドプレーヤーは激しい上下動が求められる。また、横方向のカバーエリアが広くなるボランチも消耗が激しいだろう。

ペッキア監督はWGを低い位置まで戻す4-4-2ブロックを構築する時間を意図的に作り、ボランチのスライド量を減らすとともにSBにかかる守備負担を減らすなどチームをうまくコントロールしている。

また、前半のうちに先制点を奪えるかどうかも重要なポイントになるだろう。4-4-2ブロックを構築するときはチーム全体を低いエリアに下げることが多いパルマ。リードしていれば、体力温存用の4-4-2を採用しやすいだろう。

開幕3試合はいずれも先制点を挙げて自分たちのゲームプラン通りに試合を進められたパルマ。今後、もし先制点を挙げられるようなことがあれば、引かれた相手を崩す手立てを持っているかどうかもポイントになってくるはずだ。

ペッキア監督の今後の戦いぶりには注目だ。

 

 

あとがき

ここまで見てきた通り、鈴木は早くもパルマの戦術の要となっている。

セリエAにおける日本人選手で、チームの戦術の要に指名された選手は鈴木が初めてだ。そして、その戦術の機能性がセリエAでも旋風を巻き起こしそうな完成度であるという点で、今季のパルマは注目なのである。日本人であればしっかりと見ておくべきだろう。

この記事で興味を持ったら、ぜひパルマの試合を実際に見てみてほしい。

 

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