エンポリFCの戦術詳解

昨季、後半アディショナルタイムの劇的弾で劇的な残留を果たしたエンポリFC。そこから迎えた今夏、夏の移籍市場ではレンタルとフリー移籍、ローンバックのみで戦力補強。補強費ゼロでチームを整えざるを得ない苦しい夏を過ごした。

transfermarktより。

 

しかしながら、「与えられた食材から最高の料理を作る」ことに関しては非常に優れた監督であるロベルト・ダヴェルサ新監督が既存戦力、レンタル組、ローンバック組を見事に融合させ、機能性に優れたチームに仕上げている。

特筆すべきは守備。ここまで失点数はわずかに4で、無失点記録を更新したユヴェントスに次いで2番目に失点が少ない堅守を構築することに成功している。

一時4位に入るなど、常にトップハーフの順位でシーズンを過ごすなどグッドサプライズとなっているダヴェルサ・エンポリ。彼らの戦いぶりについて掘り下げていきたい。

 

 

奪う局面

まずは、エンポリの躍進を支えている非保持の構造について見てみよう。

彼らの非保持時の志向性はデータによく表れているので、まずはスタッツをさらってみたい。

 

〈24-25 7節終了時のスタッツ FBref.comより〉

  • タックル総数:131(セリエAトップ
  • タックル勝利総数:76(セリエA2位タイ
  • インターセプト数:50(セリエA12位)

 

まず目を引くのはタックル数の多さ。デュエル志向の強さである。

エンポリの非保持の原則はマンツーマン色が強く、各々のマッチアップ相手は試合を通して基本的には変わらない。

対して、インターセプト数は控えめ。ここまでボール保持率がセリエA最低の35.9%であり、ボールを持たれる時間が長いことを考えるとなおさら少ない数字であるといえる。

つまり、マンツーマンが原則だが狙いはインターセプトではなく、ボールが入ってからの迎撃に重点を置いたデュエル志向の強い守備であるとまとめられそうだ。

 

エリアごとのタックル数を見てみると、彼らのプレッシング構造はさらによく見えてくる。

 

〈24-25 7節終了時のスタッツ FBref.comより〉

  • アタッキングサード:8(セリエAで2番目に少ない
  • ミドルサード:55(セリエAトップ
  • ディフェンシブサード:68(セリエA2位

 

セリエAトップのタックル数を記録しているにもかかわらず、アタッキングサードのみを切り取ってみると、セリエAでも最も少ない部類に入っている。これは、2トップに課されているタスクによるものだ。

2トップに課されているのは、プレスのスイッチを入れること。ただし、確実にセンターへのパスコースを消しながらサイドにボールを誘導することが最優先で、デュエルに持ち込んでボールを奪うことまでは求められていない。そのため、アタッキングサードでのタックル数は極端に少なくなるのだ。

2トップの誘導でサイドにボールが入ったら一気にプレッシングのギアが上がる。左サイドではインサイドハーフ(主にヘンダーソン)、右サイドではWBのギャシが大きく縦にスライドして寄せに行く。

彼らにはボールホルダーから自由を奪い、可能ならボールまで奪いきることが求められている。最終ラインの位置から飛び出していってそのタスクを実行し、押し込まれたらまた最終ラインまで戻っていく上下動の激しさに90分耐えるギャシは、ダヴェルサのサッカーに欠かせないキーマンとなっている。

ウインガーさながらにサイド深い位置までプレスに出ていくギャシ。7節終了時点でパスブロック数がチーム内トップだ。

 

サイドのホルダーに対してプレスをかけている間、というかそれと同時並行で後方から人が湧き出していって次々とホルダーの周りの相手プレーヤーを捕まえていく。最終ラインのサイドCBも、相手アタッカーが降りていけば深い位置まで追い回しフリーになる時間を与えない。一度マーク対象を捕まえたら、ボールが逆サイドに展開されるまで離さない。

この人を捕まえるスピードの速さ捕まえたときの良い距離感の継続こそがボールが入ってきたときに全員が迎撃可能となっている秘訣。タックル数トップとなっている背景だ。

CBのヴィーティも中盤まで上がっていって人を捕まえる。一方、グラッシは最終ラインまで下りた相手MFを追いかけるのではなく、コースを切りつつ監視する選択をとっている。敵陣ではある程度相手に自由を与えてもよいという原則が浸透している。

 

 

守る局面

プレスを突破され自陣に押し込まれてからも、エンポリの「相手ボールホルダーに対して自由を与えない」という原則は変わらない。

WBは相手のサイドアタッカーに対してクロスをブロックできるくらいまで寄せる。ハーフスペースのライン間でフリーになろうとしている選手に対してはサイドCBが躊躇なく出ていく。

センターエリアも原則はマンツーマンで、クロスボールが上がってくるタイミングで相手をフリーにしないことが求められている。

自陣でもデュエル志向が強いことがエンポリの非保持の特徴で、だからこそディフェンシブサードでのタックル数もトップクラスの数字をなっている。

 

さらに、個々がデュエルに負けてピンチが訪れてもセンターラインの2人のキーマンが最後の砦となる。

アルディアン・イスマイリはその一人だ。

3バックの中央に構えるアルバニア代表CBは、デュエルに強くスピードもあり、フィジカルに恵まれた屈強な守備者。読みが鋭くインターセプトやカバーリングもお手の物で、積極的に前に出ていく最終ラインの背後を一人で埋めている。

押し込まれた局面での跳ね返し性能も高く、7節終了時点でクリア数セリエAトップ空中戦勝利数セリエA2位とまさに壁として立ちはだかっている。

 

そして、彼を突破しても守護神デビス・バスケスが立ちはだかる。

ミランからレンタルで加入したコロンビア代表GKはここまで予想以上のハイパフォーマンス。セーブ率は81.8%という高数値だ。

抜群の反射神経で相手のシュートをシャットアウトし、7節にはカステジャーノスのPKをストップ。堂々とした振る舞いでチームに落ち着きをもたらす風格もGOODだ。

後ほど述べるが、ビルドアップにおいても中心的な役割を担っておりいまやチームに欠かせない守護神となっている。

彼ら能力値の高いタレントの存在もエンポリの堅守を支えている。

 

 

守→攻の局面

エンポリにとって、守→攻の局面、いわゆるポジティブトランジションは重要な局面となっている。

というのも、エンポリは推進力あるドリブルを持っているプレーヤーが多く、長い距離を持ち運んでカウンターを成立させられるからだ。

その中でも目を引くのはファッツィーニ。童顔で王子様系な見た目とは裏腹にグイグイと運んではラストパスやフィニッシュまでつなげるなど運んだあとのクオリティも持ち合わせている。

 

他にも、WBのペッツェッラやMFアンジョリンも後方から運べるほか、2トップに入るコロンボ、エスポージト、ソルバッケンも自ら仕掛けられるタイプ。

どこからでもボールを運べるし、それに呼応して厚みのあるカウンターを成立させられるだけの走力をチーム全体が備えている

ダヴェルサはチームの戦力から逆算して戦術を決めていくタイプ。走力とキャリー能力の高さという資質を活かすためにこそ、ダヴェルサはデュエル志向の守備からのカウンターという戦術を採用しているのかもしれない。

 

 

運ぶ局面

それでは、自分たちがボール保持を確立した局面ではどう振る舞うのか。

ボールを持った時のエンポリは無理をせず、シンプルな前進を志向する。

キーマンとなっているのはGKのバスケスだ。

 

〈24-25 7節終了時のバスケスのスタッツ FBref.comより〉

  • パス総数:228(チーム内2位
  • 縦方向のパス総距離:2688.3m(チーム内トップ

 

〈24-25 7節終了時のエンポリのスタッツ FBref.comより〉

  • GKパスのローンチ率:62.1%(セリエAトップ) ※ゴールキック以外で36.5m以上のパスが全体に占める割合のこと。

 

きちんと調べたわけではないけれど、チームのパスランキングでGKが2位にきているのはエンポリが唯一ではないだろうか。パルマで同じくビルドアップのキーマンとなっている鈴木彩艶でさえチーム内5位だ。

そして、バスケスの球出しで特徴的なのはロングレンジのパスの多さ。「縦方向のパス総距離」では、2位のヴィーティにダブルスコア近い差をつけてトップとなっており、彼を発射点としたロングパスによる前進が多用されていることがわかる。

 

エンポリのベースの配置は3-4-4。バスケスの両脇にヴィーティとイスマイリが入り、ゴグリチーゼを右サイドに押し出す。左サイドの幅は左のインサイドハーフに取らせることが多い。

こうなったときに右サイド高い位置に張り出すギャシが空中戦のメインターゲット。彼に長いボールを入れて相手SBとマッチアップさせて質的優位を得ると同時に、右サイドに人数をかけてセカンドボールを回収し前進につなげていくことが狙いとなる。

 

最終ラインに中盤を交えたパス回しや、そこから降りてきたコロンボへくさびを入れるようなプレーも見られるが、あくまでチャンスがあればという散発的なもの。相手のプレスを組織的に打開するような術は持っておらず、詰まったら無理をせずバックパスでバスケスまで戻す。よって、最も再現性を持った前進は、バスケスを砲台とするロングボールによる前進だ。

古典的だが安全性の高い方法だと言え、不用意なボールロストが少ないことも失点の少なさにつながっていると見ていいだろう。

 

 

崩しの局面

一方、崩しの局面では左サイドにいるWBジュゼッペ・ペッツェッラがキーマンとなる。

ボールの前進とともに左サイド高い位置をとるペッツェッラは、縦への仕掛けからのクロスを単騎で完結させられる貴重な資質を持つサイドバック。急加速で振り切ったり、切り返しながらタイミングを読ませないようにしたりしながら、うまくコースを見つけ出してクロスボールを供給する。仕掛けた後も高質なボールを放れる点もGOODだ。

彼にボールを集めて仕掛けさせ、クロスボールを中央で仕留めようというのがエンポリの崩しの形となっている。

 

〈24-25 7節終了時のペッツェッラのスタッツ FBref.comより〉

  • アタッキングサードでのボールタッチ数:87(チーム内トップタイ
  • 縦方向へのキャリー数:15(チーム内トップ
  • ペナルティエリア内へ届けたパス:5(チーム内トップ
  • クロス総数:33(チーム内トップ

 

このクロスに対し、2トップだけでなく逆サイドから入ってくるギャシもターゲット役として重要な役割を果たしている。

ここまでコロンボ、エスポージト、ギャシがそれぞれ2ゴールを挙げているエンポリ。WBからWBで点を取る形はアタランタをほうふつとさせる。

それ以上に、守備時にピッチの縦幅全域をカバーしつつ、攻撃時にはゴール前にまで入ってくるギャシの持久力の高さが驚異的だ。

 

というわけで、エンポリのボール保持は右から前進し、左のペッツェッラに集めて崩しにかかるのが恒例パターン。セリエA公式サイトのスタッツもこれを裏付けている。

vsローマ
vsカリアリ

 

ここまではシンプルな前進、ペッツェッラの仕掛けという形を徹底しているエンポリ。逆に言えば単調な攻撃と言え、それがために貧打に陥っているといえる。

これを解消する手立てはあるのか。

個人的にキーマンとして指名したいのが、負傷離脱によりここまで思うようにプレーできていないヤコポ・ファッツィーニだ。

左インサイドハーフとして起用されることが多いファッツィーニは、「右から左へ」の展開において中継役となる立ち位置。現在の攻撃スタイルではボールが集まりやすいはずだ。

実際、ファッツィーニの代役としてこのポジションでプレーしていたリアム・ヘンダーソンはここまでチームトップのキーパス数を記録。攻撃のタクトを振るっていた。

ヘンダーソンよりもさらにクオリティを上乗せできるファッツィーニなら、ペッツェッラへ展開するだけでなく自らラスをパスを供給したり、ドリブルで仕掛けて局面を打開したりとより攻撃に幅を持たせられるはず。現状ペッツェッラに大きく負担が偏っているところを改善することができるはずだ。

 

 

あとがき

個々のタレントが能力を発揮できる戦術を構築する術に長けたダヴェルサ。そのスタイルを徹底する胆力も彼の特徴だ。

しかし、裏を返すとチームの戦い方が硬直しがちで、ゆえにシーズン序盤は好調だが徐々にトーンダウンするケースを繰り返してきている。アグレッシブな非保持を持ち味とするために、徐々に消耗していくことも一因だろう。

昨季のレッチェと比較すると、今季のエンポリはベンチメンバーにも特色ある多彩なカードがいる印象。うまくターンオーバーしつつ、戦い方を微調整していくこともできるはずだ。

ダヴェルサの手綱さばきに注目したいところだ。

 

 

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