セリエAの右ウイングを分析してみた【選手分類マトリックス】

複雑化する現代サッカーに合わせた選手分類基準として、筆者は以前「選手分類マトリックス」というものを考案した。

今回は、そのマトリックス図に従って実際に選手たちを分類してみたものだ。

お題は左サイドバック。この記事を読めば、セリエAでプレーする(ほぼ)すべての右ウイングのことがざっとわかるはずだ。

完成したマトリックス図を見てもらった後、各分類ごとに第一人者、プロビンチャの注目株、期待の若手、その他のプレーヤーたちを見ていきたい。

 

 

Table of Contents

右ウイング分類マトリックス

 

 

マスターWG

第一人者

クリスティアン・プリシッチ(ミラン)

アメリカ史上最高のタレントとして期待を受けてきたクリスティアン・プリシッチ。その才能は、イタリアで全面開花を迎えている。

彼は2列目ならどこでもこなせる両利きであることもその要因のひとつなのだけれど、彼のプレースタイルそのものが根底にある。

プリシッチはベースポジションから柔軟に移動してプレーする、機動性の高いプレースタイルを持っている。ウイングがスタートでも盛んにハーフスペースやセンターレーンに移動するし、逆にトップ下起用されてもサイドに流れてくる。時には中盤に降りてゲームメイクにもかかわる。

広範囲に動きながらビルドアップの出口となり、そこからボールを散らしたり場合によっては自ら運んで崩しの局面へ移行する。ビルドアップ隊と前線隊、局面と局面をつなぐリンクマンとしての戦術的な価値の高さは、フォンセカ政権移行後さらに強調されている印象だ。

SofaScoreより、今季のプリシッチのヒートマップ。右サイドがベースポジションだが、非常に広範囲にヒートマップが分布しているのがわかる。

 

もちろん、アタッカーとしての性能も抜群に高い。

テクニック(両利きでどちらの足でも自在にボールを操る)とフィジカル(スプリントとアジリティ)が高次元に融合した高速ドリブルは特に強力で、密集地帯をするするとくぐり抜けていく。

 

シュート技術も高く、両足から正確かつ強烈なフィニッシュを繰り出せる

少しゴールから離れた位置からは正確なパスでアシストを狙う。視野が広く、自らフィニッシュするかラストパスを味方に供給するか、どちらを選択すべきかの判断が的確だから、ゴールとアシストの両方のバランスが取れている。29節終了時点でセリエA9ゴール6アシストだ。

 

これだけオン・ザ・ボールのクオリティが高いにもかかわらず、足元にパスを引き出すこと一辺倒にならないのがプリシッチの一番すごいところかもしれない。

裏のスペースを突くランニングで味方のスルーパスを引き出すこともあるし、クロスに合わせての得点も多い。

自ら打開してのフィニッシュと、味方に活かされる形でのフィニッシュ。多彩な得点パターンを持っているからこそ、得点量産につながっているのだ。

 

このように、どの要素をとってもバランスの取れた最強万能アタッカー、というのがプリシッチをまとめたフレーズになるだろうか。WG分類マトリックス上の「マスターWG」にふさわしいプレーヤーだ。

いまやセリエA最強のタレントのひとりとなったプリシッチ。ドルトムントで台頭してきたのが速かったのでそんなイメージはないけど、まだ26歳とこれから全盛期を迎える年齢だ。

今後もミランとアメリカの顔として引っ張っていくプレーヤーになりそうだ。

 

 

マッテオ・ポリターノ(ナポリ)

ナポリでセリエAを代表するウインガーになったマッテオ・ポリターノ。今季も右サイドに定位置を確保している。

左利きのポリターノは、カットインしてからのミドルシュート縦に仕掛けてからの右足クロスという2つの高質な選択肢を使い分けながらプレーする、現代ウインガーの模範例のようなプレーヤーだ。

171cmと小柄ながら、脚力に優れていてパワフルなキックを装備している。だから、フィニッシュは強烈かつ高精度だ。

ペナルティエリア外からのミドルシュートを得意としていて、正確に四隅を射抜いて決める

さらに、ボレーシュートも得意としていて、浮き球のシュートも枠内に収めてくる。総合的なシュートセンスはウインガーとしてはトップレベルだ。

 

カットインからのフィニッシュが強力だからこそ、それを匂わせながら縦に持ち出しての突破が効く。

非利き足の右足からのクロスもいいボールが上がる印象で、相手からすれば内に持ち込まれても縦に持ち出されても困難に陥る、厄介な相手だと言っていいはずだ。

 

さらに、守備に対して献身的なのもポリターノの強み。前に出て相手に圧をかけたと思えば、プレスバックしてSBを助ける。

その献身性と脚力を買って、コンテ新監督はポリターノに対して非保持時に5バックの右WBと言える位置までポジションを下げるタスクを課し、攻撃時にWG、守備時にWBという1人2役を任せている。

その影響もあってか昨季と比べてゴール、アシストの数字が伸びていないポリターノだが、今季ここまでの好調を支えるメインキャストであることは間違いない。

 

彼をWG分類マトリックス上に位置づけるとするとどうなるだろうか。

プレースタイルはフィニッシャー寄りながらアシスト数も多く、内に入ってのプレーも外からのプレーもバランスよくこなしてくれる彼は、非常にバランスが取れたプレーヤーなので、「マスターWG」に位置づけて問題ないだろう。

完成度的にはその第一人者と言って差し支えないはずだ。

イタリアを代表するウインガーであるポリターノだけど、ここまでは代表と縁のないキャリアを送っているのが残念なところ。現監督が恩師スパレッティなだけに、ぜひ彼を今のアッズーリで見てみたいものだ。

 

 

パウロ・ディバラ(ローマ)

王子様のようなルックスに、「ファンタジスタ」という言葉が似合う創造性あふれるプレー。現代では少なくなった華があるアタッカー、それがパウロ・ディバラである。

キック、ドリブル、ボールタッチ、そのいずれもハイクオリティな黄金の左足。そして広い視野と優れたプレービジョンから生み出されるクリエイティビティ。

これらを武器に攻撃を指揮する司令塔というのがディバラのプレースタイルを端的にまとめたフレーズになるだろうか。

 

ディバラには明確に得意なプレーエリアがある。それが右ハーフスペースのライン間。そこへカットインしていくために、さかんにアウトサイドへ流れる。

右サイドからカットインしつつ、斜め45度からラストパスやフィニッシュ、連係プレーを繰り出していく。ペナ角のあたりでディバラが前を向けば、なんだってできるのだ。

FBref.comより、今季のディバラのヒートマップ。敵陣の右アウトサイドレーンおよびハーフスペースにかけてプレーエリアが広がっているのが特徴的だ・

 

ディバラはゴール、アシストともにシーズン通してかなりの数字を稼ぐプレーヤーだ。

今季はチームの不調、その後のラニエリによる非保持を重んじるスタイルの採用によって数字が伸びていないが、毎シーズン15~20G/Aを記録するビッグタレントだ。

その中でも内訳を見ていくと、セリエAにやってきてから毎シーズンゴール数がアシスト数を上回っている。これは、彼の得点パターンの豊富さが要因だろう。

右サイドからカットインしそのままフィニッシュに持ち込むプレーだけでなく、ワンツーなどの連係プレーで裏のスペースをアタックするプレーもできるし、ファーサイドで合わせるボレーシュート、さらにはPKや直接フリーキックと言ったプレースキックまで、得点パターンは実に豊富である。

 

↓ ユベントス時代の全ゴール集

 

とまあいろいろと書いてみたけれど、こういう選手のプレーは「百聞は一見に如かず」。見て感じろ、と言いたい。きっとワクワクさせてくれるから。

彼は華麗なだけでなく熱さも持っている。「ディバラは守備意識が低い」という言論をたまに見るけれど、彼のプレーを見たことがないのだろう。昔のファンタジスタのイメージだけで語っているのだ。

プレッシングに対して献身的だし、球際で戦える。ローマというクラブにすぐさまなじめたのは、こうした熱さがあってのことだ。

 

惜しむらくは何年も前からケガが多いこと。今季もシーズン途中でハムストリングスを負傷し、シーズン終了となっている。

継続してプレーし続けられていれば、世界的な名声を手にしていたかもしれない。そう思わせられるくらい、彼は魅力的で、人々を惹きつけるものがある。

来シーズン、ディバラの元気な姿を見るのが楽しみだ。

 

 

プロビンチャの注目株

フロリアン・トバン(ウディネーゼ)

マルセイユ時代にブレイクし、2018ワールドカップの優勝メンバーとなるなどワールドクラスのアタッカーとして活躍したフロリアン・トバン。大ケガを機にパフォーマンスを落とし一時メキシコでプレーしていたが、一昨季にウディネーゼに加入してから大復活。今季からキャプテンに就任するなどクラブの顔となっている。

ウディネーゼでは2トップの一角としてプレーするトバンは、もともと右ウインガーとしてプレーしていた。現在でもサイドを起点とするプレースタイルは変わっていない。あくまでも非保持時のポジションが2トップの一角なだけで、右サイドを起点に自由に動き、運ぶ局面から崩す局面まで攻撃のタクトを振るっている。

SofaScoreより、今季のトバンのヒートマップ。右サイドを起点としていることがよくわかる。

 

テクニックレベルが高いアタッカーであるトバンは、右サイドから左足でカットインしつつパス、ドリブル、味方との連携を駆使しながらチャンスメイクしていく。

何をやらせてもクオリティが高く、相手からしたらどの選択肢も警戒しなければならないのが厄介だ。

 

〈FBref.comより、32節終了時点でのスタッツ〉

  • ペナルティエリア外から通したクロス数:20(セリエA5位
  • アシスト期待値:4.7(セリエA6位
  • ドリブル突破成功数:39(セリエA7位
  • プログレッシブ(縦方向の前進)キャリー数:92(セリエA9位
  • キャリーによるペナルティエリア侵入数:34(セリエA10位

 

キック精度の高さはアウトサイドからのクロスボールやプレースキックなどに活用される。

パワーがないためミドルシュートは得意ではないけれど、やわらかいボールを蹴れるのは彼の強み。味方の状況や相手のポジションに応じて空間を使ったパスを通すこともでき、と選択肢が豊富だ。

 

前述のとおりミドルシュートは得意ではないため、ペナルティエリア内に入っていっての得点が多い。

爆発的なスピードがない分緩急を活かしたドリブルで相手を幻惑し、ペナルティエリア内に入っていってフィニッシュに持ち込む。

また、クロスボールに飛び込んで合わせるなどストライカー的な動きができるのもトバンの得点力の秘訣。司令塔タイプながら使われる役にもなれるのは高評価ポイントだ。

understat.comより、トバンのゴールに関してシュートを打った位置をピッチ上にプロットし期待値の大きさを円で表したもの。ほとんどがゴール前から放たれた期待値の大きな得点であることが特徴的だ。ゴール前へ侵入していくセンスが良く表れている。

 

得点からチャンスメイクまで、攻撃のすべてを司るウディネのキング。WG分類マトリックス上の「マスターWG」に分類されるべきプレーヤーだろう。

ウディネーゼ最大のキーマンとしてトバンのプレーに注目だ。

 

 

ターゲットWG

第一人者

ニコラス・ゴンサレス(ユベントス)

アルゼンチン代表FWニコラス・ゴンサレス。2021夏にフィオレンティーナのクラブ史上最高額である2450万€の移籍金でイタリアにやってきた。そして今夏、ユベントスに活躍の場を移している。

今でこそウインガーの印象が強いニコだが、アルヘンティノスやシュツットガルト時代には1トップを務めることが多かった。

 

↓ ブンデス時代のゴール集。5分の3が頭でのゴール、1つが裏抜け。何だか岡崎慎司のようだ。

 

他にもトップ下や左ウイングでも起用されており、前線ならどこでもやれる。さらに、シュツットガルトとアルゼンチン代表では右ウイングバックで起用された試合があり、3バックのワイドにも対応可能なマルチだ。

多くのポジションで起用される選手に共通するのは、スタートポジションから離れ、かなり自由に動き回るということ。ゴンサレスもこの例にもれず、広く動き回ってボールに絡むタイプの機動性が高いプレーヤーだ。

右サイドからトップ下の位置まで絞ってきてくさびを引き出すゴンサレス。サイド低い位置に降りたり、トップ下の位置に入ったり、果てにはレジスタの位置にまで出現する場面も見られる。

 

そうして縦パスを引き出してから運ぶ、散らす、さらに最終的には自分がゴールが取れるエリアに入っていく、という一連の流れがイタリアに来てから確立された感がある。リンクマン兼フィニッシャーだ。

ゴンサレスが得点力に優れたウインガーであることはフィオレンティーナ時代に証明した通り。22-23は公式戦通算13ゴール、23-24は同14ゴールだ。

それでは、彼が得意とするフィニッシュパターンはどのようなものなのか。

ニコはヘディングにめっぽう強い。強いというか、バカクソうまい。特別長身でないにもかかわらず、空中で静止するかのような滞空時間の長いジャンプで落下地点を制圧し、その上で確実にコースに流し込むのだ。

これがフィニッシュに活かされる。相手DFの死角となる大外から入り込み、頭で叩き込むプレーは彼が最も得意とする形。ウインガーでありながらリーグ屈指のヘッダーである。

understat.comからゴンサレスの得点につながったシュートを打った位置と得点期待値(円の大きさで表現)。ウイング起用されるようになったフィオレンティーナ移籍後も、ゴールライン付近からのフィニッシュに集中している。ワイドから積極的にゴール前に入ってきてクロスのターゲットとなる、ターゲットWGに分類できそうだ。
transfermarktより。ウインガーなのにヘディングゴールだらけ!

 

というわけで、ゴンサレスはウインガーであるにもかかわらずクロスターゲットとして機能し、ゴール前でのデュエルを制して得点する形が多い。

しかし一方で、今季のユベントスはクロスを上げないチームである。

クロス総数は13位とボトムハーフ。平均ボール支配率がリーグ2位と攻撃機会は屈指の多さであることを考えると、余計にその少なさは際立つ。

ゴンサレスが得意な形が訪れない。単純だけど、得点数減少の最大の要因だ。

 

ただ、ゴンサレスの持ち味は得点力だけではない。

彼は運ぶドリブルに長けている。クイックネス、スピード、パワーのいずれにも飛び抜けていないにもかかわらず、相手のタイミングを外す戦術眼でシンプルに相手を抜き去る。そして何よりも、積極的に仕掛けていくハートの強さが際立つ。

守備に対する積極的な姿勢も魅力だ。攻守両面で闘争心をプレーで表現できる選手だ。

こうした側面はいかにもユベントスらしい選手なのだが、活躍しきれていない現状は歯がゆいところだ。

WG分類マトリックス上の「ターゲットWG」としてはセリエAの第一人者たるタレントだけに、監督交代を機に状況が明転することを祈りたい。

 

 

期待の若手

アッサン・ディアオ(コモ)

セネガルで生まれ、移住先のスペインで育ったアッサン・ディアオ。ベティスで頭角を現しかけていたところを今冬コモに引き抜かれ、イタリアに活躍の場を移している。

冬のマーケットで新加入したディアオだが、加入後13試合で6ゴールを記録し、すでにチームトップタイの得点数となっている。

高い得点力を武器にするディアオ。その秘訣は何なのか。

まず、シュートがうまい。点とるんだから当たり前だ。でも、利き足の右足だけでなく、左足でもいいシュートを飛ばすのは普通じゃない。移籍後初ゴールは、名手メニャンから左足で奪ったものだ。

 

でもそれ以上に凄いのは、点が取れるエリアに入っていく嗅覚のほうだ。

ディアオは自ら突破してフィニッシュに持ち込むよりも、味方からのラストパスを引き出してそれを得点に昇華させるプレーにこそ強みを持つ。

瞬間的に開いた相手DFラインのギャップを鋭利に突くランニング、逆サイドからクロスに飛び込むスペースアタック。いずれにしても、使われるのがうまいオフ・ザ・ボーラーである。だから、彼はWG分類マトリックス上の「ターゲットWG」に分類するのがいいだろう。

understat.comより、ディアオの得点に関してシュートを打った位置をピッチ上にプロットし、期待値の大きさを円で表したもの。ほとんどゴールエリア幅からシュートが放たれていることが特徴的。ウインガーなのにそのエリアに入ってこれていることにこそ、彼の凄さがある。

 

ディアオはサイズがあるため、相手SBを相手に起点を設けることも可能。相手を背負いながらボールを受けたり、相手が前に出てくるのを利用して入れ替わって突破したりと、ポストマンとしてのセンスも持つ

さらに、スプリント能力も高くて、伸びのあるランで相手を置き去りにできる。

彼がすごいのはただスピードだけに頼るのではなく、すでに緩急交えたギアチェンジを体得しているところ。相手の足を止めておいてからの急加速によって相手と入れ替わる感覚をすでに持っている。

狭いスペースを打開するほどの繊細なボールタッチやアジリティは持っていないけど、オープンスペースで彼を止めるのは容易ではないだろう。

 

若干19歳にして加入後すぐにコモの得点源として重要な戦力となり、3月シリーズではセネガル代表デビューも果たしたディアオ。注目度がぐんぐん上がっているライジングスターだ。

使われる役回りだけでなく、発信役としてチャンスメイクも高次元にこなせるようになれば完成度の高いアタッカーになれるだろう。

将来性のある期待の若手ウインガーである。

 

 

プロビンチャの注目株

エマニュエル・ギャシ(エンポリ)

元スペツィアのカピターノで、当時エンポリのカピターノだったフィリッポ・バンディネッリとのカピターノトレードでエンポリにやってきたエマニュエル・ギャシ

彼はスピードがあるわけではなく、繊細なボールタッチで密集地帯を打開するようなドリブルを持っているわけではない。

それでは何が強みなのかというと、タッチライン際を90分間上下動し続ける無尽蔵のスタミナと、ゴール前に飛び込んで得点に関与する嗅覚である。

元々攻撃的なポジションでプレーしていたギャシだけど、その中では非保持時のプレッシングやプレスバックに精力的。90分間衰えないスタミナで、常に対面の相手にプレッシャーをかけ続ける。

彼のこの特性に目を付けたダヴェルサ監督は、2トップが追いきれないサイド深い位置へギャシを思い切って前に押し出すことで相手SBに圧力をかけるプレッシング戦術を打ち出している。

WBがベースポジションとなるギャシだけど、監督の要請を受けてアタッキングサードでの守備にも精力的に参加している。それでいて自陣でのブロック守備にもしっかり戻って参加。守備戦術でキーマンとなっている。

 

〈FBref.comより、12節終了時点でのスタッツ〉

  • パスブロック総数:8(チーム内2位タイ
  • ディフェンシブサードでのタックル総数:12(チーム内3位タイ

 

ギャシが思い切って高い位置に出ていき、空いたスペースは右CBがスライドするのがチームの約束事となっている。

 

攻撃時にもギャシはキーマンとなる。今季のエンポリの攻撃の中心は左サイド。ペッツェッラの仕掛けを中心にインサイドハーフや2トップの一角が加勢し、クロスボールを放り込むことでフィニッシュを目指す場面が多くなっている。

この時逆サイドからゴール前に進出してターゲットになるのがギャシだ。

これこそが彼がWG時代から武器としていた能力で、2トップに加勢する「第3のFW」と化す。それをWBとして起用されても実現できるアップダウン性能は誰しもが持っているわけではない。

12節終了時点で左サイドからのクロスに合わせる形でチームトップタイの2ゴール。攻撃戦術においてもキーマンとなっている。

 

決して器用ではないギャシだが、ダヴェルサは彼の強みを見出してキーマンとして躍動させている。求められているタスクと強みがマッチして大きな輝きを見せている形だ。

かつてならワーキングウインガーと言われていたような選手で、WG分類マトリックス上では「ターゲットWG」に分類できるだろう。

シーズン終了時点で何点稼いでいるか注目だ。

 

 

その他のプレーヤー

ティモシー・ウェア(ユベントス)

ミランでバロンドールを獲得した「リベリアの怪人」ことジョージ・ウェアの息子として知られるティモシー・ウェア

彼も元々は父親同様ストライカーとしてプレーしていたのだが、徐々に両ウイングでも起用されるようになり、リール時代にサイドバックも経験してサイドならどこでもやれるユーティリティープレーヤーに変貌している。

transfermarktより、ウェアの今季の起用ポジション。

 

どんなポジションでもこなせるベースには、父親譲りのアスリート能力と確かなテクニックがある。

特に優れているのは走力で、ただ足が速いだけでなく、スプリントを繰り返しピッチの縦幅をカバーする持久力も兼ね備えている。その走力を活かし、攻守にチームに貢献するのが特徴だ。

今季のウェアは、公式戦通算6ゴールと多くの得点を記録していて、キャリアハイを更新している。

彼の得点の多くは、逆サイドから上がってくるクロスボールに合わせて決めるワンタッチフィニッシュだ。

ゴール前に繰り返し入っていく持久力と、フリーなスペースをかぎ分ける嗅覚が際立つ。

筆者個人で紀には、モッタユーベがうまくいかなかったのはパスの出し手だらけでパスの受け手がいなかったことだと思っているのだけど、そんな中でウェアは数少ないパスの受け手だった。彼が重要な得点源になっているのも納得だ。

udnerstat.comより、ウェアの得点に関してシュートを打った位置をピッチ上にプロットし、期待値の大きさを円で表したもの。ほとんどがゴールエリア内から放った期待値の大きな得点であることが特徴的だ。

 

ウェアは細かい局面を打開できるようなドリブルは持っておらず、したがってそもそもドリブル突破を仕掛ける回数が少ない。自らカットインしフィニッシュを狙うこともそこまで多くはない。

あくまでもフィニッシャーとしてはオフ・ザ・ボーラーであり、引いた相手を切り崩すようなタレントではないということだ。

 

〈FBref.comより、32節終了時点での「90分あたりドリブル突破試行数」を比較〉

  1.  5.55 コンセイソン
  2.  3.99 ユルディズ
  3.  3.46 ムバングラ
  4.  2.48 ゴンザレス
  5.  2.00 ウェア

 

逆に言うと、スピードがあるので縦に持ち出してからのクロスボールは得意のパターン。キック精度が高いため、かなり精度の高いボールが上がるイメージだ。

特に浮き球のカーブをかけたクロスは絶妙で、ぴたりとFWの頭に合わせてチャンスを演出している。

ストレートにスピードを活かしたドリブルとクロスボールの精度の高さ。こうした特性から現代では少なくなった順足ウインガーとして起用されてきたこと、それを応用してSBとしての適性を見出されたことも納得である。

 

アウトサイドレーンを持ち場とするクラシカルな順足ウインガーながら、ゴール前に入っていく嗅覚を武器に高い得点力を持つウェア。WG分類マトリックス上の「ターゲットWG」に分類できるだろう。

チームの主役になるタレントではないけど、様々なポジションで確かなパフォーマンスを見せてくれるユーティリティーな選手として今後も重用されていくのではないだろうか。

 

 

サンティアゴ・ピエロッティ(レッチェ)

昨季アルゼンチンのコロンからレッチェに加入したサンティアゴ・ピエロッティ。彼はアルゼンチン時代にユリアン・ドラクスラーと比較されてきたという。

プロで見れば足は遅い方で、ゆえにドリブル突破は得意とは言えない。データサイトFBref.comによれば、20節終了時点でのピエロッティのドリブル突破成功率は30.8%でチームで下から3番目の数字となっている。

それでは何が得意なのかと言えば、パワーを活かしたセンター3レーンでのプレーである。

184cm・83kgと重量級のピエロッティは、パワーを活かした推進力あるドリブルを持つ。引いた相手を崩すことはできなくとも、強引に距離を稼いで相手を押し込めるのは大きな武器だ。こうしたドリブルは、アウトサイドレーンよりもセンター3レーンでより活きる。

 

〈FBref.comより、20節終了時点でのスタッツ〉

  • プログレッシブ(縦方向の前進)キャリー数:24(チーム内3位
  • 90分あたりキャリーによるペナルティエリア侵入数:1.25(チーム内2位

 

さらに、オフ・ザ・ボールでもピエロッティはさかんにゴール前に進出する。これはクロスやロングボールのターゲットになるためで、持ち前のフィジカルを活かしてボールをキープし、時間を作る。

 

↓ フィジカルの強さを活かしてアシストした場面

 

また、逆サイドからクロスが上がってくる場面では積極的にゴール前に飛び込んでターゲットになる。恵まれた体格から空中戦にも強く、よきクロスターゲットとなる。

アルゼンチン時代には巧みなラインブレイクから得点もしていて、ラストパスの引き出し手として優秀なプレーヤーだ。

 

また、非保持時の献身性もピエロッティの魅力で、献身的にプレスバックしてサイドバックをサポートし、また敵陣へと繰り出していく。プレッシングにも労を惜しまないその姿勢は、残留を争うクラブにとっては理想のプロフィールだろう。

FBref.comより、ピエロッティを5大リーグのウインガーと比較したときのパーセンタイル。守備に関するスタッツは軒並み高数値だ。

 

優れた持久力とパワーを武器にピッチの縦幅をカバーし、献身的な守備とターゲット性能、推進力でチームに貢献するピエロッティ。古くからある言い方でいえば「ワーキングウインガー」ということになるだろう。

WG分類マトリックス上では「ターゲットWG」に位置付けたい。

シーズン途中に新監督に就任したマルコ・ジャンパオロは、4-3-3をスタートとしながらも両ウイングを中央に絞らせシャドー化させるシステムを採用している。

このタスクはピエロッティの武器とぴったり合致していて、ハマり役となっている。1トップのニコラ・クルストビッチがさかんに定位置を離れる傾向にあるだけに、ピエロッティのターゲット性能は補完性抜群だ。

決して派手ではないが、レッチェの戦術上の陰のキーマンである。

 

 

カットインシューター

第一人者

リッカルド・オルソリーニ(ボローニャ)

7歳からアスコリ一筋で育ち、2018冬に加入したボローニャでイタリア屈指のウインガーに成長したリッカルド・オルソリーニ彼の最大の武器は高い得点能力だ。

22-23、23-24と2シーズン連続で2桁得点を記録していて、今季もすでに17試合で7ゴール。高い得点率を記録している。

 

〈FBref.comより、25節終了時点のスタッツ〉

  • 90分あたりゴール数:0.60(セリエA5位

 

なぜオルソリーニは得点を量産できるのか。

彼の得意な得点パターンはふたつある。

ひとつは「カットインフィニッシュ」だ。これはオルソリーニと言えば、の代名詞で、セリエAファンであれば誰しもが納得してくれるのではないだろうか。

ずんぐりとした体格のオルソリーニは見るからにパワー系で、左足に強烈なキャノン砲を装備している。ペナルティエリア外からでもゴールを射抜ける強烈な一撃は、試合の流れを変えてしまえる飛び道具だ。

 

↓ セリエA公式も「トレードマーク」として紹介。オルソリーニと言えばこれだ。

 

さらに、縦に持ち出してからの右足でも決定的なプレーをできる。その選択肢があることが、余計にオルソリーニのカットインを止められにくくしている。

パワフルさは右足でも変わらず、角度があればそのままニア上をぶち抜けるし、角度が無くなればGKとDFの間に鋭いクロスを折り返してチャンスメイクでいる。いずれも相手にとって大きな脅威だ。

 

この両方の選択肢を持つために、オルソリーニは「ペナ角」を意識しているように見える。カットインしつつペナルティエリア角に差し掛かったタイミングで縦か内かに持ち出す。この位置からであれば、ひとつ持ち出した後もクロスとフィニッシュ両方の選択肢を持てる。

これを意識し始めたのはチアゴ・モッタの指導を受けてからという印象で、それ以降オルソリーニがシーズン2桁得点を記録し続けているのも納得だ。

 

そして、オルソリーニにはもうひとつ得意な得点パターンがある。それは逆サイドからのクロスに合わせる形だ。

オルソリーニは左サイドにボールがあるとき、相手DFの死角からゴール前に侵入していくスキルに長けている。相手につかまらず、いいボールが入ってくればファーで詰めて得点に結びつける。

 

また裏のスペースをアタックするランニングにも長けている。

相手SBにつかまらないように大外からハーフスペースへ絞り込んでかく乱したり、味方がパスを出せるタイミングでスピードを上げてラインブレイクしたりと、これまたチアゴ・モッタの指導を受けて以降パスを引き出すムーブが急速に向上した印象だ。

オン・ザ・ボールの強烈なカットインフィニッシュにフォーカスされがちなオルソリーニだけど、ボールを持たずとも相手の脅威となれるプレーヤーなのである。

 

フィニッシュ精度は年々磨きがかかっている印象で、非保持時にも献身的に貢献(90分あたりパスブロック数はWG陣の中でトップだ)するなど充実したパフォーマンスを継続しており、今冬にはミランが獲得に動くなどリーグ屈指のアタッカーであることは間違いない。

WG分類マトリックス上の「カットインフィニッシャー」の第一人者に位置づけて問題ないだろう。

28歳と年齢的にも実パフォーマンス的にも全盛期。今後も要注目のタレントだ。

 

 

プロビンチャの注目株

デニス・マン(パルマ)

2021年冬、ルーマニアリーグ史上最高額の1500万€でパルマに加入したデニス・マン。今季で在籍5シーズン目で、加入シーズン以来のセリエA参戦となっている。

15節終了時点で4ゴール3アシスト、パルマ最大の得点源かつチャンスメーカーとなっているマン。彼は典型的なカットインウインガーだ。

トップスピードでもタッチが乱れない高速ドリブルが売りで、常に足元にボールを置きながら相手に飛び込ませないようなボールの持ち方ができる。

相手が無理に飛び込んでくれば、ひとつの持ち出しだけですり抜けられるだけのキレもある。

スピードに乗った状態での仕掛けが得意なだけに、パルマのように縦に速いスタイルを志向するクラブでこそ最大限輝くプレーヤーだ。

 

〈FBref.comより、15節終了時点でのスタッツ〉

  • ドリブル突破成功数:19(セリエA7位

 

このドリブルを武器にアウトサイドからカットインし、フィニッシュを狙っていく彼の十八番である。

 

逆サイドにボールがあるタイミングでは大外からボックス内に侵入してくるのも得意で、味方に使われる形でのゴールも決めている。プレースタイル的にはフィニッシャー寄りで、WG分類マトリックス上の「カットインシューター」に分類できるだろう。

 

そんなマンだけど、実はキーパス数がセリエAトップの31(FBref.comより、15節終了時点)で味方を活かすプレーがぐんぐん向上中。3アシストと結果も出ていて、「マスターWG」に近づいて行っている印象だ。

リーグ全体としても左WGと比較して右WGはタレントが少ない中、チームの核となれるだけの資質を持っているマンを欲するクラブは多いだろう。

今後の活躍、そしてシーズンオフの動向に注目したいプレーヤーである。

 

 

期待の若手

ルーム・チャウナ(ラツィオ)

アフリカの中でも最貧国のひとつ、チャドで生まれたルーム・チャウナ。フランスに移住し、名門レンヌのユースで育成を受けてフランスの年代別代表に選出されながら育ってきた。

そんな彼は左利きの右サイド。当然アウトサイドからカットインしながらのプレーを狙っていくことになる。

その中で特徴的なのは、彼のカットインがフィニッシュに至ることに特化されていることにある。

スタッツを見てみるとわかりやすいので、ウインガー陣(CF起用も多いノスリンは除外)の中でのチャウナの立ち位置を見てみよう。

 

〈FBref.comより、16節終了時点でのスタッツ〉

  • 90分あたりドリブル突破試行数
  1.  3.98 イサクセン
  2.  3.14 ザッカーニ
  3.  2.65 ペドロ
  4.  2.14 チャウナ

 

  • 90分あたりキャリー数
  1.  32.1 チャウナ
  2.  28.6 ザッカーニ
  3.  28.6 ペドロ
  4.  26.9 イサクセン

 

  • 90分あたりシュート数
  1.  5.08 チャウナ
  2.  2.15 イサクセン
  3.  1.83 ペドロ
  4.  1.65 ザッカーニ

 

まずドリブルに関して。チャウナはほかのウインガーと比較すると、突破するための仕掛けのドリブルが最も少ない。だけど、運ぶドリブル(キャリー)は一番多くて、ドリブルをしないプレーヤーではない。

引いた相手を打開するために仕掛けるようなプレーが少ないことが読み取れる。

そして、シュート数が最も多い。それも、2位イサクセンにダブルスコアをつけていることから、フィニッシュへの積極性は特筆すべきものだと言えそうだ。

つまり、チャウナは相手を突破するのではなく、空いたスペースへとボールを運びながらシュート機会をうかがうことを得意とする生粋のカットインフィニッシャーというわけだ。WG分類マトリックス上の「カットインシューター」に分類されるべきプレーヤーなのである。

 

左利きだけど、切り返してからの右足でも鋭いシュートを飛ばせるのはGOODポイント。特に左利きだと逆足精度が低い選手が多い中で、差別要素となりうる武器だ。

 

得点力に優れるチャウナだけど、ここまでリーグ戦は先発わずかに1試合。ライバルたちに後れを取っている。その要因は何なのか。

今季のラツィオは、WGに対してハーフスペースでのポストプレーを求めている。チャウナはフィジカルを活かして相手を背負うプレーに関してはすでにできていて、起点を設けることはできている。強さという意味ではWG陣の中でも一番かもしれない。

だけど、ボールを収めた後の球離れが悪くてチームの流れを淀めてしまう嫌いがある。もっとシンプルに味方を使っていればチャンスになったのに…という場面は結構あると思う。

受ける前の相手を剥がすための駆け引きやポジショニングの修正などもまだ足りておらず、現状はフィジカル任せのポストプレーと言った印象だ。

このタスクに関して大きな成長を見せて適応したイサクセンに定位置を奪われているのは象徴的だろう。チャウナにも成長が求められる。

 

ただ、センター寄りでプレーするようになったことでハーフスペースからのダイアゴナルランによる裏抜けという新たな武器を身に着けつつあるのは成長点。

今までは自ら持ち込んでのフィニッシュしか選択肢になかったけど、味方に使われてラストパスを引き出すことでのフィニッシュも選択肢に加わりつつあるようだ。

 

2024夏に加わったラツィオではまだ定位置確保には至っていないチャウナ。とはいえまだ21歳の若者で、大きな伸びしろを残しているととらえたい。

バローニのもとでの成長に期待したいところだ。

 

 

その他のプレーヤー

アレクシス・サーレマーケルス(ローマ)

母国ベルギーの名門アンデルレヒトで育ったアレクシス・サーレマーケルス。2020冬にミランに加入してからイタリアでキャリアを積み重ねている。

サーレマーケルスSBからWGまで、左右どちらもこなせるサイドのスペシャリストだ。どこに置かれても求められるタスクを高いレベルでこなしてくれる、有用なユーティリティープレーヤーである。

FBref.comによるパーセンタイルを見ると、SBとしては攻撃のスタッツが振り切れていて、WGとしては非保持のスタッツが振り切れている。両者のちょうど中間に位置するようなプレースタイルの持ち主である。

それが可能な背景には、90分間献身的なアップダウンを繰り返せる持久力というフィジカル的な側面と、両利きであるという技術的な側面との両面からの裏支えがある。

非保持時、チームがプレッシングに出ていったときには積極的に前に出て追随し、あるいは先陣を切って相手に圧力をかけに行く。

それでいながら献身的にプレスバックし、相手のアタッカーに対して積極的にタックルを仕掛けて自由を与えない。

エリア別のタックル数のランキングで、サーレマーケルスはディフェンシブサードにおいてローマのスカッドの中でトップのタックル数を記録している。彼が自陣まで戻り、守備に参加していることの強力な裏付けである。

上述のランキング。DFたちが上位を占める中、トップに立つサーレマーケルスが異色の存在だ。

 

こうしたワーキングウインガー的な側面を持っていながら、サーレマーケルスはただの献身的なワイドプレーヤーにあらず。ウインガーとして攻撃的なタスクを任せてもハイレベルにこなすのが彼のスペシャルなポイントだ。

テクニックレベルが高く、テクニカルなドリブルを持っているサーレマーケルス。体の向きでフェイクをかけつつ瞬間的な加速で相手を置き去りにする形を基本に技巧的な細かいボールタッチを交えることで、狭いエリアを打開するプレーを得意としている。

 

かつてはドリブルとクロスボールによるチャンスメイクが最も得意とするプレーだったサーレマーケルスだけど、ボローニャに移籍して以降得点力を高めている。

今季はすでにキャリアハイの6ゴールで、チーム2位タイの得点源となっている。

サーレマーケルスの主な得点パターンはカットインフィニッシュ。サイドから切り込み、ファーサイドに決める。

これを両サイドからできるのが彼の特別なポイント。基本的には右利きながら、右サイドからカットインし左足でフィニッシュできる。その精度がどんどん高まり得点力が上がってきた印象である。

こうした形がメインゆえ、彼の得点は期待値が小さいシュートから生まれることが多い。FBref.comによれば、「実得点数-ゴール期待値」の数値が4.1でセリエA3位とのことだ(数値が大きければ大きいほど期待値を上回る得点数を決めている)。

 

ミラン加入当初は献身的なワーキングウインガーという印象だったサーレマーケルスだが、保持時のクオリティを大きく向上させ得点関与率が高まったことで、攻守両面に大きな影響を及ぼすサイドのスペシャリストとして大成しつつある。

今回はWG分類マトリックス上の「カットインシューター」に分類したけれど、細かいドリブルを武器にする「クイックネスドリブラー」にも近く、汎用性の高いプレーヤーであるといえる。

「チームに1台サーレマーケルス」と言われる日も近いかもしれない。

 

 

アンドレア・コルパーニ(フィオレンティーナ)

名門アタランタユースで育成を受けたアンドレア・コルパーニは、モンツァでブレイクし今季フィオレンティーナに引き抜かれたアタッカーだ。

サッカー選手とは思えないスリムなモデル体型。長髪イケメン。スター性抜群である。

このままフィオレンティーナの新たな象徴になるのか…と思っていたけど、そううまくはいかなかった。今季ここまで2ゴール1アシストと、期待以下の成績に終始している。

 

そもそもコルパーニの強みとは何だっただろうか。

彼は右サイドからカットインしつつ、得意の左足でシュートとアシストを生み出すプレーヤー。ハーフスペースを主戦場に、「斜め45度」から攻撃を司るモダンなアタッカーである。

WG分類マトリックス上の「カットインフィニッシャー」に分類したいプレーヤーだ。

SofaScoreより、コルパーニの今季のヒートマップ。右サイドからカットインしつつプレーしていることがわかりやすい。

 

リーチが長くてタッチがやわらかいドリブルは優雅と形容するのが一番で、ゆったりとして見えるけどリーチが長いからその動きについて行くのは容易ではない。

ハーフスペースから攻撃を司るコルパーニは、相手を突破しきらずにクロスを上げる場面も多い。左足から放たれるボールはやわらかく、味方の頭に届く。

さらに、長い足をムチのようにしならせることでパワフルなミドルシュートを放つことも可能。ペナルティエリア外からでも相手ゴールを強襲できる。

そのプレースタイルは、アタランタの先輩ヨシプ・イリチッチにそっくりだ。

 

また、コルパーニは逆サイドからのクロスボールに対して飛び込み、ターゲットになることもできる。

サイズがあってヘディングは苦手ではないようで、積極的にゴール前へ走り込む。「ターゲットWG」としての側面も持っているわけだ。

ドリブル突破力ではイリチッチに及ばないものの、ターゲットになる能力に関してはコルパーニが一枚上手だろう。

 

それでは、なぜ彼はフィオレンティーナではなかなか活躍できていないのか。

ひとつは今季のフィオレンティーナがダイレクト志向を強めたスタイルを採用しているからだろう。コルパーニは足元にボールを呼びこんでなんぼの選手。長いボールが飛び交えば強みは生かせない。

もうひとつは、大外で幅をとるタスクを強く要求されているから。そこまでダイナミズムを持っていないコルパーニは、大外に固定されると中央エリアに入っていけない。だから、おのずと「ターゲットWG」としてのタスクを担うことも減り、フィニッシュに絡む頻度が減ってしまうのだ。

 

持っているタレント的にはここでくすぶっているような選手ではない。今季終盤戦、そして来季の捲土重来に期待したいタレントである。

 

 

オラ・ソルバッケン(エンポリ)

ノルウェーの名門ボデ・グリムトで活躍しASローマに引き抜かれたオラ・ソルバッケン。ただなかなか出場機会を得られず、レンタル生活を繰り返している。浦和レッズの次に加入したのがエンポリだ。

前線ならどこでもプレーできる汎用性を持つソルバッケンだが、どのポジションで起用されても高い得点能力を武器にする。その得点シーンを動画などで見てみると、右サイドからカットインしてきてフィニッシュにつなげているものが多い。

understat.comより、ソルバッケンのシュートに関して打った位置をピッチ上にプロットし、期待値の大きさを円で表したもの。サンプルが少ないとはいえ、「右斜め45度」が大半を占めていることを理解するには十分だろう。

 

そのプレースタイルゆえ、最も輝くのは右ウイングとして起用されたとき。最前線で起用されたときにも、さかんに右サイドに流れてくる印象だ。

今季のエンポリでのメインポジションは右のシャドー。ほとんど右ウイングに近い。彼の最も得意とするポジションのハズだ。しかし、彼はなかなか活躍できず、定位置を確保できないままここまでノーゴール。なぜなのか。

そもそもエンポリのチーム戦術的に攻撃機会が少ない。だから得意のフィニッシュに持ち込む機会も少ない!というのは置いておいて…。

攻撃機会が少ないチームにとっては、奪ったボールをキープし、確実に攻撃機会につなげてくれるアタッカーが大変重宝する。むしろその能力を持っていなければなかなか起用できない。

対して、ソルバッケンは起点になる能力があまりにも低すぎた。186cm・80kgと大柄なのに相手を背負うのが下手で、コンタクトプレーが意外なほどに得意ではない。

加えて、そもそもセンター3レーンでの顔出しが得意ではなかった。相手の背中に隠れてパスコースを提供できていない状況が継続し、味方としてはうまくサポートしてもらえていない気分だっただろう。

前線ならどこでもやれるという触れ込みだったが、いざ蓋を開けてみたら足元にボールを引き出してなんぼの超純粋なウインガーだった、といったところか。

 

↓ サイドからカットインしてからのフィニッシュ。股抜きなど、シンプルな仕掛けが彼の身上だ。

 

WG分類マトリックス上の「カットインシューター」に分類されるソルバッケン。実際のプレーを見るまではユーティリティーなプレーヤーだと思っていたが、プレー選択肢がかなり限られている印象。ゆえにいろいろなクラブで苦労しているのだろう。

自身のプレースタイルがうまくハマるチームに出会えれば、再び輝きを放てるかもしれない。

 

 

カウンターエース

その他のプレーヤー

グスタフ・イサクセン(ラツィオ)

デンマークリーグ得点王の称号を引っ提げてラツィオにやってきたグスタフ・イサクセン。バローニ新体制下で右ウイングのファーストチョイスに定着している。

デンマーク時代のゴール集を見ていると、その多くはカウンター局面から決まっていることがわかる。これはラツィオに来てからも変わっていなくて、オープンスペースで仕掛けながらのフィニッシュというのがイサクセンの最も得意な得点パターンとみて間違いなさそうだ。

これがラツィオに来てから得点数が思うように伸びていない原因ともつながっているのではないか。

保持型のスタイルを好むサッリのもとスタートした昨季はもちろん、バローニ政権となった今季もラツィオはどちらかというとボールを握って戦うチームだ(16節終了時点で、平均保持率は上から8番目の54.1%)。

だから、イサクセン得意のカウンター局面からのフィニッシュはそこまで出現してこないのだ。

 

スペースがない状態では無理をしないというのはドリブルに関しても同じで、相手が引いて守りを固めている場面では無理な仕掛けはせず、味方を使いながら相手のブロックに隙を見出そうとする。

良い言い方をすれば無理なプレーをしないイサクセンだけど、悪い言い方をすれば無難で怖さがないとも言える。

ただ、彼のドリブルは狭い局面でも十分に通用するものに見える。ボールを常に足元に置きながら両足を器用に使いこなし、コースを変え、タイミングをずらしながら突破していく様子はメッシにさえ見える。

あくまでデンマーク時代はプレー集しか見ていないので印象でしかないが、得点王になったシーズンでは相手が引いていてもお構いなしにガンガン仕掛けているように感じる。

そうなると、問題はメンタル面なのかもしれない。ゴールという数字がついてくれば、姿勢も変わってくるかもしれない。選手育成に長けたバローニのもとでの覚醒に期待したい。

 

イタリアに来てから成長した部分もある。それがハーフスペースに移動してのくさびの引き出しだ。

特にバローニ政権下に入った今季に顕著で、絶妙なタイミングで内に入り込み、相手のライン間に起点を設けるプレーはラツィオの縦に速いビルドアップにおいて重要な役割を果たしている。

スタッツもこれを後押ししていて、FBref.comによるとイサクセンの「プログレッシブ(縦方向の前進)パスレシーブ総数」は118でセリエA4位。10節前後にはセリエAトップだった

縦パスを受けてそのまま前向きにドリブルで運び、仕掛ける。新しいプレーパターンを習得しつつあるようだ。

ライン間に侵入し縦パスを引き出すイサクセン
そのまま前を向き、仕掛けていく。今季イサクセンが習得したプレーパターンだ。

 

持っているタレントはスーペルなもので、今はまだその半分も引き出せていないのではないか。バローニのもと殻を破って完全覚醒してもらいたいところだ。

 

 

 

ティジャニ・ノスリン(ラツィオ)

昨冬に加入したエラス・ヴェローナで活躍し、わずか半年でラツィオにステップアップを果たしたノスリン。しかし、今のところラツィオでは定位置奪取に至っていない。

これは彼のプレースタイルとラツィオが志向する戦術との相性があまりよくないからだろう。

ノスリンの最大の武器は直線スプリントの速さ。数歩でトップスピードに乗って相手を置き去りにするスピードは圧巻だ。

これを活かし、裏のスペースへ抜けだしたり、あるいはシンプルなスピード勝負による突破から得点を奪うのがノスリンのオランダ時代からの得意な形である。

一方でアジリティに関しては特別優れているわけではなく、巻いて決めるミドルシュートもそこまで得意ではない。だから、引いた相手のブロック内に切り込んでいくような突破は得意とはしておらず、スペースがない時にはシンプルに味方を使って自身はゴール前でラストパスを待つような場面も多い。

前線ならどこででもプレーできるノスリンだが、その中でも現代では少なくなってきた順足ウイング(右サイド)での起用が多い。これはスピードを生かした縦突破からのクロスに集中させるのが最も歩留まりがいい選択だったということなのだろう。

というわけで、ノスリンはWG分類マトリックス上でいうところの典型的な「カウンターエース」のプレーヤーというわけだ。

 

昨季のヴェローナは、縦に速いビルドアップとカウンターを基軸に置いた攻撃を採用していた。これとノスリンのスタイルがマッチしていたからこそのブレイクだった。

対してラツィオはよりボールを握って攻撃する場面が多く、前方にスペースがないことが多い。だからこそ、彼のプレースタイルが輝く場面が少ないのだ。

 

ただ、バローニ監督はノスリンをあえて左サイドで起用し、カットインからフィニッシュに持ち込む形を鍛えさせようとしている。彼のプレーの幅を広げて、戦力として組み込むためのあえてのチャレンジだろう。

これが実ったジェノア戦のゴールは、今後への期待を感じさせるものだった。

来季にはマトリックス上の全く異なる位置にプロットされる選手になっているかもしれない。

 

 

シリル・エンゴンゲ(ナポリ)

ベルギーで生まれ、オランダで開花したシリル・エンゴンゲ。エラス・ヴェローナでの活躍を受けて、2024冬にナポリに加入して間もなく1年になる。

エンゴンゲはスピード豊かなウインガーだ。爆発的なスプリント力を持っていて、カウンター局面で最も輝くプレーヤーである。

ドリブルもスピードに乗った状態で仕掛け、そこからの切り返しで一気に勝負をつける形が最も得意だ。

 

逆に言えば相手に引かれた局面では強みが活きず、攻撃を停滞させてしまう嫌いもある。密集地帯を抜けるような細かいドリブルは持っておらず、かといってクロス精度も特別高いわけではないのだ。

ナポリ加入後苦戦しているのは、相手を押し込んで戦うことが多いチームにおいては輝けるスペースを見出すのが難しいからかもしれない。プロビンチャに移籍しリスタートを切った方が状況が好転するのではないか。

というわけで、彼はWG分類マトリックス上の「カウンターエース」に分類すべきプレーヤーだろう。

エラス時代の輝きをまた取り戻してもらいたいものだ。

 

 

ゴリブラー

第一人者

シャルル・デ・ケテラーレ(アタランタ)

クラブ・ブルージュでブレイクし、2022夏にミランに加入したシャルル・デ・ケテラーレ。ミランでは0ゴール0アシストと期待を裏切ったものの、アタランタで復活。セリエAを代表するアタッカーのひとりに名乗りを上げている。

王子様系なルックスのデ・ケテラーレだけど、実は本質はフィジカルな選手。今回、WG分類マトリックス上の「ゴリブラー」に分類したのも、彼のフィジカル性能の高さゆえだ。

192cmとサイズに恵まれるデ・ケテラーレは、相手を押さえ込んで2人の間を割って突破したり、DFを背負ってポストプレーを見せたりとフィジカルを活かしたプレーをレパートリーに持っている。

ガスペリーニ監督から最前線で起用される試合もあり、相手を背負えるスキルは名伯楽からも評価されているようだ。

 

〈FBref.comより、28節終了時点でのスタッツ〉

  • プログレッシブ(縦方向の前進)パスレシーブ数:170(セリエA9位

 

さらに、デ・ケテラーレはそこから強引に真を向き、相手を押し込むことができる。いわゆる「ワイドポスト」で、これはガスペリーニ監督がアタッカー陣に強く求めているスキルだ。

 

↓ 相手を抑え込み、デュエルを制して決めた得点。この強さこそデ・ケテラーレの魅力である

 

こうした強引な突破こそデ・ケテラーレの魅力で、フェイントを駆使した技巧的な突破よりも光って見える。

前を向いた時には、緩急と細かいボディフェイクを駆使しながらシンプルに突破するのが彼のスタイルだ。

大きなフェイントは使わないデ・ケテラーレだけど、常に足元にボールを置きながら相手の飛び込みをけん制し、急加速や切り返しなどで勝負を決める。

相手の重心を読んだり、タイミングをずらしたりと言った洗練された感覚がなければできない芸当である。

 

〈FBref.comより、28節終了時点でのスタッツ〉

  • キャリーによるペナルティエリア侵入数:33(セリエA8位

 

 

得点に関与するプレーでも貢献度が非常に高い。

ベルギー最終年では公式戦通算14ゴール7アシスト。アタランタ初年度の昨季は公式戦通算14ゴール11アシスト、今季もここまで(28節終了時点)公式戦通算11ゴール10アシスト。いずれも共通しているのは、ゴールとアシストのバランスが非常に取れていることだ。

先ほども触れたように、デ・ケテラーレ常に足元にボールを置きつつルックアップし、相手や周囲の環境を観察しながらプレーしている。その視野の広さとフリーな味方を躊躇なく使えるいい意味でのエゴのなさ、イメージを具現化する優れたスキルがあるからこそ、アシスト数が非常に多いのである。

もちろんフィニッシュ能力も高い。カットインしながらのフィニッシュの他、豪快なゴラッソから長身を生かしたヘディングまで多彩なフィニッシュパターンを持つ。

 

特にゴール前でターゲットになれるのは意外かもしれないが、これも立派な彼の武器。アタランタでの初ゴールもヘディングで奪っている。

 

ゴール前でターゲットになる以外にも、オフ・ザ・ボールの動き出しからラストパスを引き出すのも巧みだ。スペースを突くランニングからバックステップで角度と距離を作る動きまで洗練されている。使われる側としても優秀なのだ。

 

↓ ゴラッソの前、相手から離れるステップに注目。

 

今回はWG分類マトリックス上の「ゴリブラー」に分類したデ・ケテラーレだが、極めて「マスターWG」に近い万能プレーヤー、とまとめることができるだろう。

ミラン時代にビッグクラブのプレッシャーからか本来のプレーができなかったことを考えても、彼の課題はメンタル面にあるといえる。

本来のパフォーマンスを発揮できれば間違いなくワールドクラスだけに、メンタル的に充実した状態をいかに作れるかが真のスターになれるかどうかの分水嶺となるだろう。

 

 

プロビンチャの注目株

ガブリエル・ストレフェッツァ(コモ)

ガブリエル・ストレフェッツァはイタリア系ブラジル人。ユース時代にSPALに加入して以来イタリアでキャリアを築いている。

168cmと現代サッカー選手としては非常に小柄なストレフェッツァ。しかしながら、ガッチリとした体格をしていて非凡なパワーを秘めている。小柄ゆえに機動力は高く、テクニックレベルも高い。パワー系の司令塔として注目に値するタレントである。

ストレフェッツァは右ウイングが定位置ながら、そこから大きく離れてプレーする傾向にある。特にセンターエリアに頻繁に顔を出してゲームメイクや崩しの局面に絡み、攻撃においてクオリティを発揮する。

プレーエリアの広さがストレフェッツァを理解するためのキーポイントである。

SofaScoreより、今季のストレフェッツァのヒートマップ。中央に大きく広がったヒートマップが特徴的である。

 

中央エリアでプレーするためには、360度相手に囲まれてもプレーできるビジョンとテクニックが必要である。ストレフェッツァはそれを持っている。

加えて、相手とのコンタクトが激しくなる中央エリアでは、近年特にフィジカルを求められる傾向が強まりつつある。ストレフェッツァはそれを持っているのだ。

レッチェ時代にはロングボールのターゲット役に指名されるなど、相手を背負ってキープするプレーはストレフェッツァの得意技。低身長ながらパワーでは相手DFに全く引けを取らず、体を巧みに使って起点となる。

そこから前を向き、強引にボールを運ぶこともできる。これがストレフェッツァをWG分類マトリックス上の「ゴリブラー」に分類する理由である。

 

〈FBref.comより、31節終了時点でのスタッツ〉

  • 縦パスレシーブ総数:137(チーム内2位
  • 被ファウル数:63(セリエA4位

 

起点となった後は、持ち前の機動力を活かしてサイドと中央を縦横無尽に行き来しながらチャンスメイクに絡む。

正確なキックを武器にアタッカー陣を操り、チャンスを作り出していく様はまさに司令塔だ。

 

〈FBref.comより、31節終了時点でのスタッツ〉

  • キーパス総数:47(セリエA6位

 

↓ ストレフェッツァのアシストシーン

 

パワフルなキックが持ち味のストレフェッツァは、優れたミドルシューターでもある。

カーブをかけず、インステップで思いっきり打ち抜くストレートボールは見ていて気持ちがいい。レッチェ時代から含めて考えてみても、彼が得点力の高いアタッカーであることは明白だ。

 

パワーとテクニックを融合させ、コモの攻撃を引っ張るストレフェッツァ。加えて非保持時の積極的なボールハントも持ち味で、アタッカーながらタックル勝利数はセリエA7位と上位にランクインしている。

知る人ぞ知る好プレーヤー。コモの試合を見る際にぜひ注目してみてほしい。

 

 

トップ下WG

第一人者

ペドロ・ロドリゲス(ラツィオ)

2010ワールドカップ優勝メンバー、ペドロ・ロドリゲス。37歳で迎えた今季は絶好調で、公式戦通算19試合7ゴール4アシストと大暴れしている。

2列目ならどこでもこなせるペドロ。彼の戦術理解度の高さがそうさせている面ももちろんあるけど、それよりも重要なのは彼のプレースタイルがポジションを問わないリンクマンだからだ。

とにかく気の利いたポジショニングができて、相手のMFライン手前とライン間を出入りしながらボールを引き出しては循環させてチームにリズムを生んでく。チャンスがあれば前を向いてラストパスを狙っていく。そのスタイルは、WG分類マトリックス上の「トップ下型WG」の手本たるべきものだ。

両利きペドロは狭い局面でも巧みにボールキープが可能。かつてはそこから強引に相手を剥がして長距離キャリー…なんて荒業も持っていたけど、さすがにそこまでのパワフルさはなくなった。

ただ、その分シンプルにボールを回すから、よりチームにリズムを刻めるプレーヤーになった印象だ。

 

↓ ライン間でボールを引き出してからのアシストシーン

 

よりゴールに近い位置でボールを受ければ、シュートを積極的に狙っていく。

シュート技術の高さはさび付いておらず、正確にゴールの四隅を射抜く。しかも両足で、だ。

シュートを打つ前のボールを受ける位置も含めて、お手本になるプレーヤーである。

 

守備での貢献度の高さも見逃せない。

単純にプレッシングに奔走できることはもちろんのこと、出ていくときには常にパスコースを消せるよう周囲の状況を確認しながら出ていくし、ほかの味方が出ていった場面でははっきり相手を消してパスコースを限定させるなどプレッシングを機能させるための個人戦術の高さが光る。

いくつものタイトルを獲得してきた歴戦のペドロが先陣を切ってプレスに出ていく姿は、若手が多いラツィオにあってそれだけで価値あるもの。

プレーで手本となれる彼の存在は、間違いなくラツィオの今季好調の要因となっているはずだ。

 

37歳にして全盛期をほうふつとさせる躍動を見せるペドロ。今が旬のプレーに注目だ。

 

 

プロビンチャの注目株

ニコラ・ヴラシッチ(トリノ)

2007年と2009年の2度走り高跳びの世界チャンピオンに輝いたブランカ・ヴラシッチを姉に持つニコラ・ヴラシッチ。今季からトリノのナンバー10を背負っている。

システム変更によって最も得意なトップ下のポジションが消滅した影響で昨季から比べて出場機会を減らしているが(18節終了時点で先発は6試合にとどまる)、限られた時間ですでに1ゴール3アシストと結果を残しているのはさすがの一言だ。

178cm・72kgとずんぐりとした体格のヴラシッチ。見た目にはパワー系でいかにもゴリゴリと仕掛けていきそうな見た目をしている。

実際、彼がパワフルなシューターであることは間違いない。ひとたび右足を振れば、強烈なシュートでゴールの四隅を射抜く。多少ゴールから距離があっても相手の脅威となるミドルシューターだ。

 

非利き足の左足でも変わらない質のキックが蹴れるのも魅力的。相手が右足を切ってくれば、迷わず左に持ち出して振り抜ける。

 

フィニッシュの場面ではその秘めたるパワーを開放するヴラシッチだけど、実はそこが本質ではない。

彼の基本的なプレースタイルはテクニカルなチャンスメーカーでありラストパサーだ。

無駄にボールをこねることなく、フリーな味方を見つければすぐさまパスを供給してチャンスを逃さない。そのベースにあるのはフリーな味方を見逃さない視野の広さと、常にパスを出せる位置にボールを置く繊細なタッチだ。

シンプルかつ繊細なプレーで狭いスペースを苦にしない。決してフィジカル任せにパワーでねじ伏せることはなくて、むしろその逆。確かな技術によってライン間で輝くタイプのテクニカルなプレーヤー、というのがヴラシッチなのである。このギャップが面白い。

 

↓ この場面のように、少ないタッチでシンプルなパスをつなぐので目立たないことが多いヴラシッチ。シンプルなパスを積み上げた結果としてアシストが重なっていく、そんなプレーヤーだ。

 

パスで攻撃を作るチャンスメーカーで、時折見せる強烈なミドルとのニ本柱というアタッカー、ヴラシッチ。今季はインサイドハーフで起用されていることからMF枠で考えるか迷わしいところだったが、本来的には2列目のアタッカーなのでWGとして分類してみたい。

ウインガーとしてはかなりインサイドでのプレーに特化していてプレースタイルはややチャンスメーカー寄り。WG分類マトリックス上にプロットすると「トップ下型WG」に分類されるプレーヤーだろう。

得意なポジションにおいてやれば10GAは計算できる優秀なアタッカーだと思う。それだけに、今季インサイドハーフで起用されているのを見ると持ち味が制限されている印象を受けてしまう。それでも数字を残しているところはさすがだが。

クロアチア代表に定着していることからも、「プロビンチャの注目株」として取り上げるにふさわしいタレントだろう。

 

 

期待の若手

アナス・ハジ・モハメド(パルマ)

チュニジア人の父とモロッコ人の母との間に生まれ、イタリアで育ったアナス・ハジ・モハメド。代表はチュニジアを選択していて、まだ19歳ながらA代表で4キャップを刻んでいる。

ベースポジションは右ウイングのハジ・モハメドだけど、そのプレースタイルは極めてトップ下的だ(実際、今季はすべての試合でトップ下としてプレーしている)。

狭いスペースでのプレーを苦にしない安定したテクニックと、相手を剥がす独特のタイミングのボールタッチ、持ち出し。少ないタッチでボールを離して相手の守備ブロックを収縮させるなど、ライン間で輝くプレーヤーなのだ。

そうしたテクニック面だけでなく、上下動を繰り返せる走力もハジ・モハメドの魅力。足元にボールを要求するばかりでなく、スペースを突くランニングで味方をサポートできるのは好印象だ。

また、ハジ・モハメドは守備に対しても献身的。トップ下のポジションながらウインガーが戻り切れないと見れば積極的にサイド深い位置に戻って穴埋めを図る。そこからカウンターが発動すればロングスプリントで攻撃に厚みを加える。

しっかりと自陣に引き込んだ守備とカウンターが求められるペッキア・パルマの戦術にあって、ハジ・モハメドの献身性は高く評価されているはずだ。

 

↓ カウンター発動時、後方から追い越して得点を奪った場面。

 

さらに、ハジ・モハメドはプレッシングが非常に巧み。しっかり相手のポジションを確認し、必ずパスコースを一つ切りながら前に出ていくから後の味方が連動しやすい。

他の選手がプレスに出ていったときには、パスが出て来そうな相手選手をマークして選択肢を確実に削ぐ。こうしたプレーが19歳できちんと身についているのはすごいことだ。

味方が相手CBにプレスをかけている場面、ハジ・モハメドは相手のレジスタをマークしている。
別のCBに横パスが出たのを受けてプレスに出ていくハジ・モハメド。この時、自分がマークしていたレジスタへのパスコースを消しながら出ていっているのがポイント。
GKへのバックパスをそのまま二度追い。ここでもCBへのパスコースを切りながら出ていっている。
この後、ショートパスをつなごうとしたところを味方が引っ掛けて得点につながっている。ハジ・モハメドが得点を演出した場面と言っても過言ではない。

 

このように、攻撃的なプレーヤーながら守備での貢献度が非常に高くなっているハジ・モハメド。狭いスペースでもボールを持てる能力を活かして攻撃時にはライン間で崩しのハブとなり、味方に選択肢を与えている。

タイプ的には「トップ下型WG」と言えるだろう。

豊かなタレントを花開かせるためには、ゴールやアシストなど数字に直結するプレーの頻度を上げていきたい。そのためには、キック精度をさらに上げていく必要があるだろう。

今後の成長を注視したいタレントだ。

 

 

スピードドリブラー

第一人者

ダン・エンドイェ(ボローニャ)

スイス人の母とセネガル人の父の間に生まれたダン・エンドイェは、高速ドリブルを武器とするアタッカーだ。

エンドイェとにかく足が速い。縦にボールを蹴りだし競走するだけで相手を置き去りにして突破できてしまう。だから、彼のドリブルは直線的。レーンを敷き、相手とスピード勝負に持ち込む。

特にカウンター局面で大きく輝き、中盤低い位置からトップスピードに乗れば彼を止めるのは非常に困難。長い距離を持ち運び、局面を転換する飛び道具だ。

 

〈FBref.comより、32節終了時点でのスタッツ〉

  • プログレッシブ(縦方向の前進)キャリー数:118(セリエAトップ
  • キャリーによるペナルティエリア侵入数:43(セリエA5位

→とにかく縦に距離を稼ぐストレートなドリブルなので、プログレッシブ(縦方向の前進)キャリー数がセリエAトップなのも納得だ。

 

さらに、エンドイェはボディバランスにも優れ、コンタクトプレーを苦にしない優れたフィジカルも持ち合わせている。

その特性を活かし、相手を背負ってポストプレーをすることもできる。サイドに起点を設けられるその特性は、サイドからの前進を重視するイタリアーノにとって願ったりかなったりなものだろう。

相手を背負った状態でボールを受けるだけでなく、そこから横に逃げてドリブルを開始、相手を剥がして距離を稼ぎ、敵陣まで進攻する。単独で局面を転換する能力の高さはまさに戦術兵器である。

 

〈FBref.comより、32節終了時点でのスタッツ〉

  • プログレッシブ(縦方向の前進)パスレシーブ数:200(セリエA7位
  • 被ファウル数:82(セリエAトップ

→縦パスのターゲットとしてリーグ有数であることがデータでも裏付けられている。そうしたプレー特性や、一度スピードに乗ったら止められないドリブルも相まって、被ファウル数はリーグトップだ。

 

 

長距離ドリブル&ポストプレーで、運ぶ局面への貢献度が極めて大きいウインガーであるエンドイェ。昨季までは、崩す局面での貢献度が課題だった。

特に決定力がめっちゃ低く、「それ外すん⁉」というミスも多くみられていた。昨季はゴール期待値4.9に対して実得点は1だけ。さすがに外しすぎである。

ところが、今季は一転して決定力が覚醒。ここまでリーグ戦8ゴールでチーム2位タイの得点源となっているのだ。そんなに伸びることある⁉

 

エンドイェはドリブラーだけど、自分でドリブル突破からフィニッシュ!という場面は少ない。なくはないけど、そういう場面ではやっぱりシュートを打つまでにガス欠していて決まらない。

彼が得点するときは、たいてい逆サイドからのクロスボールに飛び込んで決めている。直線的にゴール前に飛び込み、点で合わせて完結する場面が多くみられている。

イタリアーノがサイド攻撃を重視するスタイルを取ったことで、サイドからのクロスボールという場面が増えたこともエンドイェにとって追い風になっているのだろう。

 

というわけで、運ぶ局面から崩す局面まで、トータルでの貢献度が非常に高い完成されたウインガーへと成長したダン・エンドイェ。右サイドが本職ながら左サイドでも起用可能で、スイス代表ではウイングバックで起用されるなどサイドならどこでもやれる汎用性も魅力だ。

今回はWG分類マトリックス上の「スピードドリブラー」に分類したけど、「ゴリブラー」「ターゲットWG」としての性質も備えた、万能なプレーヤーである。

得点力が向上した今、エンドイェはどのクラブも欲しがるタレントだろう。メルカートでの動向にも注目したいところだ。

 

 

期待の若手

ガエターノ・オリスタニオ(ヴェネツィア)

インテルのプリマヴェーラ出身のオリスタニオは、オランダのフォレンダムに2年間レンタルされていた。昨季のカリアリでセリエAデビューし、今季ヴェネツィアに完全移籍している。

そのヴェネツィアで完全に攻撃の核となっているオリスタニオ。なにせ、ドリブル突破成功数でセリエAトップの数値をたたき出しているのだ。

 

〈FBref.comより、14節終了時点でのスタッツ〉

  • ドリブル突破成功数:31(セリエAトップ
  • 被ファウル数:35(セリエA2位

 

ドリブルの3つのスタイル「ゴリブル」「クイックネスドリブル」「スピードドリブル」の中で、オリスタニオは「スピードドリブル」に当てはまる。

特に数mのショートスプリントの爆発力は半端ではない。いったんスピードを緩めて相手の足を止めた後、急加速して一気に相手の前に出るのがオリスタニオの形。

難しいフェイントは使わず、緩急を駆使しながら突破していく。

小柄な体も味方して、すり抜けるようにして相手の前に出るドリブルは爽快感抜群だ。わかっていても止められない、そんなドリブルだろう。

 

オリスタニオの突破からのアシスト

 

当面の課題はドリブルで突破してからのプレーの精度を上げていくことだろう。スピードを上げたところから正確なクロスやスルーパスを供給できるようになれば、怖さは倍増するはずだ。

得点力に関しても磨きをかけたい。トッププレーヤーを目指すうえで避けて通れないのが自らゴールという数字を残すこと。点が取れないトップウインガーはいない。

そういう意味では、ゴール期待値2.7に対して実得点が1はあまりにもさみしいところだ。

 

近い将来のアッズーリ入りも期待したい逸材。スピードドリブラーながら、突破のために必要なスペースが広くないことから引いた相手を崩すことが多いビッグクラブでの活躍も可能だろう。

今後の成長を見守りたいタレントだ。

 

 

その他のプレーヤー

ポントゥス・アルムクビスト(パルマ)

スウェーデン出身のウインガー、ポントゥス・アルムクビストはロシア、オランダ、ポーランドを渡り歩き、昨季レッチェに引き抜かれてイタリアに上陸した。

アルムクビストの武器はドリブルだ。その中でも、「スピードドリブル」に振り切ったものだといえる。

左利きの右ウイングとしてプレーすることが多いアルムクビストだけど、スプリントを活かした縦突破の方を得意としている印象が強い。相手と正対して動きを止め、そこから縦に持ち出しスピード勝負に持ち込むというのが彼の最も得意とする形だ。

カットインフィニッシャーとしてプレーするにはボールタッチの繊細さやシュートテクニックが不足している。WG分類マトリックス上の「スピードドリブラー」に分類できるだろう。

 

スペースがあればあるほど輝くタイプで、相手を押し込んだ局面よりもカウンター局面での長いドリブルの方が相手の脅威となる。

だから、カウンター志向のパルマとは相性がいいのだ。

ペッキア監督は、その中でもよりスペースが生じやすい後半途中からアルムクビストを投入してカウンターの威力を維持させるような起用法をとっている。

ジョーカーとして有用なプレーヤーであり、今後もチームを助ける役割を求められていくのではないだろうか。

 

 

ジョナタン・イコネ(コモ)

コンゴ民主共和国で生まれフランスに移住したジョナタン・イコネは、エンバペとともにボンデイのユースアカデミーで育成を受け、PSGを経てリールでブレイク。21歳でフランスA代表デビューを果たすなど、早くから将来を期待されたタレントだった。

しかし、フィオレンティーナではなかなか芽が出ず、今季ついに買取りオプション付きレンタルでコモに放出されている。

なぜイコネはイタリアで苦戦しているのか。その要因は彼のプレースタイルにあると思う。

イコネは足が速い。かなり速い。しかもアジリティ抜群で、切り返しが非常い鋭い。ギュンギュン系のドリブラーだ。

ドリブラータイプ分類で行くと、「クイックネスドリブラー」と「スピードドリブラー」を合わせたイメージだ。

でも、彼のドリブルの特徴を一言でまとめると「高速ドリブル」。これに尽きる。

イコネはトップスピードに乗った状態でも全くボールタッチが乱れない、稀有な存在。常に足元にボールを置きながら高速移動し、相手に突っかかっていくようにして仕掛けていく。これでは、相手はなかなか飛び込めない。こんなドリブル、なかなかできる選手はいない。率直に言って凄いと思う。

でも、そんなすごいドリブラーのイコネだけど、ドリブル突破の成功率は低い。

 

〈FBref.comより、31節終了時点でのコモのWG陣の「ドリブル突破成功率」を比較〉

  1.  44.4% ストレフェッツァ
  2.  40.0% ファデラ
  3.  33.3% イコネ
  4.  24.1% ディアオ

 

なぜなのか。

理由は2つあると思う。

ひとつは、スピードを上げすぎていること。常にトップスピードということは、テンポの変化がないということ。スピードが速いのは厄介だけど、ついて行くことさえできれば怖くない。

突破できるドリブラーは、みんな緩急の使い手だ。イコネには、「急」はあっても「緩」がない。

加えて、スピードを上げるとそれだけ周囲を観察する余裕がなくなる。これは誰にでも当てはまる真理だ。

イコネは常にトップスピードなので、あまり視野が広くなく、周りをいいタイミングで使ってあげられない場面が見受けられる。周りが見えないから結局強引に単独突破を仕掛け、潰されることも多い。悪い時には、あまりにも独善的に見えてしまう。これもスピードを上げすぎてしまう弊害だろう。

 

もう一つの理由は、セリエAとリーグ・アンの環境の違いにある。

イタリアではどのチームも組織的にスペースを埋め、サイドアタッカーが仕掛けてきたら複数人で対応してくる。だから、スピードを上げて突っかかっても相手ブロックに吸収されてしまう。

1対1であれば、高速ドリブルと切り返しだけで相手をきりきり舞いにさせることができるけど、対複数人であれば周りとの連携も大切になってくる。

リーグ・アンでは今よりスペースがあったようだが、セリエAはそうではない。

こうした環境に未だ適応できていない。これがイコネの現状ではないだろうか。

 

とはいえ、リーグアン時代からの強みである得点力の高さは健在。左足からパワーと精度のあるフィニッシュを持っているイコネは、うまく斜め45度のゾーンに入ることさえできれば脅威となる。今季もカンファレンスリーグを軸に公式戦通算6ゴールを挙げている。

加えて高速ドリブルは相手を押し込むことには非常に有用であり、ペナルティエリアへ侵入する能力はかなり高いといえる。

そこからのフィニッシュを得意とすることから、「カットインシューター」としての側面を持っているプレーヤーだといえる。

 

〈FBref.comより、31節終了時点でのスタッツ〉

  • 90分あたりキャリーによるペナルティエリア侵入数:2.17(チーム内トップ

 

スキルの平均値は高いだけに、それを適切に活用し、周囲とも連携できるようになれば殻を破れるタレントだと思う。

セスク監督との出会いがきっかけになることを願いたい。

 

 

クイックネスドリブラー

第一人者

フランシスコ・コンセイソン(ユベントス)

ミランの監督、セルジオ・コンセイソンを父に持つフランシスコ・コンセイソン。ポルトからのレンタルという形で今季からユベントスに加入している。

170cmとサッカー選手としては小柄なコンセイソンだけど、その小柄さは彼の武器。抜群のアジリティと加速性能で相手の間をすり抜けていく、非常にクイックなドリブラーだ。

ボールを持ったらとにかく相手と正対し、仕掛けていく。その積極性はスタッツによく表れている。

FBref.comによれば、90分あたりのドリブル突破試行数は5.55。これは異常な外れ値だ。1000分以上に出場した選手の中ではセリエA3位に入る。

 

〈FBref.comより、32節終了時点での「90分あたりドリブル突破試行数」を比較〉

  1.  5.55 コンセイソン
  2.  3.99 ユルディズ
  3.  3.46 ムバングラ
  4.  2.48 ゴンザレス
  5.  2.00 ウェア

→ユーベの他のウインガーたちと比較しても、コンセイソンのとびぬけ方は異常だ。

 

コンセイソンのドリブルは細かいボールタッチで相手の間を華麗に抜けていくようなスタイルではない。タイミングを外した持ち出しとそこからの急激な加速で相手を置き去りにする、直線的なドリブルが得意。「切り裂く」というワードがしっくりくるそれだ。

有名な選手でいえば、エデン・アザールに似ていると思う。

 

その急加速するタイミングを読まれないための細かいフェイクこそ彼の真髄。これにより相手の足を完全に止めることで飛び込ませないのがコンセイソンの憎いところ。うまく相手の足を止めてじりじりと自分が勝負できるスペースに引きずり込んでいくのだ。

コンセイソンが仕掛けの目安にしているのはペナルティエリアに入った直後だと思う。だから、自身がペナルティエリアに入るまでフェイクを入れながらじりじりと相手を押し下げていく。これは、スタッツにもよく表れている。

 

〈FBref.comより、32節終了時点でのスタッツ〉

  • キャリーによるペナルティエリア侵入数:45(セリエA3位

 

コンセイソンへの対応がさらに難しいのは、彼が仕掛けを匂わせながらそのままクロスを上げてくるところ。

足元にボールを置き、いかにもそこから持ち出して急加速してきそうに見せかけながら、ボールをすくい上げるようにしてクロスを放ってくる。

前述のように、コンセイソンに正対されると相手は飛び込めない。だから、コンセイソンは相手に邪魔されることなくクロスを上げられる。

このドリブルとクロスのダブルパンチにより、コンセイソンはセリエA屈指のチャンスメーカーとなっているのだ。

 

〈FBref.comより、32節終了時点でのスタッツ〉

  • 90分あたりアシスト期待値:0.36(セリエAトップ

 

まだ22歳と若いコンセイソンだけど、WG分類マトリックス上の「クイックネスドリブラー」の第一人者と称して問題ないレベルにあるだろう。

さらに得点に関与する頻度を上げられれば、ワールドクラスの領域が見えてくる。

そこに向けて気がかりなのは、細かい負傷離脱の多さだ。今季だけでケガにより毎シーズン負傷離脱によって10試合前後の試合を欠場している。

transfermarktより、コンセイソンの負傷による欠場試合数。

 

プレースタイル的にもフィジカルコンディションが整わなければ最大限のパフォーマンスを発揮できない系統のプレーヤーだけに、今後ケガによりキャリアに傷がつかなければいいが。

逆に言えば、シーズン通して安定して試合に出場できれば、おのずとスタッツも伸びていくのではないだろうか。

 

 

期待の若手

マティアス・スーレ(ローマ)

ユベントスの下部組織出身で、昨季フロジノーネで大ブレイクを果たしたマティアス・スーレ。今季からローマに加入しプレーしている。

スーレは、昨季ドリブル突破成功数がセリエA最多だったドリブラーだ。

彼のドリブルの特徴は、細かいボディフェイクと加減速、キックフェイントやタイミングを外した持ち出しなどで相手の逆を突く巧みさ。対峙するDFの重心を読み取る眼はまさに天才的で、いとも簡単に相手が出している矢印を折って突破してしまう。

対戦相手からすれば止めに入ろうとすればするほどその逆を突かれるため、対応が非常に困難なドリブラーだ。

 

スーレはただのドリブラーにあらず、高いキック精度を持っている。ドリブル突破した後のクロスボールからプレースキックまで、その左足をチャンスメイクにフル活用する。

特にこすり上げるようにして蹴るインフロントのキックは秀逸。パワーはないものの、カーブしてピンポイントで狙った点に合わせるキック精度の高さは特筆ものだ。

 

ドリブルからキックまで高いテクニックを持っていて、左足でカットインしながら攻撃を操るスーレ。キャラクターとしてはディバラと被る部分がある。

だが、ディバラの域に達するためにはまだ成長しなければならない部分がある。それが得点能力だ。

昨季11ゴールを挙げたスーレだが、そのうち5つはPKによるもの。流れの中からの得点力に関しては、さらに増強の余地がある。

スーレは万能なタレントだけど、「マスターWG」とはせず、チャンスメーカー寄りの「クイックネスドリブラー」に分類するのは得点力がまだ十分に高いとは言えないからだ。

understat.comより、スーレのシュートに関して打った位置をピッチ上にプロットし、期待値の大きさを円で表したもの。緑が実際に得点になったものを示している。

 

上の図を見ると、スーレのシュートは全体的に期待値が小さく、ペナルティエリア外から打たれたものが多いことがわかる。

ただ一方、実際に得点につながった緑色の円を追ってみると、ゴールに近い位置から放たれた期待値の大きなものがほとんどを占めていることがわかる。

ゴール前でフリーになってシュートを打つ場面が少ないにもかかわらず、実際に得点につながっているのはそうしたシチュエーションなのだ。

ここから読み取れることはふたつある。

ひとつは、ミドルシュートに関しては試行数に対して結果が伴ってきていないということ。

いくら精度が高いとはいえ、緩いボールではセリエAのハイレベルなGKたちには弾きだされてしまう。パワーがない以上、さらに精度を上げるか、ミドルシュートを匂わせながらほかの選択肢をとる回数を増やすかして工夫したいところだ。

もうひとつは、ゴール前に入っていく頻度を上げれば得点数がさらに伸びるだろうということ。現状得点につながっているシチュエーションを多く再現できれば、おのずと得点数が増えていくはずだ。

非常にテクニックレベルが高いスーレが足元にボールを引き出したがるのはよくわかるのだが、それを押し殺してボールの受け手としてふるまう能力も必要になるだろう。

ディバラは、スーレよりも使われるのがうまい。だから点が取れるのだ。

 

現状WG分類マトリックス上の「クイックネスドリブラー」としているスーレだが、ポテンシャル的には「マスターWG」にまで成長するべきタレントである。

そのために得点力を向上させ、チームを勝たせるプレーヤーになってもらいたいところだ。

 

 

 

その他のプレーヤー

ダビド・ネレス(ナポリ)

CLベスト4に躍進したテン・ハフのアヤックスでブレイクしたダビド・ネレス。ベンフィカでの2年間を経て、今夏ナポリに加入している。

レフティーのネレスは右サイドが本職ながら、左サイドでもプレー可能なウインガーだ。シーズン途中のクヴァラツヘリアの退団を受けて、今季はむしろ左サイドでのプレーが多くなっている。

左利き左サイドとなると縦突破からのクロスボールが定石だけど、ネレス内外の切り返しを駆使して器用に内に進路を取れる。基本的に左足しか使わないのだけど、縦にも内にも持ち出せる縦横無尽さをもっていて不思議なドリブラーだ。だから右サイドだろうが左サイドだろうが関係ないんだろう。なんだかディ・マリアっぽい。

WG分類マトリックス上では「クイックネスドリブラー」に分類されるプレーヤーだろう。

 

ディ・マリアと比べるとネレスはよりスピードがあって、切り返したあと瞬間的に加速して相手を置き去りにできる。だから、一度進み始めると手が付けられなくなる。

シーズンに何度かは単独突破からスーパーなプレーを披露してくれる選手である。

 

こうしたドリブラーとしての個人技は間違いなく持っているネレス。ただ、それをうまく数字に結び付けきれていない印象だ。

一度ドリブルに入ると単独突破に偏りがちで、端的に言えば球離れが悪い。味方を活かすのがあんまりうまくないのだ。

落ち着いて周りを観察できる状況を作ればそうでもないんだけど、ドリブル突破を仕掛け始めると周りが見えなくなる嫌いがあるように見える。

 

そうした特性ゆえ、パフォーマンスにムラがあって、シーズン通して安定したプレーができているかと言われると疑問符が付く。これまでのキャリアでシーズン2桁得点、2桁アシストを記録したのは17-18シーズンのみとなっている。

良くも悪くもピーキー。それがネレスの良さでもあり弱点でもあるわけだ。だから、キャリアを通して途中出場からジョーカー起用される試合が多かった。

ところが、クヴァラツヘリアの退団という出来事を経て、ナポリではその代役として定位置を確保。継続して試合出場を果たしている。

数字が伴っていないが、パフォーマンスの波はおさえられている印象。シーズン終盤にかけてナポリをスクデットに導く活躍を継続して見せれば、いよいよ殻を破るかもしれない。

シーズン終盤戦、クラブにとってもネレスにとっても正念場だ。

 

 

サムエル・チュクウェゼ(ミラン)

「ナイジェリアのロッベン」の愛称で呼ばれるチュクウェゼ。本家と比べるとよりチャンスメーカー寄りのプレーヤーだ。

彼の最大の武器はドリブル。ビジャレアル最終年の22-23にはドリブル突破成功数がラ・リーガ3位、欧州5大リーグ5位にランクインするなど屈指のドリブラーとして鳴らした。

彼のドリブルには決まったパターンがある。スピードに乗った状態で突っかかり、一瞬スピードを落としてから急加速する、あるいは内に小さく切り返してから縦に大きく持ち出す。緩急を活かしたドリブルの使い手なのだ。

このドリブルの肝は、緩のタイミングで相手に飛び込ませること。そうして逆を突く形で一気に相手を置き去りにするのが彼のお決まりのパターンなのだ。

ところが、イタリアのDFたちは簡単に飛び込んでかわされることを嫌い、どちらかと言えばスペースに重きを置いて少し距離を置いて対応する傾向にある。チュクウェゼのお決まりパターンに乗ってこないDFが多いわけだ。

スペインでは飛び込んできたタイミングで相手が飛び込んでこない。感覚を狂わされたに違いない。

この違いゆえ、イタリアではスペイン時代ほどのドリブル突破成功を記録できていないのが現状だ。

 

それならばと、ブロックの外からのクロスボールでチャンスメイクする形を多く用いるようになっているチュクウェゼ。結果こそついてきていないけど、16節終了時点で90分あたりアシスト期待値0.25はチームトップ、セリエA6位の数字。

得意の縦への持ち出しができるよう懐にボールを置きながら、左足ですくい上げるようにボールを送り出す独特のフォームでチャンスメイクには成功している印象だ。

 

とはいえ、最も得意なのはドリブルで相手の守備網を切り崩すプレー。ここが輝くことなしにチュクウェゼの完全覚醒はありえないだろう。

オープンなスペースがあればカットインしてそのままフィニッシュという形も持っているだけに、もっとやれる選手なはず。今後の奮起に期待したいところだ。

 

 

ジョン・イェボア(ヴェネツィア)

父はガーナ人、母はエクアドル人、生まれと育ちがドイツという異色のプロフィールを持つイェボア。エクアドル代表に継続して招集されている実力者だ。

彼のプレースタイルを一言でまとめると、体のキレを前面に押し出したドリブラー、となる。

急加速と急減速にまたぎフェイントを織り交ぜたテクニカルなドリブルを武器に相手を翻弄しチャンスの糸口を作っていく切り込み隊長。ボールを持てば何かを起こしてくれそうな雰囲気を持っている。

生まれも育ちもヨーロッパなのに、古き良き南米のストリート出身ドリブラーの雰囲気をまとっているのが面白い。

 

↓ イェボアのアシストから生まれた得点

 

イェボアのドリブルは、上位クラブでも攻撃のメインウェポンとなれるだけのクオリティを持っていると思う。それでも、リーグ戦半分が経過した現時点でもヴェネツィアで定位置奪取に至っていない。

どうしてかというと、彼はあまりにもポジショニングが悪すぎるからだ。

特に、アウトサイドに張っていれば足元にボールが入ってくるウイングとは違って、ひとつインサイドにポジションをとることが多いシャドーではよいポジショニングなしにボールを受けることはできない。

ここまで唯一の先発出場だったウディネーゼ戦では、なかなかボールを受けられないまま45分で交代を命じられている。

オープンな展開になりやすくボールを受けやすい、なおかつドリブルができるスペースができやすい後半にジョーカーとして起用するというのがディ・フランチェスコのアンサーなのだろう。

 

WG分類マトリックス上の「クイックネスドリブラー」に分類されるイェボア。ドリブルだけに話を限れば、非常に高いクオリティを持っている。

それだけに、ポジショニング含めた戦術面が向上すれば大化けする可能性がありそう。

見た目に反してまだ24歳で伸びしろが残っており、今後の成長に期待したいところだ。

 

 

ジュニオール・メシアス(ジェノア)

元冷蔵庫配達員でおなじみジュニオール・メシアス。彼のサクセスストーリーはもはや語るまでもないくらい知られるようになった。

まだ知らない方はGoogleで検索してみてほしい。

 

メシアスの特徴のひとつに、高いユーティリティー性がある。

もともと右ウイングが本職のメシアスだけど、前線ならどこでもやれるし3センターの一角として中盤でも起用できる。

transfermarktより、23-24のメシアスの出場ポジション。

 

どのポジションでも起用できるのは、豊富な運動量と確かなテクニック、それに非保持時の献身性を持っているからだ。

特に中盤での起用が多かった昨季のスタッツを見てみると、チームトップクラスのタックル数を記録している。

 

〈FBref.comより、23-24のスタッツ〉

  • 90分あたりタックル数:2.22(チーム内3位
  • 90分あたりタックル勝利数:1.71(チーム内2位
  • 90分あたりディフェンシブサードでのタックル数:1.62(チーム内トップ

 

絶対数が多いだけでなく、エリア別にみるとディフェンシブサードでのタックル数が多いというのがミソ。自陣ゴール前まで戻って守備に参加していることの裏付けだ。

ブラジル人アタッカーながらここまでの献身性、苦労人ゆえにいい意味でブラジルらしくない。

 

攻撃面では、縦への推進力あふれるドリブルが魅力だ。

かなりスピードがあると同時に確かなテクニックも持ち合わせていて、長い距離を単独で運んで距離を稼いでくれる。オープンスペースがあれば積極的に縦にボールを運ぶのがメシアスの特徴である。

 

〈FBref.comより、32節終了時点でのスタッツ〉

  • 90分あたりプログレッシブ(縦方向の前進)キャリー距離:105.9m(チーム内トップ
  • 90分あたりプログレッシブ(縦方向の前進)キャリー数:3.50(チーム内2位
  • 90分あたりキャリーによるファイナルサード侵入数:3.33(チーム内2位

 

 

「スピードドリブラー」なメシアスだが、自らフィニッシュまで持ち込むプレーはあまり得意とはしていない

あくまで中盤から前線をつなぐ運ぶドリブルが得意なのであって、狭い局面の打開は不得手なのだ。

彼のフィニッシュシーンを見ると、味方からのラストパスを引き出すポジショニングやランニングの質が際立つ。ゴール前に飛び込んでクロスに合わせるようなものも多い。

ターゲットWG」としての側面も持っているというわけだ。

 

 

昨季、今季と負傷離脱が相次いでなかなかコンスタントにプレーできていないメシアス。

好プレーヤーだけにもっとプレーを見たいところだ。もうすぐ34歳を迎えるベテランのラストダンスに注目してみてほしい。

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