ゴールキーパー
ジョゼップ・マルティネス
地元のサッカークラブ、アルジーラでサッカーを始めたマルティネスは、2015年にバルセロナのカンテラに加わって技を磨いた。この経験が彼の基盤となっている。
2年後にラス・パルマスに引き抜かれ、3部に所属するセカンドチームで活躍。19-20にトップチームの守護神となり活躍した。
20-21から2年間プレーしたRBライプツィヒでは公式戦わずか4試合の出場にとどまったものの、2022年に移籍したジェノアで再び守護神に定着。今季は自身初のトップディビジョンを主力で過ごすシーズンとなっている。
バルサのカンテラ出身のマルティネスは、足元のテクニックに非常に優れている。左右両足で高精度のキックを繰り出し、攻撃を操るのだ。
キックの種類も豊富で、ふわっとしたロブパスからライナー性の鋭いキックまでを使い分ける。そのテクニックレベルは、フィールドプレーヤーとしても十分通用するものだ。
さらに、マルティネスは戦術眼にも長けている。フリーの味方を見つける、あるいは味方の動きに合わせてスペースで出会うようなパスを出すセンスを持っている。敵と味方の位置を把握しながら、空いているスペースを見つけ出す能力を持っているわけだ。ピッチを俯瞰で把握する能力を持っているGKは多くはない。
ビルドアップ能力の高さゆえに、ジェノアのビルドアップは完全にマルティネスの存在を前提にして成り立っている。
ジェノアはピッチに円を描くように布陣し、その円の中でグズムンドソンやバデリ、マリノフスキと言ったメインキャストが動き回ってボールを引き出すというビルドアップ構造を採用している。
このメインキャストにボールを届ける役割を担っているのがマルティネスというわけだ。動き出す味方の動きを認知できる能力、正確にボールを届けられるテクニックを両立しているのは、CBではなくマルティネスなのだ。
↓ マルティネスのくさびが起点となって生まれた得点。利き足ではない左足でこのパスを出していることに注目だ。
このように、セリエAトップクラスのビルドアップ能力を持つマルティネスだが、セービング能力も決して低くない。
反射神経に優れ、至近距離からのシュートに強いマルティネスは、クロスボールを頭で合わせるようなヘディングシュートをはじき出すシーンが多い。
Josep 🧤
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— Lega Serie A (@SerieA_EN) November 16, 2023
また、腕が長いマルティネスはセーブできる範囲も広い。きわどいミドルシュートをはじき出すセービングもお手の物だ。
セーブ率で見れば特段優れた数字を残していないマルティネスだが、失点シーンを見るとどうしようもない場面が非常に多い。セービングすべき場面では、きっちりとゴールを守れている印象だ。
また、アグレッシブな姿勢もマルティネスの持ち味。特にクロスボールに対しては積極的に前に出てパンチングではじき出す。出ていったときに触れずにボールを後ろへ流してしまう場面がほとんどないのも好印象。アグレッシブさと正確さが融合している。
ここまでのクロスボール処理数はセリエAトップ。この数字も彼のスタイルをよく表しているといえるだろう。
また、味方を鼓舞するコーチングもマルティネスの持ち味。プレーが切れた場面では、必ずと言っていいほど味方に声をかけてチームを盛り上げている。これもまた彼の能力だといえる。
そのアグレッシブさがたまに裏目に出てしまうこと、一度セーブした後の態勢の立て直しが遅いことに課題を残しているものの、総合的な能力は高い。
水準以上のゴールを守る能力に加えて、セリエAトップクラスのビルドアップ能力を備えているマルティネス。ハイレベルな「マスターGK」に分類できそうだ。
チームのビルドアップ戦術における中心度でいえばセリエAトップといえるマルティネス。攻守両面で不可欠な存在だ。ジェノアの試合では、彼のプレーに注目してみてはいかがだろうか。
センターバック
ジェノアのCB陣は、ビルドアップ能力が低いプレーヤーが多い。それゆえ、チームとしてビルドアップの中心にはGKマルティネスを据えている。
一方、機動力が高い選手が多く、3バックのサイドの選手の攻撃参加は大きなオプションとなっている。特に左のバスケスはさかんに攻め上がり、攻撃に厚みを加えている。右のデ・ウィンテルはどちらかというと攻め残ってリスク管理を行う。
このスカッドにおいて異端的な存在となっているのがヴォリアッコ。高いビルドアップ能力を備えるばかりでなく、攻撃参加してクロスボールでチャンスメイクも可能。
チームの幅を広げる存在として要注目だ。
マッティア・バーニ
マッティア・バーニはセリエDのフォルティス・ユベントスでプロデビューを果たした。各年代別代表召集歴もなく、無名のところから這い上がってきた苦労人だ。
3部相当のレッジャーナ、2部プロ・ヴェルチェッリ(所属1年目にクラブとともに昇格)を経由し、セリエAの舞台にたどり着いたのはプロ7シーズン目の2017年だった。
そこからはキエーボ、ボローニャ、ジェノア、パルマ、再びジェノアと、セリエAのプロビンチャを旅するキャリアを過ごしている。
バーニを裏支えしているのは、高い予測力とそれに基づく適切なポジショニング能力だ。
高い危機察知能力を活かし、常に危険なエリアに先回りして処理する。
特に光るのがカバーリング能力の高さだ。ジェノアはプレッシング時には両サイドCBが前に出ていくことが多くなっており、その裏にはスペースができることになる。ここにスライドして埋め合わせているのがバーニだ。
特段スピードに優れているわけではないバーニだが、常に先回りしているために相手アタッカーとの競争に負けずルーズボールを処理できる。フィジカルの不足を持ち前の予測力でカバーしている格好だ。
また、その予測力はシュートブロックにも活かされる。バーニはチームトップの31のシュートブロックを記録しており、ゴール前に壁となって立ちはだかっている。
これも彼が適切なポジショニングを取れているからこその数字だろう。
さらに、バーニは空中戦も得意としている。相手がクロスボールを上げてくる場面では、ゴール前に陣取って跳ね返す。
また、攻撃のセットプレーではターゲットとしても貴重な役割を果たす。今季すでに2ゴールを挙げており、得点源としても機能しているのだ。
このように守備能力が高いバーニだが、ビルドアップ能力に関してはむしろウィークポイントとなっている。
もともとキック精度が高くない上、相手からのプレッシャーにさらされるとあわててしまう場面が多く見受けられる。いわゆるプレス耐性の低さが最大のネックとなってしまっているのだ。
そのため、バーニは安全なパスを選択するか、そうでなければ雑なロングボールに逃げてしまう。彼のところでボールロストし、ビルドアップが寸断されてしまう場面も多くなっている。
カバーリングやシュートブロック、空中戦と言った跳ね返し性能に優れる一方でビルドアップ能力には限界があるバーニは、典型的な「エアバトラー」に分類できるだろう。
ドラグシン退団後もジェノアが堅守を崩さずに入れるのは、バーニの存在が大きいと感じる。今後もジェノアの最終ラインの柱として活躍してくれるのではないだろうか。
ヨハン・バスケス
メキシコ出身のバスケスは、同国2部のシマロネスでプロデビューを果たした。そこから名門パチューカ、UNAMを経て、2021年にジェノアに加入する。
ジェノアが降格した22-23にはクレモネーゼにレンタルされセリエAでのプレーを継続、ジェノアが再昇格した今季はジェノアにとどまり、3シーズン連続でセリエAでプレーしている。
デビューが2部だった通り、バスケスは幼い頃から注目されるエリートではなかった。ユース代表に入ったのもU-23が初めてであったが、東京オリンピックでは銅メダル獲得に貢献した。3位決定戦では、日本相手にヘディングで先制点を叩き込んでいる。
バスケスの最大の魅力が、相手に自由を与えないハードなマーキングである。
常に自分のマーク対象を捕捉し、ボールが入ってきそうなら距離を詰めてすぐに潰しに入れるよう備える。そしてボールが入ってきた瞬間に、体をぶつけながらボールハントを実行するのだ。
今季ここまでセリエAでトップ10に入る(9位)ブロック数を記録しており、ファウル数、タックル勝利数でもチーム2位の高数値だ。これらのデータも、バスケスのハードマーカーっぷりを裏付けている。
また、インターセプトによってボールを奪う意欲も旺盛。今季ここまで記録しているインターセプト数は、セリエAでトップ10に入る43。これも、彼が相手との距離を近く保っているからこそなせる業だ。
さらに、バスケスは地上戦だけでなく空中戦にも強い。ここまでの空中戦勝利数はチームトップだ。
ヘディングの強さは、守備ではもちろん攻撃時にも活用される。前述の五輪弾を含め、バスケスはこれまで少なくないヘディングゴールを決めている。セットプレーでターゲットになれるのも彼の魅力なのだ。
さらに、バスケスの攻撃面での貢献はセットプレーのみに限らない。オープンプレーでは積極的に攻撃参加し、厚みを加えるのだ。
今季ここまでの敵陣ペナルティエリアでのボールタッチ数は、チーム内でグズムンドソン&レテギの2トップに次ぐ第3位にランクインしており、いかにさかんに敵陣に攻め上がっているかがわかるだろう。
↓ 攻め上がってからの見事なボレーシュートで得点を挙げたシーン。
↓ ペナルティエリア内でボールを受け、アシストした場面
彼が輝くのは敵陣でボールを持った時。積極的にドリブルで運び、突破を仕掛けていくのだ。センターバックがドリブルで仕掛けてくるという意外性のある展開は、相手を混乱させるのに十分だろう。
↓ バスケスの仕掛けが得点につながったシーン。
このように、崩しの局面での貢献度が非常に高いバスケス。一方で、運ぶ局面における貢献度には限界がある。
キック精度は凡庸であり、そして何よりも視野の広さやプレス耐性に課題を抱えるバスケスは、ビルドアップでの貢献度が高くない。あくまでもポジションを上げてこそ貢献するプレーヤーだといえる。
また、それ以上に改善したい課題が、相手アタッカーに前向きに仕掛けられた時の対応だ。
バスケスには足だけでボールを奪おうとする悪癖があり、簡単にスコンとかわされてしまう。その出した足に相手が引っ掛かった時に危険なファウルとなりやすいのも難点だ。
現に、彼の対応のまずさから与えたフリーキックやPKからの失点が生まれてしまっている。これは早めに改善したいところだろう。
↓ PKを与えてしまった場面。
ハードなマーキングが持ち味だが、一方で組み立てでの貢献度が低いバスケスはCB分類マトリックス上の「ハードマーカー」に分類できるだろう。
ただし、高い位置でのポジショニングや攻撃センスから、攻撃面だけ見れば「ポジショナルCB」の要素も備えている。保持時と非保持時の持ち味をうまくいかせるタスクを割り当てられれば、ビッグクラブでも活躍できそうなタレントだ。
ドリブラーに手を焼く傾向にあるだけに、1対1守備対応が伸びてくればさらに化けるはず。今後の成長に期待したい。
コニ・デ・ウィンテル
ベルギーのアントワープで生まれたデ・ウィンテルは、地元のクラブでサッカーを始めた。その後、ベルギーのプロクラブであるリールセ、ズルテ・ワレヘムのユースを経て、2018年にユベントスユースに加入した。
意外にも、デ・ウィンテルはユベントス史上初のベルギー人プレーヤーである。
トップチームデビューはチャンピオンズリーグだった。21-22のグループリーグ第5節に途中出場を果たすと、続く第6節には先発に大抜擢。クラブ史上最年少でのCL先発出場となった。
クラブでの将来を期待されてきたデ・ウィンテルだが、その後は22-23にエンポリ、23-24にはジェノアにレンタルに出されて武者修行に励んだ。そして、4月にはジェノアが買い取りオプションを行使し、完全移籍でデ・ウィンテルを獲得している。
デ・ウィンテルのベースとなっているのは、恵まれたフィジカル能力だ。188㎝という長身ながら身のこなしは軽やかで、スプリント能力にもアジリティにも優れている。総合的な運動能力が高いアスリートだ。
ゆえに、地空ともに対人守備に優れている。
地上戦では、1対1の場面で相手を封じ込める場面が多くみられる。デ・ウィンテルは機動力に優れているため、相手のドリブルに対して問題なくついていける。
縦への持ち出しを誘導し、相手のボールタッチが乱れたら体を入れて奪うのがデ・ウィンテルの得意なパターン。見た目には細身でデュエルに弱そうなものだが、彼がコンタクトプレーでよろめく場面は見ることがない。一度彼に体を寄せられると、そこから挽回するのは至難の業なのだ。
機動力とボディバランスを高次元で両立させているのは、現代CBにおいて有意な点だといえるだろう。
デ・ウィンテルは長身ゆえ、空中戦にも強い。相手に落下地点に入られても、その上からボールを跳ね返せる跳躍力も持っている。
𝗞𝗼𝗻𝗶 𝗗𝗲 𝗪𝗶𝗻𝘁𝗲𝗿 vs Ireland – first cap@konidewinter 🇧🇪🪨pic.twitter.com/tZUW1aNkqm
— 𝙉𝙞𝙡𝙨 🔎 (@NilsStrpn) March 23, 2024
守備者としてはすでになかなかの完成度を誇っているデ・ウィンテル。課題があるとすれば、攻撃面だろう。
といっても、足元のテクニックがないわけではない。むしろ、基礎的なテクニックは十分以上のレベルにあるといえる。
しかしながら、デ・ウィンテルのビルドアップにおける貢献度は高いとは言えない。それは、難易度の高いパスを避ける傾向にあるからだ。
味方の足元に鋭いくさびを入れて攻撃のスイッチを入れる、あるいはサイドチェンジで局面を変えるといったプレーは、まだほとんど見られない。安全なパスを最優先にしてプレーしている印象だ。
ゆえにパス成功率は非常に高くなっているものの、あいてからしたら怖さがないといえる。
デ・ウィンテルに攻撃センスが全くないとは思わない。むしろ、相手が出てこないときにドリブルで持ち出して相手を動かすようなプレーを見せるところを考えると、むしろビルドアップセンスは持ち合わせている方だろう。
問題は、リスクの高いプレーを引き受けられるだけのメンタル的な積極性が欠けていることなのではないかと推察する。
せっかく優れたキックを持っているのだから、それを活用しないのはもったいないところだ。
Koni De Winter vs Inter 🧱pic.twitter.com/UlGUGaywJT
— Fa🅱️ri (@17Reazy) January 26, 2023
機動力があるもののビルドアップでの貢献度が高くないデ・ウィンテルは、CB分類マトリックス上の「ハードマーカー」に分類できるだろう。
今後、戦術眼を磨いてビルドアップ能力が上がってくれば、「ポジショナルCB」へと移行できそうなタレントだ。今後の成長に期待したい。
3月シリーズでベルギーA代表デビューを果たすなど、順調にキャリアを重ねているデ・ウィンテル。
来季はジェノアの最終ラインの主軸になることが期待されている。今冬トッテナムに旅立ったドラグシンのように、ユベントスユース→ジェノアのルートをホットラインとできるか注目だ。
アレッサンドロ・ヴォリアッコ
現在セリエBに在籍するバーリの下部組織でサッカーを始めたヴォリアッコは、ローマユースを経て2014年にユベントスユースに加入する。
ここでの4年間がヴォリアッコにとって大きな経験だったようで、「自分の成長の多くは(ユベントスユースで指導を受けた)ファビオ・グロッソのおかげ」「アイドルはキエッリーニとボヌッチ」と語っている。
パドバへのレンタルを経て2019冬にポルデノーネに加入するとすぐさま主力に定着、クラブ初のセリエB昇格と初タイトル(セリエCスーパーカップ)獲得に貢献した。
その後ベネベントを経て2022夏にジェノアに加入、昨季クラブとともに昇格し、今季初めてセリエAの舞台で戦っている。
ちなみの、彼の奥さんはシニシャ・ミハイロビッチの娘、ヴィルジニア・ミハイロビッチである。
ヴォリアッコを一言で表すならば「モダンなCB」だ。
186cmの長身でありながら、非常に機動力がある。CBがベースポジションながら積極的に攻撃参加し、攻撃に厚みを加えることができるのだ。
また、攻撃参加するときもオーバーラップだけでなくインサイドにポジションを取れることも大きい。ウイングバックの立ち位置を見ながら柔軟にポジショニングを調整する戦術眼が光る。
さらに、ヴォリアッコは足元のテクニックも安定している。特にキック精度には自信を持っているようだ。
自陣でボールを持てば、積極的な縦パスで局面を動かしていく。味方の足元だけでなく裏に飛ばすボールも得意で、ビルドアップ能力は高いと評価できる。
特に、90分あたりのパスの縦方向の総距離がフィールドプレーヤーではトップとなっており、チームの前進に大きく寄与しているといえるだろう。
↓ ヴォリアッコが供給した縦パスからチャンスが生まれたシーン。
また、攻撃参加時には精度の高いクロスボールでチャンスを演出する。
彼のクロスは今やジェノアの武器となりつつある。1列前のサベッリは積極的な仕掛けが持ち味の選手で、彼が相手の最終ラインを押し下げたところにできたスペースへヴォリアッコが顔を出し、アーリークロスを供給するのが一つのパターンとなっている。
直近のミラン戦では初アシストも記録している。
このように、攻撃での貢献度が高いヴォリアッコだが、守備に関してはまだ改善の余地を残している。
スプリントスピードとフィジカルコンタクトでは凡庸なヴォリアッコは、それを技術や戦術眼でカバーする必要がある。しかしながら、そうした側面に関してもまだ未熟な印象である。
特に、ポジショニングやマーキング技術は不安材料。ここら辺の基礎的なテクニックに関しては早い段階で習得したいところだ。
機動力とテクニックを兼ね備えており、CB分類マトリックス上では「ポジショナルCB」に分類できるヴォリアッコ。
守備者としてさらに成熟すれば、評価を高めそうなタレントだ。
古典的で堅実な守備者がそろうジェノアDF陣の中では変化をつけられる存在であるヴォリアッコ。ここ数試合で起用が増えてきており、今後が楽しみなタレントだ。
サイドバック
現在の主戦となっているのは、左のアーロンと右のサベッリ。ともに高い位置でのプレー、特にクロスボールが武器のチャンスメーカーだ。
ドリブラーのスペンスも含めて、アウトサイドで単独でチャンスを作れる攻撃的なプレーヤーがそろっているといえる。
スカッドの中では独特の個性を持っているのがハプス。柔軟なポジショニングによってチームのバランスを整えるタイプのプレーヤーで、単騎特攻よりも組織的な崩しとの相性がいい。現在のチーム戦術とも合致した個性を持っており、数字を残せば評価を上げられそうなタレントだ。
ステファノ・サベッリ
イタリアの首都ローマ出身のサベッリは、ASローマのユース一筋で7年間を過ごし、3つのユースレベルのタイトルを獲得した。
しかしながら、ローマのトップチームではプレーしないままセリエBのバーリに移籍。以降、ブレシア、エンポリ、ジェノアで2部に軸足を置いたキャリアを過ごしていく。
今季は自身3度目のセリエA挑戦で、自身が所属したクラブが残留を果たした初のシーズンとなった。
ちなみに、サベッリの奥さんはチームメイトであるヴォリアッコの妹、ロベルタ・ヴォリアッコさんだ。
サベッリのプレーを一目見れば、そのアグレッシブさに目を引かれることだろう。
攻守両面に闘争本能をむき出しにしてプレーし、右サイドを制圧する。積極的な姿勢が彼のベースとなっているのだ。
攻撃面に目を移せば、ドリブルによる積極的な仕掛けとクロスボールによってチャンスメイクするプレーが彼の真髄だ。
低い位置から運ぶドリブルはもちろん、スペースがない局面でも積極的に仕掛けて打開する。決してテクニックに優れているわけでも、スプリントが圧倒的に速いわけでもないサベッリだが、強気な姿勢でグイグイと相手を押し込んでこじ開ける。
また、仕掛けるだけでなくクロスボールまで完結させる能力も高い。そのため、サベッリはジェノアの中でドリブルとクロスに関するスタッツでグズムンドソンに次ぐ2位の数字を記録している。
単独で仕掛けてクロスまで上げてくれる、頼れるウイング型サイドバックだ。ジェノアの攻撃に欠かせないカードとなっている。
サイドバック分類マトリックス上では、「クロッサー型SB」と「ドリブラー型SB」の中間に近い位置付けとなるだろう。
↓ カリアリ戦で先制点をアシストした場面
また、非保持時にもサベッリのアグレッシブさは変わらない。対面のアタッカーに対して襲い掛かり、積極的にタックルを仕掛けてはボールを刈り取る。
19-20にはセリエAで最多タックルを、20-21にはセリエB最多タックル勝利を記録した通り、サベッリはリーグでも屈指のタックラーだ。その圧で相手を封じ込めてしまうのが彼のスタイルである。
決して器用でもテクニカルでもないサベッリだが、攻守に泥臭くプレーする姿勢には好感が持てる。ジェノアファンから愛されるのも納得だ。
昇格1年目にして残留を勝ち取ったチームにおいて重要な役割を担ったサベッリ。来季のプレーも楽しみである。
アーロン・マルティン
エスパニョールの下部組織で育ち、そのままプロデビューを果たしたアーロン。U-16から各年代別代表の常連として育ってきた。2015年にはU-19の、2019年にはU-21のEUROを制覇している。
そんなアーロンは、当然スペインのビッグクラブからも注目される存在だった。しかし、彼が新天地として選んだのはブンデスリーガのマインツだった。半年間セルタにレンタルされたのを除けば、4年半をドイツで過ごしている。
↓ このような動画が公式チャンネルから公開されるほどマインツを代表する選手だったアーロン。
そして2023年夏、アーロンはジェノアに加入し自身初のイタリア挑戦を決断。今季ここまで17試合に出場している。
アーロンを一言で表すならば「クロッサー」である。
左利きの彼は高精度のキックを持っており、高い位置でボールを持てば積極的に放り込む。
クロスを上げるゾーンは主にアウトサイドレーン。ゴールから遠いエリアだが、そこからでも大きなチャンスを作り出す彼の左足は飛び道具だといえる。
クロスを上げる位置も多彩で、深い位置までえぐってからの折り返しやアーリークロス、コーナーキックまで様々な位置からチャンスにつなげてくる。
彼のクロスボールはスペースではなくしっかりと人を狙ったものである。だからこそ、角度関係なくチャンスを生み出せるのだろう。
また、切り返してから右足で上げるクロスボールも精度が高い。
複数の選択肢があることで相手の対応はより困難なものとなっている。
キャリア通算のアシスト数は10にとどまっているアーロンだが、アシスト期待値の通算は24.2と2.5倍近い数字をたたき出しており、実際の数字以上に多くのチャンスを作り出している。
サイドバックとしてはハイレベルなチャンスメーカーだと言え、サイドバック分類マトリックス上では「クロッサーSB」に分類できるだろう。
さらに、アーロンはプレースキッカーとしても非常に優秀だ。
チームで絶対的な存在であるグズムンドソンも、アーロンが出場している試合では彼にもプレースキッカーを任せている。
コーナーキッカーとしてはもちろんのこと、直接フリーキッカーとしても名手と言える。マインツに所属していた22-23シーズンには、直接フリーキックから2ゴールを決めている。特に、のちにインテルにやってくる名手ゾマーが一歩も動けなかった一発は圧巻だ。
左足キックという明確な武器を持つアーロンだが、そのほかに大きな武器がないのもまた事実だ。
走力はあるものの、それを武器とできるほどランニングの質が高いわけではない。キック精度が高いものの、後方からの組み立てでの貢献度が高いわけでもない。
非保持に関しては、組織的守備への参加に関しては問題ない。ポジショニングやマーキング、インターセプトと言った基礎的なテクニックは一通り備えているものの、対人に関しては凡庸。フィジカル的に優れているわけでもないため、コンタクトプレーでは押し負ける場面も散見される。
それゆえ、体を入れてクリーンに奪い取る守備技術は持ち合わせていない印象だ。
生粋のクロッサーと言えるアーロン。攻撃に武器を持つそのスタイルから、同胞のジョアン・カプデビラやジョルディ・アルバと比較されてきた。
まだジェノアにきてゴールもアシストも記録できていないアーロン。今季閉幕までに何らかの数字を残したいところだ。
リドヘシアーノ・ハプス
地元のアマチュアクラブでサッカーを始めたハプスは、フェイエノールトとアヤックスのスカウトの目に留まって練習参加、アヤックスユースに加入する。しかし、10歳の時に退団を命じられてしまった。
挫折を味わったハプスは、再びユトレヒトのアマチュアクラブでプレーしてAZとの契約に漕ぎ着ける。しかしながら、当時ウインガーとしてプレーしていたハプスは左サイドバックとしてプレーするよう命じられ、これが不満で一度AZを退団している。
「ウインガーとしてならば」と再びAZと契約したハプスだが、最終的にはプロデビュー後にサイドバックへのコンバートを受け入れた。
これが奏功し、ハプスはオランダ代表入りを期待されるほどの活躍を見せる。2017年にはフェイエノールトに600万ユーロで加入した。この移籍金は当時のクラブ史上2番目に高額な移籍金だった。
その後、2021年にヴェネツィアに加入してイタリアに活躍の場を移すと、今季にはジェノアにレンタルされてプレーしている。
オランダでのプレーが長く、ユース年代の代表にも選ばれていたハプスだが、サッカーではマイナーなスリナム代表入りを選択した(両親の出身地であるため)。2021年にはセリエAで初めて得点を挙げたスリナム人選手となっている。
ハプスの最大の特長は、柔軟なポジショニングにある。
ウイングからサイドバックにコンバートされただけあってベースのポジショニングはアウトサイドなのだが、機を見てインサイドにも侵入してポジショニングできる。
味方との連動性の高さは、オランダ時代に培ったものなのだろう。
ウイング出身のハプスは、パスワークに参加できるだけのテクニックも持ち合わせている。インサイドでのプレーを得意とするサイドバックの中でも、味方との連係プレーに優れた選手だといえるだろう。
アウトサイドでボールを持った際には、クロスボールで攻撃を演出する。
90分あたりのクロス数でチームでも上位に入る数値をただき出しており、クロスボールへの積極性がうかがえる。
このように、キックとポジショニングセンスによって組織の中で潤滑に機能することができるハプス。「ポジショナルSB」の典型的な選手だ。
左のCBを務めることが多いバスケスは、積極的な攻撃参加が売り。ダイナミックに動き回る彼を見ながらバランスを整えるポジショニングができるハプスは、現在のチーム戦術と相性がいいプレーヤーだといえる。
ただ、現在のところ完全な定位置奪取には至っていない。
その要因のひとつが、単独での打開力の欠如だろう。高い位置でドリブルで仕掛けて1枚剥がすようなプレーは得意としていない。
また、低い位置でのプレーも苦手としている印象。組み立てに参加するだけの戦術眼や、キャリーによって局面を打開するプレーも持ち合わせていない。
プレーの幅が広いようであまり広くないところにハプスの限界がある。だからこそ、ジラルディーノ監督も完全な定位置に固定できずにいるのだろう。
定位置奪取には目に見える結果が必要になりそう。今後の活躍に注目だ。
ジェド・スペンス
ロンドンで生まれたジャマイカ系イギリス人のスペンス。ちなみに、姉のカーラ・シモーネ・スペンスは女優である。
フラムの下部組織に所属していたスペンスは、2018年にミドルズブラに引き抜かれてイングランド2部でプロデビューを果たした。
21-22には同じイングランド2部のノッティンガム・フォレストにレンタルされて大活躍、2部リーグの年間ベスト11に選出されるなど一気に期待の若手として名を馳せた。
これを受けてトッテナムに引き抜かれたスペンスだが、その後は停滞気味のキャリアを送っている。
昨季はリーグアンのレンヌにローンされ、今季は2部リーズへのレンタルを打ち切って冬からジェノアに加入している。
サイドバックをメインポジションとするスペンスだが、彼の最大の武器はドリブルである。
長いストライドを活かして相手が足を出してきたところをすり抜けるようにして突破するのがスペンスのドリブルの特徴。
特に長い距離を持ち運ぶドリブルは見事で、自陣深い位置から敵陣まで到達することで局面を一気にひっくり返す。
21-22には縦方向のキャリー数でリーグトップとなっており、飛び道具として機能していた。
一方で、相手を押し込んだタイミングのように、狭い局面を打開するようなドリブルは得意としていない。
密集地帯を抜け出すためには、アジリティもショートスプリントも不足している。
あくまでも前方にスペースがある、カウンター局面でこそ彼のドリブルが活きるのだ。
ということで、相手を押し込んだ局面におけるスペンスはクロッサーとして機能する。キック精度が高いスペンスは、相手のブロックの外からでもチャンスを作り出すことができる。
また、インサイドへの立ち位置の変換も柔軟で、ハーフスペースにポジションすることで相手を混乱に陥れることも可能だ。
特に昨季所属したレンヌ時代にこのポジショニングを習得したようだ。ただのドリブラーにあらず、プレーの幅は広そうだ。
守備においては、リーチの長さを活かしてボールをからめとるのが得意技。相手について行きながら足を伸ばす、あるいはスライディングタックルを食らわせる。
体を入れずに足だけでタックルに行くので、引っ掛かった時にファウルと見られやすいのが怖いところではあるのだが。
また、守備ブロックの一員として機能できるだけのポジショニングセンスや注意深さも持ち合わせている。
ジェノアでミドルプレスやロープレスを採用することが多いジラルディーノ監督からも一定の信頼を得ているようだ。
全体的な基礎能力が高いスペンスだが、あくまでも最大限輝くのはオープンな展開で持ち前のダイナミズムを発揮するときだろう。
低い位置からの持ち上がりを得意とすることから、「運び屋SB」に分類できる。
このような彼の特性からかんがみるに、緻密に守備ブロックを形成してスペースを消してくるクラブが多いイタリアでは、スペンスの最大の武器が発揮されにくい。
事実、彼の長距離のスプリントはここまでなかなか見られていない。セリエAでプレーすることが最適な選択肢かと言われると、疑問符が付くのが正直なところだ。
現在はトッテナムからレンタル移籍中のスペンス。1000万€の買取条項が付与されており、選手本人はイタリア残留を希望しているとも伝えられている。
シーズン終了後の動向にも注目したいところだ。
ミッドフィルダー
5人それぞれが異なるプレースタイルに分類できる、バランスのいいスカッドとなっているジェノアのMF陣。
全体の中で欠けているのが「モダン10番」や「アシストマン」といった高い位置で攻撃をデザインできるタレント。これを補うために、本来はアタッカーのメシアスがインサイドハーフで起用される場面が増えているのだろう。
モルテン・フレンドルプ
デンマーク出身のフレンドルプは、ブレンビーIFのユースで育った。
ブレンビーは国内リーグ優勝回数2位(1位はコペンハーゲン)というデンマーク屈指の強豪。現在所属する日本人選手、鈴木唯人の大活躍(直近6試合で6ゴール4アシスト!)によって日本での知名度も上昇してきた印象だ。
そのブレンビーで16歳10ヶ月でデビューしたのがフレンドルプだ。これは当時の最年少記録である。19-20には18歳にして主力に定着し、20-21にはデンマークリーグ優勝を果たすなど若くして活躍してきたフレンドルプ。
彼がイタリアに渡ったのは2022冬だった。すぐにチームはセリエBに降格したものの、フレンドルプは主力が退団した中盤で主軸となりクラブのセリエA復帰に貢献、今季も継続して活躍しリバプールやトッテナムの獲得候補に挙げられるなど成果を高めている。
ちなみに、本人は幼少期からのアーセナルファンだそうだ。
フレンドルプを一言で表すならば、「ボールハンター」だ。ピッチの全域で相手ボールホルダーに襲い掛かり、ボールハントを実行する。
今季ここまでタックル総数、タックル勝利数ともに堂々のセリエAトップ。その他にも、ブロック数やインターセプト数と言った守備に関するスタッツで軒並みリーグのトップ10にランクインしているフレンドルプは、リーグを代表する狩人といえるだろう。
彼の最大の武器となっているのが、アプローチの速さだ。
10~20mのショートスプリントで爆発的な速さを持つフレンドルプは、自らのマーク対象にボールが入った瞬間に一気に距離を詰める。相手からしたら余裕を持ってプレーできると思っているところを、不意にかっさらうような場面も多い。
上の場面のように、かなり離れた位置であってもフレンドルプはボールを奪えると判断して猛烈にアプローチに出ていく。自身が行けると判断できる範囲が広いからこそ、リーグトップのタックル数を積み上げているのだろう。
また、味方がかわされたときのカバーリング能力の高さもフレンドルプの武器だ。持ち前のショートスプリントを活かし、すぐさまスペースをカバーする。彼が背後にいれば、安心してチャレンジできるだろう。
アプローチしてからのタックル技術も高い。
体格的には決して大柄ではないフレンドルプ。むしろプロの世界では小柄な部類に入るのだが、それでもボールを奪えるのはタックル技術の高さゆえだ。
勢いのいいアプローチで相手ボールホルダーのタッチが乱れたら、ボールをつつきだして奪う。相手がボールをキープすべく体を入れてきたら、密着してボールをつつけるタイミングをうかがい、機を見て奪取する。その技術力はハイレベルだ。
ボール奪取力が非常に高く、リーグ屈指のボールハンターとして鳴らしているフレンドルプだが、そればかりでなく攻撃での貢献度も高い。
ここまで守備に奔走しながら、今季ここまで2ゴール5アシスト。多くのゴールに絡んでいる。
持ち前の運動量を活かし、積極的にゴール前に攻め上がるフレンドルプ。パスワークの中継役となるプレーや、こぼれ球を拾ってのミドルシュートなどで攻撃を活性化する。
高度なパスセンスを持っているわけではないため、スルーパスによるフィニッシュの演出、あるいは後方からの試合の組み立てと言ったタスクを任せるには不十分だろう。シンプルなプレーで潤滑油となりつつ、敵陣への攻め上がりによって攻撃に厚みを持たせる、「質より量」での貢献を見込むべきプレーヤーだ。
↓ タッチライン際を攻め上がってのクロスボールでアシストした場面。
↓ セカンドボールに詰めてセリエA初得点を記録した場面。
高いボール奪取力と攻撃参加で貢献するフレンドルプ。プレーエリアが非常に広い、典型的かつ完成度の高い「ボックス・トゥ・ボックス」に分類できるだろう。
シーズン開幕当時には無名の存在だったが、今やビッグクラブからの引く手あまたな存在となっている。
来シーズンをどこで戦っているのか、オフシーズンの動向にも注目だ。
ミラン・バデリ
クロアチアの名門ディナモ・ザグレブのユース出身のバデリは、レンタル先のロコモティバ・ザグレブでプロデビュー。翌年には退団したモドリッチの後釜として呼び戻されすぐさま主力に定着した。
結局、ディナモ・ザグレブで4シーズンを戦い、4度のリーグ制覇を達成。個人としても24ゴール15アシストを記録し、神童として注目を集めた。
その後、ハンブルガーSVを経由して2014年にフィオレンティーナに渡ってからはセリエAでプレーし続けている。
4シーズンを戦ったフィオレンティーナでは、当時キャプテンだったアストーリ急死後の新キャプテンを務めた。
ラツィオに1シーズン、再度フィオレンティーナに1シーズン在籍したあと、2020年にジェノアに加入。今季で4シーズン目を迎えており、今ではキャプテンを務めるなどチームを代表するプレーヤーとなっている。
バデリの基本ポジションはアンカーである。この位置から試合を組み立てるレジスタとしてふるまうのが彼のプレースタイルだ。
バデリの武器は正確なキック。長短使い分けながら、味方を動かして攻撃をデザインしていく。
視野も広く、味方の動きや敵の狙いを把握しながら、常に的確な選択で試合を動かせる。
その攻撃センスを活かすため、ジラルディーノ監督はバデリをアンカーに固定していない。保持時のバデリは積極的に敵陣に顔を出し、攻撃の最終局面にも絡むプレーを見せている。ここまで3アシストを記録しているバデリだが、いずれも前線への攻撃参加から生まれたものだ。
バデリは特別フィジカルに恵まれているわけではないため、相手につかまってしまうと簡単にボールを奪われてしまう。
それでもボールを守るために、相手をいなすテクニックを習得している。
特に際立つのが相手の重心や動きの矢印を見ながら、その逆を突いて行くセンスだ。ひらりひらりと相手の逆を突いて行く動きは、イニエスタをも想起させる。
相手とのコンタクトを避ける技術を習得してるバデリ。しかし、非保持時にはコンタクトプレーを避けるわけにはいかない。
ここでは、バデリの弱みが出る。フィジカルコンタクトに強くなく、またスピードも衰えたバデリは、カバーエリアが狭く、またコンタクトプレーでボールを奪う能力に乏しい。
ボール奪取力はあまり高くないといえるだろう。
先ほど、ジラルディーノ監督はバデリを攻撃時にアンカーの位置から解放すると紹介したが、これは非保持時の強度不足も原因のひとつだろう。
保持時のジェノアは円を描くように布陣する。そのため、円の内部には広範囲を守れてデュエルで強度が出せる人材が必要となる。バデリは適任ではないわけだ。
実際、バデリが外れたアンカーの位置には、フレンドルプやマリノフスキと言った強度を出せてカバーエリアが広い選手を置いているジラルディーノ。ここら辺の調整力は見事だ。
ただし、バデリはインターセプトによるボール奪取は得意としている。
ボールホルダーの目線の動きや、相手がボールを受けに動く動き出しなどを見て、巧みにパスコースを読み、先回りしてカットする。
今季ここまで積み上げてきたインターセプト数はセリエA全体でも3位に入る数字。その技術は達人級と言える。
攻撃の組み立てに最も特長があることから、MF分類マトリックス上では「コンダクター」に分類できるだろう。
フィジカル的な不足をサッカーセンスによって補い、息の長い選手となっているバデリ。すでに35歳となっているが、まだまだやってくれそうだ。
同胞のモドリッチとも印象が重なるバデリ。ぜひ彼のプレーに注目してほしいところだ。
ルスラン・マリノフスキ
ウクライナ出身のマリノフスキは、父がアコーディオン奏者、母が歌手という音楽一家に生まれた。しかしながら、ルスラン少年は音楽には目もくれず、兄の影響を受けて幼い頃からチャンピオンズリーグを見て育った。
特に応援していたのはアーセナルで、ティエリ・アンリがアイドルだったようだ。
自身もプロとなったマリノフスキだが、デビューはシャフタールのCチーム。そこからセヴァストーポリ、ゾーリャという決して強豪ではないクラブを経て這い上がってきた。
2015年に加入したベルギーのヘンクで頭角を表すと、2019年にはアタランタに移籍。セリエAの舞台で一躍主力にのしあがり、キャリアの全盛期を過ごしている。
その後はマルセイユを経て、今夏ジェノアに加入しイタリアでのプレーを再開している。
アタランタ時代のマリノフスキは、攻撃的MFとしてプレーしていた。
シャドーの一角もしくはトップ下で起用され、持ち前の左足を武器に多くのチャンスを生み出していた。
20-21シーズンにはセリエAのアシスト王に君臨(12アシスト)するなど、チーム有数のチャンスメーカーだったマリノフスキ。と同時に、ミドルシュートの名手としても鳴らした。
敵陣で多くの決定機を演出しながら、自らも持ち前のロケットシュートで得点を生み出す、セリエA屈指の攻撃的MFとしての地位を確立していたのだ。
ジラルディーノ監督も、マリノフスキを攻撃的MFとして試した。しかしながら、グズムンドソン、レテギと同時にマリノフスキを起用すると、チームとして非保持時のバランスが崩れてしまう。昇格組であり守備を重視せざるを得ない状況もあって、アタッカーの起用は2人までだった。
そして、ジラルディーノはグズムンドソンを攻撃の絶対的中心に据えることを決定し、マリノフスキはベンチに座る機会が増えてしまった。
このまま期待外れで終わるのか…と思いきや、マリノフスキは3センターの一角としての起用に応える。より守備的なタスクを受け入れたのだ。その姿はまるで、インテル時代のエリクセンを思い起こさせるものだ。
実はベルギー時代には3センターのセントラルMFが主戦場だったマリノフスキ。ここに戻ったと言えばそうなのだが、それでもイタリアでは攻撃的MFとしてのイメージが根強かっただけに、セントラルMFとして覚醒に導いたジラルディーノ監督の判断はあっぱれだ。
現在のマリノフスキは、低い位置でのゲームメイクで存在感を放っている。ベースポジションはインサイドハーフだが、ビルドアップ時にはアンカーと入れ替わってレジスタとしてふるまっている。
こうして低めの位置に陣取ったマリノフスキは、相手のマークを逃れてボールを持ちつつ、持ち前の左足で試合を組み立てていく。
特にロングレンジのキックに自信を持っているのがマリノフスキの特長で、細かいパスをつなぎつつ、タイミングを見てサイドチェンジや相手最終ライン裏へのフィードなどを織り交ぜながら試合を組み立てている。
↓ マリノフスキのロングフィードから得点が生まれた場面
相手を押し込んだ場面では、相手のブロックの外から得意のロングシュートを狙っていく。今季のシュート平均距離は27mオーバーで、ペナルティエリアから10mも後ろからシュートを放っている計算だ。彼のロングレンジのキックへの自信がうかがえる。
マリノフスキは、非保持の場面ではファイターに変貌する。自分のエリア内に入ってきた相手に対して猛烈な勢いで詰め寄ると、ハードなタックルを見舞って潰しにかかる。
そのスタイルゆえイエローカードが多くなる傾向にあるものの、カバーエリアの広さは魅力的だ。
特に、現チームで主にアンカーを務めるバデリは強度、機動力ともに見劣りする選手。マリノフスキは、バデリの番犬のような役割を果たしているわけだ。
↓ 相手のカウンターになりかけた場面、マリノフスキのスライディングタックルで難を逃れた。
攻撃的MF時代にはラストパサーとして鳴らしたマリノフスキだが、現在ではセントラルMFとしてゲームメイクを担いつつ機を見たロングシュートで相手ゴールを脅かすスタイルを確立している。非保持の強度も高いことから、守備的MFとして起用される試合もあった。
攻守に完成度が高いMFとして大成しつつあり、「マスターMF」に分類するにふさわしいだろう。
今季のジェノアの補強の目玉として、残留に貢献したマリノフスキ。来期以降さらに躍進を狙うクラブにあって、注目すべき存在だ。
モルテン・トルスビー
ノルウェーの小規模クラブ、スタベクでプロデビューを果たしたトルスビーは、2014年にオランダのヘーレンフェーンに加入。5シーズンで100試合以上に出場して活躍した。
2019年にはイタリアのサンプドリアに移籍し主力に定着、さらに評価を高めると、2022年にはウニオン・ベルリンに加入した。
しかしながらドイツでは思うような活躍を見せられず、今季にはジェノアに移籍して再びセリエAでプレーしている。
トルスビーは環境活動に熱心なことでも知られ、世界中のサッカーファンを対象に自然保護の啓発を行うことを目的とした非営利団体We Play Greenを立ち上げている。
サンプドリア時代から着用する背番号2は、パリ協定で掲げられた「産業革命後の気温上昇を2℃以内に抑える」という目標、通称「2℃目標」からとったものだ。
そんなトルスビーは、190cm近い長身だ。これを活かした空中戦の強さがトルスビーの最大の魅力である。
ボール保持局面におけるトルスビーは、するすると敵陣高い位置に上がっていく。そして、前線でターゲットとなるのだ。
ストライカーに替わる起点となれるのは、彼ならではの特性だ。
相手を押し込んだ局面では、そのままゴール前に入っていってクロスボールのターゲットとなる。
ストライカーさながらにゴール前に飛び込み、相手DFとの競り合いを制して叩き込む。
彼の攻撃時のタスクは、完全に第2のストライカーのそれだ。
一方で、トルスビーは足元のテクニックには不安がある。
キック精度が低いため、後方からの組み立てへの参加には期待できない。アタッキングサードでのラストパスなどなおさらだ。
ドリブルやキャリーに関してもほとんど見せることがない。現代サッカーにおいては、最もテクニックが低い部類に入るといっていいだろう。
ゆえに、トルスビーはビルドアップの早い段階でどんどん前線へ駆けあがっていくのだ。
前線でのターゲットタスクに極端に振り切ったプレースタイルを持つトルスビー。MF分類マトリックス上では文句なしの「侵入者」に分類できるだろう。
もはやストライカーとして起用した方がよさそうなプロフィールを持つトルスビーだが、彼はどのクラブでもセントラルMFで起用される。なぜなのか。
それは、彼のフィルター能力の高さゆえだ。豊富な運動量とそれが試合終盤になっても落ちないほどの持久力を併せ持つトルスビーは、非保持時には中盤を所狭しと走り回ってはボールを回収し続ける。
スペースに侵入してきた相手に対しては、ファウル覚悟のタックルで止めに入る。
サンプドリアで過ごした3シーズンでは計29枚のイエローカードを頂戴しており、最終ライン前で汚れ仕事を引き受けて活躍していた。
前線でのターゲットタスクを得意とし、非保持時には潰し屋に変貌するトルスビー。攻守両面においてダイナミックなプレーを得意とするプレーヤーだと言えそうだ。
なかなかいないタイプのプレーヤーであり、チームにとってオプションを与えてくれる選手だ。ジェノアでの今後の活躍に期待したい。
ケビン・ストロートマン
母国オランダのスパルタ・ロッテルダムでデビューしたストロートマンは、ユトレヒトを経て名門PSVに加入。2シーズンで88試合14ゴールと大活躍した。
2012年にはオランダ代表史上最年少で腕章を巻き、2013年にASローマにステップアップするなど順調なキャリアを送っていたストロートマン。
オランダの未来を担うと思われていた彼のキャリアを壊したのは、2014年3月に負った膝の前十字靭帯断裂の大怪我だった。
ここから1年半の間に3度もの膝の手術を経験し、満足にプレーできない期間が続いたのだ。
結局、オランダがEURO2016、ロシアW杯出場を立て続けに逃したこともあって、メジャー大会への出場がないままオランダ代表を引退してしまったストロートマン。
クラブキャリアでは、ローマ退団後はマルセイユを経てジェノア、カリアリ、再びジェノアとイタリアを中心に過ごしている。
ストロートマンにはあだ名がついている。「洗濯機」というものだ。相手のチャンスを摘み取り、ピッチをキレイにする様子からついたあだ名だ。
このプレースタイルは、34歳になった今も変わっていない。相手のボールホルダーに襲い掛かり、ボールを刈り取るのがストロートマンの魅力だ。
↓ ストロートマンのボール奪取からチャンスを迎えたシーン。
ただ、若いころと比較するとフィジカル的な衰えは隠せない。ボールを奪いに行ったときに、ほんの少し遅れてしまってかわされたり、ファウルで止める結果になってしまったりといった場面が散見される。
そのため、かつてのようにピッチの全域でボールハントを行うスタイルではなく、低い位置で構えておいて、自分のエリアに入ってきたときに襲い掛かるスタイルにシフトしている印象だ。
ボールハントが魅力のプレーヤーにありがちなのは、組み立て能力やアシスト能力が低いというものだ。チームメイトのフレンドルプもこのタイプである。
しかし、ストロートマンは違う。左足のキックは正確で、戦術眼も備えている。高い組み立て能力やアシスト能力を備えているのである。
昨季はファイナルサードに届けたパス数でセリエB最多であったストロートマン。後方からの組み立てで不可欠な役割を担っていた。
そして、今季はここまでアシスト期待値、キーパス数でグズムンドソンに次ぐチーム2位。チャンスメイクでも大きな役割を果たしている。
レフティーという希少性も魅力で、攻守両面で貢献が期待できる完成度の高いMFであるといえる。
↓ スルーパスによって決定機を演出した場面。
精力的なボールハントと、高度な左足のキックを両立させているストロートマン。かつてはMF分類マトリックス上の「マスターMF」に分類するにふさわしいプレーヤーだったが、現在ではプレーエリアを下げていることから「マスターレジスタ」とするのが適切だろう。
若手が多いジェノアのスカッドにおいて、経験値を注入できるストロートマン。しかしながら、シーズン終了後には契約延長をしないのではないかとの報道もある。
まだまだセリエAで見たいタレントだけに、ぜひともチームに残ってもらいたいものだ。
ウイング
3-5-2を採用しておりウイングというポジションがないジェノアにおいて、グズムンドソンとメシアスはウイングとして分析した。
ともに非常に多くのポジションをこなせるプレーヤーゆえどのポジションに分類すればいいか迷わしいところだが、両者ともウインガーとしての要素を備えている。
グズムンドソンはチャンスメイクの局面ではさかんにサイドに流れてプレーする。ドリブルで仕掛けたり、クロスボールを供給したりと言ったプレーを得意としている。2トップの一角として起用されているものの、さかんに中盤に降りるため2列目的なプレーヤーだといえる。
メシアスはウイングバックとインサイドハーフで起用されているものの、いずれにしても右サイドから左足でカットインしつつドリブルで仕掛けていくスタイルをとっている。ミラン時代には右ウイングだったため、ウインガーに分類して問題ないだろう。
アルベルト・グズムンドソン
グズムンドソンは、超サッカー一家に生まれたサラブレッドだ。
父親は元アイスランド代表で、現在は指導者や解説者として活躍している。母親も元プロサッカー選手だ。
祖父は2012年までアイスランド代表の最多得点記録保持者だった点取り屋。曾祖父はアイルランド初のプロサッカー選手で、ACミランやアーセナルで活躍した。
文章にしてみても、ものすごい血筋だ。
曾祖父の影響もあり、アーセナルに憧れていたグズムンドソン。幼少期のアイドルはジャック・ウィルシャーとセスク・ファブレガスだそうだ。
良血を引いたグズムンドソンは、アーセナルのアカデミーでプレーし、そのままイングランドにとどまる可能性もあったという。しかし、自身の成長に最適だという理由で、オランダでのプレーを決意。ヘーレンフェーンを経て、PSVでプロデビューを果たした。
その後移籍したAZでブレイクし、ジェノアへ渡ったグズムンドソン。昨季はセリエBで11ゴール4アシスト、今季はセリエAで14ゴール3アシストと、その才能を遺憾なく発揮している。
今季のジェノアの攻撃はグズムンドソンを中心に成立している。ビルドアップから崩し、フィニッシュまで、グズムンドソンが一手に引き受けているのだ。
ビルドアップから順に見ていこう。
基本的には2トップの一角として起用されるグズムンドソンだが、それはあくまでも守備時のベースポジションであって攻撃時には自由に動き回る。
特にビルドアップ時には、さかんに中盤に降りて縦パスを引き出す。
ビルドアップにおいて、ジェノアはピッチに円を描くように布陣し、中盤を空洞化させる。これは、自由に動き回るグズムンドソンに対し、可能な限りスペースを与えるためだろう。
実際、ジェノアのビルドアップは、くさびの供給役となるGKマルティネスから降りてきたグズムンドソンへ縦パスを供給するところから始まり、ボールを受けたグズムンドソンが前線部隊へ中継するという流れで完結している。
後方でのボール回しも、グズムンドソンを探すための時間を作る、という意味合いが強くなっている。
前線部隊にボールを届けたあとは、自らも攻め上がって崩しの局面に参加する。
グズムンドソンは、あらゆる手段を使ってチャンスとゴールを生み出すことができる。
たとえば、ドリブル突破。グズムンドソンは緩急をつけたドリブルに持ち味がある。
スペースがない局面では、ゆったりとボールを持って相手が飛び込んでくるのを促し、重心の逆をとって突破する。相手の重心の逆を見抜く目は天才的で、難しいフェイントを全く使わないのに、相手をスコンとかわす。
また、スペースがある場面では高速ドリブルも可能。普段はあまり全力スプリントを見せないグズムンドソンだが、本気で走った時のスピードはなかなかのものだ。
グズムンドソンは正確なキックも持っており、味方に決定的なパスを供給できる。
視野の広さも備えており、フリーな味方を見逃さない。チャンスと見れば、遠距離からでも決定的なパスを供給できる。
相手を押し込んだ局面では、サイドに流れていってクロスボールを供給する。
誰を狙っているか、その意図が明確にわかるくらい正確にターゲットに対して届けるクロスボールは絶品だ。
そしてもちろん、自ら得点する能力も高い。これだけビルドアップとチャンスメイクに絡んでいながら、リーグ4位の14ゴールは驚異的だ。
後方から攻め上がっていく形になるグズムンドソンは、フィニッシュをするときにたいていは相手が前に立っている状態となる。つまり、シュートコースを制限されているわけだ。
しかしながら、正確なキックを活かして狭いコースでも射抜いてしまえる。あるいは、シュートを打つ前のワンタッチでボールを少しずらすことで相手を動かし、シュートコースを作り出せる。このスキルを持っている選手はそう多くない。
グズムンドソンの決定力の高さはデータによっても裏付けられている。
実得点-得点期待値(数値が大きいほど、期待値以上のゴールを挙げている、つまり難しい局面から得点を決めている)はセリエA2位。ゴールあたりシュート数もセリエAトップ10入りと、限られたチャンスをしっかり得点に昇華させているのだ。
これだけ攻撃の全権を握っている選手は、守備に参加しないことが多い。しかし、グズムンドソンはその限りではない。
ジラルディーノ監督はミドルソーンにブロックを構築して待ち構える守備を採用しており、チーム全員がゾーンディフェンスのスキルを持ち合わせていることを前提としている。
グズムンドソンは、この期待にしっかりと応えている。
ボールを奪うテクニックに長けているわけではないのだが、チームのブロックに穴が空きかけたときに気を利かせて埋めたり、パスコースを切ることで相手を追い込んだりといった、チームの守備組織の一員として機能する能力は非常に高いものがある。
広範囲に動き回りながらビルドアップに絡みつつゴールとアシストの両面を生み出せるグズムンドソン。文句なしにWG分類マトリックス上の「マスターWG」である。
これだけの攻撃センスを持っていながら、守備でも貢献できるところも好印象だ。
今季のセリエAで最高のタレントのひとりと言って差し支えないだろう。
すでにビッグクラブが引き抜き合戦を繰り広げている。来季はどこでプレーしているのだろうか。
ジュニオール・メシアス
ブラジルのクルゼイロのユースでプレーしていたメシアスは、兄が住んでいたイタリアに移住する。今では有名となった、冷蔵庫配達員のアルバイトをしながらアマチュアクラブでプレーしていたのもこの頃だ。
24歳のときにスカウトを受けてプロ契約を締結することに成功したメシアス。と言っても、加入したカザーレが所属していたのは5部リーグだった。
そこからチエリでセリエD、ゴッツァーノでセリエC、クロトーネでセリエBと1つずつディビジョンを上げてきた。2020年にクトローネとともにセリエA昇格を掴んだ時には、メシアスは29歳になっていた。
自身初のセリエAで9ゴール4アシストを挙げてブレイクを果たし、翌年にはACミランまで上り詰めたメシアス。彼のサクセスストーリーは、何度読み返しても壮絶なものだ。
今季はレンタルでジェノアに加入しているメシアス。彼の武器のひとつが、高いユーティリティー性だ。
本来は右ウイングが主戦場のメシアスだが、3-5-2を採用するジェノアにウイングというポジションはない。なおかつ複数ポジションに対応できるメシアスは、今季非常に多くのポジションで起用されいている。
複数ポジションに対応できるメシアスだが、どのポジションで起用されても 彼の強みは変わらない。
ひとつは積極的なドリブルだ。今季のドリブル突破試行数はグズムンドソンに次ぐチーム内2位。クロトーネ時代の20-21にはドリブル突破成功数がセリエA2位になったとおり、ドリブルはメシアスの大きな武器だ。
彼のドリブルは、多くの場合まずはボールをさらすところから始まる。そうして相手DFが飛び込んできたところをすり抜けるようにしてかわし突破するのだ。
ブラジル人選手は、こうしたさらすドリブルが得意。メシアスにもブラジル人らしいボールタッチが流れているというわけだ。
こうしたスタイルゆえ、メシアスは多くのファウルを受けることになる。ジェノアには優れたプレースキッカーであるグズムンドソンがいるため、フリーキックは大きな得点源となっている。そのフリーキックを演出してくれるメシアスは、貴重なカードというわけだ。
そして、得点力もメシアスの強みだ。
クロトーネでの2シーズンで15ゴール、ミランでの2シーズンで12ゴールを挙げており、ウインガーとしての得点力は高いといえる。
それでは、メシアスの得点パターンはどのようなものなのか。
上の図を見ると、メシアスのゴールは期待値が大きいものが大部分を占めているのが特徴的だ。
つまり、メシアスはフリーでゴール前に走り込んでシュートを決めているということだ。
これがメシアスの強みで、彼は得点が取れるエリアに侵入していくのが非常にうまい。相手につかまることなく大外からスペースに侵入し、ラストパスを引き出して冷静に沈めるのだ。
ドリブラーでありながら、スペースに入り込むセンスも持ち合わせているところが、メシアスの特異なところだ。
↓ 相手サイドバックの死角から飛び出し、フリーでボールを受けて得点したシーン。
↓ この場面のように、クロスボールに飛び込んで合わせるプレーも見せる。
逆に言うと、単独で打開してからのフィニッシュはあまり得意にしていないメシアス。ドリブラータイプでありながら珍しい。
ここがメシアスの特徴的なところであり、限界であるとも言えるかもしれない。
さらに、メシアスは献身的な守備も備えている。
チームが押し込まれた場面ではしっかりとプレスバックして守備に参加するメシアスは、ボール奪取力も高い。相手アタッカーが仕掛けてきた場面ではタックルを仕掛けてボールを奪い去る。
90分あたりに換算したときのディフェンシブサードでのタックル数はチームトップとなっており、彼の献身性を裏付けている。
だからこそ、ウイングバックというより守備的なポジションでも機能するのだろう。
CB以外ならどのポジションでも起用できるメシアス。WG分類マトリックス上では、積極的なドリブルを評価して「クイックネスドリブラー」としたい。
しかしながら、前述のように点が取れるエリアに侵入していく能力が高く、「ターゲットWG」の要素も強く持ち合わせている。どちらに分類してもおかしくはないだろう。
今季は負傷離脱もあり、ここまで1ゴールと思ったような結果を出せていないメシアス。来季の逆襲に期待したい。
フォワード
ジェノアのスカッドの中で起用されているストライカーは主にレテギ、エクバンの2人だ。
ともにポストプレーでは前線で体を張れる背負いポストタイプに分類できる。セカンドストライカー色の強いグズムンドソンとパートナーを組むうえで理想的なプロフィールだ。
フィニッシュに関しては、相手のマークを外してエリア内で勝負するレテギと、相手との競り合いを苦にしないエクバンとで好対照。ともにエリア内で勝負するタイプだ。
より全体的に両者を比較すると、レテギはよりゴール前での勝負に徹する古典的なタイプであるのに対し、エクバンはよりフィジカルに優れプレーの幅も広いとまとめられるだろうか。
マテオ・レテギ
アルゼンチン出身のレテギは、16歳になるまではフィールドホッケーをプレーしていた。
というのも、父親のカルロス・レテギはアルゼンチンホッケー界の重鎮。選手として3度オリンピックに出場し、指導者に転向後は同国代表監督としてオリンピック金メダル2回、銀メダル2回を獲得しているのだ。
その影響を受けてプレーしていたマテオ少年もまた、ホッケーのユース代表に名を連ねる腕前だったようだ。
その後サッカーに転向したレテギは、名門ボカ・ジュニアーズでプロデビュー。その後、22-23シーズンにはティグレにレンタルされてシーズン19ゴールを挙げ、アルゼンチンリーグ得点王に輝いたのだ。
これを受けて、マンチーニ監督(当時)がレテギをイタリア代表に召集。すると、デビュー戦でイングランドからゴールを奪い、続くマルタ戦で2戦連続ゴールを挙げるなどポテンシャルの高さを示した。
当然セリエA中のビッグクラブが獲得を狙うなか、昇格組のジェノアがレテギを獲得し周囲を驚かせた。
ジェノアの一員としてセリエA初挑戦中のレテギ。今季ここまで公式戦通算9ゴール3アシストを記録している。
レテギの魅力は高い得点能力だ。では、彼は一体どのような形での得点を得意としているのだろうか。
上の図を見ると、レテギのゴールはペナルティエリア内に集中していることが特徴的だ。そして、期待値が大きいものがほとんどとなっていることもわかる。
エリア内で相手のマークを外し、フリーになったうえで味方からのラストパスを引き出し決めているということがうかがえる。
相手との競り合いをともなわないフィニッシュという意味では「ワンタッチフィニッシュ」に分類できる。しかし、彼のフィニッシュの内実は決してワンタッチフィニッシュだけにとどまらない。
エリア内でのフィニッシュワークは実に多彩だ。
利き足でない左足でも精度の変わらないフィニッシュが可能なのは長所のひとつと言えるだろう。
さらに、難しい体勢からでもゴールに結びつける能力が高いのがレテギの特長だ。天性のシュートセンスを持つストライカーだといえる。
↓ ウディネーゼ戦で決めたオーバーヘッドシュート。
↓ 戻りながら逆足の左足で決めたナポリ戦のゴールは見事。
↓ レテギは反転しながらのシュートも得意。イタリア代表で決めたゴールが典型的だ。
また、味方のシュートのこぼれ球に詰める場面も多い。なぜかレテギのいるところにボールがこぼれてくる。
あまり抽象的な言葉を使うのは好きではないが、「ストライカーの嗅覚」と言いたくもなってしまう。
また、なかなか得点には結びついていないが、前向きに仕掛けた場面ではミドルシュートにも積極的だ。
しかしながら、パワー不足によりなかなかゴールに結びついていない。フィジカル的な向上によって、シュートレンジが広がればさらに得点量産につながるかもしれない。
また、ヘディングは要改善だ。
understatによると、今季のレテギはペナルティエリア内から放った13のヘディングシュートを枠外に飛ばしている。すべての枠外シュートのうち、実に52%がヘディングシュートなのである。
これには技術的な不足というよりは、競り合いの拙さが大きく影響している印象。相手との競り合いの中でバランスを崩してしまい、枠外にシュートが飛んでしまうことが多いのだ。
レテギは線が細い。ゆえに、地上戦においてもコンタクトプレーは苦手としている。フィジカルトレーニングに励んでより屈強な肉体を手に入れるか、もしくはジャンプのタイミングや落下地点の確保と言った競り合いの技術を習得したいところだ。
続いてはポストプレーについて。レテギは今季ジェノアで2番目に多い縦パスレシーブを記録しており、起点としても重要な役割を担っている。
彼のポストプレーで特筆すべきは縦パスを引き出すセンス。ここぞのタイミングで数歩動いて相手のマークを外し、縦パスを引き出すのが巧みだ。
ボールを受けた後は、ワンタッチでボールをさばくことは少ない。ワントラップ入れて味方の動きや相手DFのプレッシャーの掛け方をうかがいながら少しボールをキープし、味方に預けるのが最も多い形だ。
このとき、状況によっては迫ってきた相手DFを剥がすドリブルを仕掛けることもある。それが可能なだけの身のこなしが可能なのは、細身で軽やかなレテギの持ち味だろう。
しかし一方で、前述のようにレテギはフィジカルコンタクトに優れているわけではないため、フィジカルに優れるハードマーカー相手に沈黙しがちなのは気になるところ。
戦術の問題もあるのだろうが、ワンタッチでうまくボールを逃がすテクニックや視野の広さを習得できれば、さらにプレーの幅が広がるだろう。
また、レテギはスプリント能力も凡庸であるため、裏抜けを得意としていないことにも言及しておきたい。相手のライン裏で起点になったり、スペースをアタックしてGKと1対1の状況を作り出すようなプレーは持ち合わせていない。
あくまでも足元でボールを受けたり、ボックス内での駆け引き勝負に持ち込んだ時に輝く、古典的なストライカーだということができるだろう。
ボックス内での嗅覚に優れ、難しい状態からでも枠内にシュートを飛ばしてくるレテギ。「天性のストライカー」という、個人的にあまり好きではないフレーズもレテギにならしっくりきてしまう。アルゼンチンのストライカーって、こういう選手が多いですよね。
さて、シーズン終了後にはEURO2020での活躍も見込まれるレテギ。ライバルのスカマッカと比べると、ポストプレーはよりムービング、フィニッシュエリアはよりペナルティエリア内に限定的と言える。
現在スカマッカは絶好調だが、これまでの序列ではレテギが上回っている印象だ。
はたしてアッズーリのストライカーを張るのはどちらなのか、シーズン終了後にも注目したいところだ。
カレブ・エクバン
カレブ・エクバンは、ガーナ人牧師の夫婦のもと、7人兄弟の1人として生まれた。彼の父は牧師であると同時に、会計士であり起業家でもあるそうだ。
マントヴァのユースでプレーしていたエクバンは、キエーボ・ヴェローナに引き抜かれてプロ契約締結を果たす。しかしながら、その後はセリエCクラブやアルバニアのクラブにレンタルされる生活が続き、ついにはキエーボでの試合出場は叶わないままイングランドのリーズに売却された。
エクバンが日の目を見たのはリーズを退団して加入したトラブゾンスポルでだった。加入初年度に8ゴール3アシストを記録すると、その後も継続して活躍し3シーズンで29ゴール18アシストを記録したのだ。
この活躍に目をつけていたジェノアが2021年にエクバンを獲得、今季で3シーズン目を迎えている。
ちなみに、弟のジョセフもサッカー選手。今季はセリエCのアレッツォでプレーしている。
エクバンはアフリカ仕込みの身体能力の高さが売りのストライカーだ。一見難しい局面からでも、高い身体能力を駆使して枠に収めてくる。
↓ エクバンの身体能力の高さがよくわかるゴールシーン。
特に目を見張るのは跳躍能力の高さ。助走をつけない垂直ジャンプでも、相手から頭一つ抜け出して叩き込むことができる。
相手にしっかりとブロックを組まれている局面でも、それを破壊できるのは大きな魅力だ。
↓ ミラン戦で決めたヘディングゴール
左足のシュート技術も高い。足元にボールを置いた状態からのシュートは高確率でいいコースに飛ばしてくる。
90分あたりの枠内シュート数ではチーム内で最多となっているエクバン。20-21にはトルコリーグで9位の枠内シュート数を記録しており、これらの数字は決してフロックではない。枠内シュート率が高いのがエクバンの特長なのだ。
ヘディングやボレーと言ったアクロバティックなプレーはもちろん、裏に抜け出してのフィニッシュやクロスボールに合わせてのゴールなど、実に様々なパターンから得点できるのだ。得点パターンが幅広いのがエクバンの強みといえる。
シュート技術が高い一方で、決定機を外してしまう場面も散見される。ここが、エクバンがスタメンに定着しきれていない要因なのだろう。もったいないところだ。
エクバンの万能性はポストプレーでも発揮される。
188cm/80kgと屈強なフィジカルをしているエクバンは、相手を抑え込んで時間を作り出すようなポストプレーを得意としている。いわゆる「背負いポスト」だ。
こうしたタイプは重量級ゆえに鈍重な選手が多いのだが、エクバンは優れた機動力も持ち合わせており、サイドに流れて起点となるようなプレーも見せる。いわゆる「ワイドポスト」だ。
さらに、直接裏のスペースをアタックする意識も旺盛。中盤に引いて行くグズムンドソンや、それほど機動力がないレテギは持ち合わせていない強みだ。
持ち前の機動力を生かしていろいろなエリアに顔を出せるが故、相手からすれば的を絞りにくいプレーヤーだといえるだろう。
↓ 裏抜けから突破しフィニッシュまで持っていったシーン。
また、その機動力を生かし両サイドアタッカーとしても起用可能なエクバン。ユーティリティー性もポリバレント性も備えている好タレントだ。
今季のジェノアにはレテギとグズムンドソンというスーパーなタレントがいるために定位置奪取には至っていないが、それでも1000分以上に出場して4ゴールは立派だ。
自身が最前線の柱となれるようなチームで1シーズンを戦った時にどれくらい得点を重ねるのか見てみたいタレントである。