【ルーマニアの要塞】ラドゥ・ドラグシンのプレースタイル徹底分析

毎シーズン、セリエAは優秀なセンターバックを輩出している。その最新作がラドゥ・ドラグシンである。

トッテナムとバイエルンで争われた獲得レースはトッテナムが勝利し、加入は決定的と報じられている。シーズン途中ながら、プレミアリーグに活躍の場を移すことはほぼ間違いないだろう。

今回は、そんなドラグシンのプレースタイルを徹底的に解剖していきたい。

 

 

対人の鬼

ドラグシンの最大の魅力、それは対人守備の強さである。

それもただの強さではない。対峙するアタッカーからすれば、鉄壁の要塞のごとく突破することは非常に困難だ。

データを見てみよう。今季ここまで、ドラグシンはドリブル突破された回数がわずかに1回しかない。Optaによれば、欧州5大リーグで少なくとも15試合に出場したDFの中でドラグシンよりもドリブルで突破された回数が少ないのはファン・ダイクだけである。

 

まさに対人の鬼なドラグシンだが、何が裏付けとなっているのだろうか。

まず挙げたいのは、非常に高いフィジカル能力である。父がバレーボール選手、母がバスケットボール選手だというドラグシンは、両親から優れたフィジカル能力を受け継いでいる。

見るからに筋骨隆々なドラグシンは、パワーとボディバランスを兼ね備えており、彼がフィジカルコンタクトで負けるシーンは見たことがない。

にもかかわらず、191cm・79㎏と極端な重量級でもない。非常にバランスのいい体格を備えたドラグシンは、スプリントスピードもハイレベルである。オープンスペースでの競争で彼が振り切られる場面もまた見たことがない。

DFライン背後のスペースで競走になった場面。
持ち前のスプリントで相手に追いついたドラグシンは、ショルダータックルを仕掛ける。
相手を弾き飛ばし、クリーンにマイボールにすることに成功した。彼のフィジカル性能の高さがよくわかる場面である。

 

 

タックル技術の高さ

先ほど紹介した場面は、ドラグシンのフィジカル能力の高さが際立つ場面だった。と同時に、彼のスタンディングタックルのうまさが際立った場面だった。

先ほど紹介した場面のように、ドラグシンはスタンディングタックルで相手を弾き飛ばしてしまうことが少なくない。これほどのパワーを持っていると、ラフプレーでファウルを取られがちなのだが、ドラグシンにそれは当てはまらない。

というのも、彼はタックルするときに無駄に腕を使わないのだ。相手を腕で押すのではなく、あくまで肩でコンタクトを挑んでいく。だから、ファウルを取られにくいのだ。

素直なぶつかり合いで相手を圧倒的できるほどのパワーを持っていること、そこに自信があるからこそできることなのだろう。

 

ドラグシンは、スタンディングタックルばかりでなく、スライディングタックルの技術も高い。

例を挙げてみてみよう。

パスミスを相手に拾われた場面。ドラグシンは完全に背走状態である。
抜群の初速で相手を捉えたドラグシンはコンタクトを仕掛け、相手のバランスを乱そうと試みる。
別角度から。コンタクトにより相手とボールの間に少し距離ができたのを見逃さず、相手の体の外から回り込んでボールのみを捉える見事なタックルでピンチを脱した。

 

この場面のように、背走しながら相手に追いつき、スライディングタックルでボールのみをかっさらうプレーがドラグシンの十八番だ。

これは簡単なプレーではない。相手に引き剥がされないスプリント力に加え、適切なタイミングを見計らう能力、ファウルにならないようボールのみを正確にとらえるタックル技術が必要だ。ドラグシンは、これらを身につけている。

 

このようにスタンディング、スライディング両面のタックル技術が高いドラグシンは、ファウル数が少ない。

たとえば、セリエAを代表するストッパーで、ドラグシンと同じく3バックの中央を守るブレーメルと比較すると、

 

〈23-24シーズン(前半戦終了時点)〉

  • ドラグシン:ファウル数14、イエローカード1枚
  • ブレーメル:ファウル数31、イエローカード3枚

 

となっている。

このクリーンな守備もドラグシンの魅力だ。

 

また、優れたタックルタイミングの感覚は、シュートブロックにも活かされる。

ドラグシンはここぞのタイミングで体を投げ出すプレーにも優れており、シュートブロックもうまい。またそもそものポジショニングがよく、立っているだけでシュートが体に当たる、という場面も少なくない。

  • シュートブロック数:12(セリエA16位タイ)

という数字が物語る通り、最後の砦としての能力も高いものになっている。

 

 

ヘディング

地上戦に優れるドラグシンだが、空中戦もお手の物だ。むしろ、空中戦こそ彼の最も得意とする領域だといっても過言ではない。

  • 空中戦勝利数:58(セリエA2位)
  • 空中戦勝率:69.9%(セリエA11位)

とデータが物語るように、ドラグシンはセリエAトップクラスのエアバトラーなのである。中でも空中戦勝利数に関しては、全CBの中で単独トップだ。

191cmの長身でありながら、ジャンプ力も並外れているドラグシン。さらに、空中戦でコンタクトを受けてもバランスを崩さない体幹の強さ、バランスの良さを持っている。ゆえに、一度ドラグシンに飛ばれてしまうと勝利するのは困難なのだ。

 

ドラグシンのヘディングの強さが活かされるのがセットプレーの場面だ。

ドラグシンは昨季4ゴール、今季2ゴールをセットプレーからあげており、ジェノアでの1シーズン半で6ゴールを奪ったことになる。この得点率は、センターバックとしては驚異的だ。

以下はドラグシンの得点シーンである。彼がセットプレーのターゲットにおいて重要な役割を担いうることがよくわかるのではないだろうか。

ちなみに、インテルはチームとしての空中戦勝率セリエAトップのクラブであり、セットプレーでやられるのはかなり珍しい。

 

 

クロスボール対応

ドラグシンの空中戦の強さは、セットプレーだけでなく守る局面でも当然活かされる。エリア内に入ってくるボールを跳ね返す能力において、ドラグシンはセリエAトップクラスである。

これは純粋な空中戦の強さだけに由来するものではない。

 

まずは、ヘディング技術の高さ。ドラグシンは周囲の状況や自身の状態によって、ボールが来た方向へのクリアだけでなく、それとは反対方向へ飛ばすヘディングクリアも披露してくれる。通常、ボールが来るのと反対方向へのクリアは弱くなりがちであり、セカンドボールを拾われて危険な場面につながりやすい。

しかし、ドラグシンは体をひねりながら遠くにクリアすることができるパワーを持っている。あわせて、微妙なミートタイミングをしっかりとらえるヘディング技術も素晴らしい。

先ほど見たように、シュートをするときに用いる叩きつけるヘディングもドラグシンの得意分野。多種多様なヘディングを、それも相手と競り合いながら繰り出せるのがドラグシンの魅力だ。

 

そしてもう1点、欠かすことができないのが準備力と予測力の高さである。

画像で説明しよう。

サイドにボールがある場面。ドラグシンは、自身のマーク対象である鎌田の足元にボールが入ったら即座にプレッシャーをかけに出られ、かつ裏のスペースにボールが出てきたときにも対応できるポジションと体の向きを作っている。
クロスボールが上がった瞬間、ドラグシンは3歩ほどのステップを踏んでポジションを一気に下げ、裏のスペースケアに的を絞った。
足をのばしてのクリアに成功した。

紹介した場面のように、ドラグシンは常に状況に合わせた細かいポジション修正を行っている。特に、クロスボールが上がる瞬間に一気にポジションを下げて危険なスペースを埋める動きは完璧だ。

これを実現する傑出したアジリティと初速が見事なのは言うまでもない。しかし、彼はフィジカル的な要素だけに頼っているのではなく、常にいい準備を怠らない集中力と、高い予測力も兼ね備えているのだ。

 

ドラグシンの準備の良さは、クロスボール対応だけでなく対人守備対応でも活かされている。

最終ライン背後にボールが出てくる瞬間、ドラグシンはポジションを少し下げる。このことによって、自身が大きく不利な状況に置かれることを避けることに成功しているのだ。

ここには、ジェノアがミドルプレスを採用しており、基本的にDFラインとGKとの間のスペースがそこまで大きくないこと、その中心たるドラグシンはラインコントロールを全面的に任されていることなど、戦術面の助けがあったことは言い添えておきたい。

トッテナムを指揮するアンジェ・ポステコグルー監督は、非常にハイラインを敷くことを求める監督であると同時に、ラインコントロールはその構成員全員が連動して行うことを求める(と記憶している。違ったらごめんなさい)。

ジェノア時代とは大きなギャップがあることは間違いないはずで、鉄壁を支えた準備力を発揮できる環境に置かれる保証はない。ここをいかに乗り越えるかは焦点の一つになりそうだ。

 

 

ビルドアップについて

さて、守備性能全般が高いドラグシンだが、ビルドアップ能力に関してはどうなのか。

まず前提として、ジェノアにおいてドラグシンは高度なビルドアップでの貢献を求められていないことを紹介しておきたい。

ジェノアの守護神ジョゼップ・マルティネスは、セリエAでも3本の指に入るビルドアップ能力を持つGKであり、彼がレジスタとしての役割を全面的に引き受けている。そのため、ドラグシンには

  1. ドラグシンの脇に立って安全な逃げ道になることを前提に、
  2. ボールを持てば安全なショートパスをつないでくれればそれで十分

というシンプルなタスクのみを課されている。そのためビルドアップでの貢献度は高くないが、これはチーム構造の問題であるとも言えるし、今まではそこに守ってもらっていたとも言える。

 

それでは、ビルドアップにおいて高度な貢献を求められたときにその期待に応えられるのだろうか?

ドラグシンがこれまで、そうしたタスクを課されたことがない。ジェノアに限らず、サンプドリアでもサレルニターナでも、である。そのため、ビルドアップにおいてよりハイレベルな貢献を求められる環境に置かれたときには、それ相応の適応期間を見る必要が出てくるのではないかと思う。

しかしながら、基礎的なテクニックが目立って低いわけではない。相手が引いていればゆっくりと運んでいくプレーも見せるため、ボールを持つことを怖がっているわけでもないだろう。

したがって、問題はテクニックというよりも環境であり、チームに求められることで戦術眼や判断の面が磨かれていけば、十分にビルドアップ能力を高めていくことができるのではないだろうか。彼にかけているのは、後天的に鍛えることができる戦術能力なのだ。

状況としてはユベントス加入当初のブレーメルに似ている、と言えばユーベファンにはわかりやすいかもしれない。加入当初のブレーメルよりもドラグシンの方が基礎テクニックは優れていると思う。なによりまだ21歳。大きな伸びしろを残していると考えたいものだ。

 

 

離脱の少なさも魅力

ドラグシンの魅力としてもう1点あげておきたいのは、負傷離脱の少なさだ。

transfermarktより、プロ契約後のドラグシンの負傷履歴。コロナウイルス感染を除けば、怪我による離脱が1週間だけ。ここ3年以上にわたって負傷離脱はゼロだ。

常に計算が立つことも、ドラグシンの魅力だといえる。近年は負傷離脱が多い選手が増えているだけに、ここは大きなアピールポイントだといえるだろう。

常に試合に出場できる状態を保っているドラグシンは、ルーマニア代表ですでに13試合に出場。弱冠21歳にして最終ラインに欠かせない存在となっており、2023年のルーマニア人最優秀選手に選出されている。

試合に出続け、経験を積み上げてきたことが、彼を早期に完成度の高いCBにさせた一員なのではないだろうか。

 

 

あとがき

まとめると、

  • 基礎的なフィジカル能力全般が極めて高く、
  • スタンディング、スライディング問わずタックル技術に優れ、
  • ノーファウルでクリーンにボールを奪う能力が高く、
  • シュートブロック能力も高く、
  • 攻守にわたってヘディングには絶対の自信を持ち、
  • 負傷離脱がほとんどなく、
  • ビルドアップに関しては、特に戦術面において向上の余地を残す

守備能力全般がすでに完成されている一方、ボール保持面に関しては向上の余地を残す。

CB分類に従えば、機動力自体は高いものの、広範囲に移動させるよりもゴール前に構えさせた方がより持ち味を発揮することから、機動力が高いエアバトラー、と分類できるだろうか。

ミドルプレスを採用して背後のスペースを圧縮しつつ相手の攻撃を跳ね返すというジェノアが採用するプレーモデル、そしてその中で与えられた、ビルドアップでの貢献をほとんど求めない代わりに跳ね返す守備において絶対的な中核として君臨することを求めるタスク、そしてドラグシン自身の持ち味とが噛み合った結果のブレイクであったのではないか。

その環境で圧倒的な存在となれることを証明した今、異なる環境でさらなる成長を求めるのは理にかなっていると思う。

落ち着いた振る舞いと大人びた見た目から忘れがちだが、ドラグシンはまだ21歳の若者だ。ここからどこまで声価を高めていくのか注目だ。

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